第3話 巡り合って異世界
痛い
痛い。痛い。
痛い。痛い。痛い。
とにかく痛い。体がどうにかなりそうだ。痛すぎる。なんでこんなに痛いんだ。まるで体中の骨が粉々になったようだ。痛みで頭が働かないがこのままでは命に関わる。せめてこの痛みの原因だけでも解明しなければ。死を少しでも遠ざけるために。
原因。原因だ。思い出せ何があった。
家を出て、猫を追いかけて、それからーーー
「っ!!」
何があった思い出し、叫び声を上げようとしたが痛みで声が詰まった。
今まで意識だけ目覚めて、体は眠っていたようだ。
この痛みの原因を探るために閉じていた瞼をあげ、自分の体を確認する。
横になっていた体を何とか起こして最初に確認しようとしたのは自分の足。
足の痛みが特にひどいのだ。
目に映ったそこには焼けただれた足があった。
火傷は深度で、そして三段階評価で表すと聞いたことがある。深度1が一番軽く、深度3になると移植が必要になるらしい。
俺の足は見るからに自然治癒はしなさそうだ。つまりは、深度3。いや、それ以上にひどいかもしれない。焼けただれた足の皮膚に今朝までの肌の色はない。
足の被害は火傷だけではなく、骨折もしているようだ。
あの高さから落ちたのだから当然だろう。むしろよく骨折で収まったと思う。
現実感もないままに自分の焼けただれた足を見続ける。そうしていれば、治るような気がした。
治るわけがない。
この足はもうだめだろう。誰が見てもそう思うはずだ。
さっきまで感じていた全身の痛みは足を見てからのショックのせいか感じなくなっていた。
「大丈夫?」
茫然としていると声をかけられた。
声のした方向に目を向ける。俺から見て右手に一人の少女が桶を抱えて立っていた。長く青い髪と髪よりは薄い青色の瞳を持つの目鼻立ちの整った、美しい少女。どことなく冷たい印象を受けたが、その目に宿る優しそうな光を見てそうではないと感じた。
俺は彼女の美しさに目を奪われた。
痛みを完全に忘れて。
猫以外の存在にこんなにも目を奪われたのは初めてだ。
「今けがを治す。もう少し我慢して。」
この美しい少女は何を言っているのだろう。
このけが治る?そんなわけないだろう。
そうか、治すのはけが。火傷とは言ってない。きっと全身の痛みの原因と思われる体中のけがを治してくれるのだろう。
屁理屈にも似たことを考えていると少女が胸の前で手を組み、祈るようなしぐさをする。
「癒しを、そして安らぎを。」
少女がそんな言葉を発すると全身に心地よいぬくもりを感じた。
ぬくもりだ。
痛みではない。
正確には痛みも感じるのだが、目を覚ましてから初めて痛み以外のものを感じた。
「楽になった?」
少女の言葉に頷きを返す。
戸惑いからそんな返事しかできなかった。
「そう。でも足のほうはまだ治療が必要。」
再び祈るようなしぐさをする。
今度は全身ではなく足にぬくもりを感じる。足を見てみると光に包まれ、光のなかで少しずつ火傷と骨折が治っていくのがわかる。
先ほどよりも長い祈りの後に少女に声をかけられる。
「これで、大丈夫。もう安心。」
治療完了の言葉と共に目を合わせられて、またもや目を奪われそうになる。
「今のは?どうやって治したんだ?」
見惚れそうになったのをごまかしながら質問をする。あの火傷が治るとは思えなかった。とても気になる。まあ、なんとなく想像ができるが確認のためにも聞く。
「治癒魔法のこと?」
魔法。やはりそうか。
ドラゴンがいるんだ。魔法ぐらい不思議でも何でもないのだろう。
痛みも治まり、火傷のショックから抜けだした今なら冷静に考えることができる。
「まだ痛む?」
考え込んでいた俺を見て、勘違いをしたようだ。
「痛みはもう感じない。治してくれてありがとう。」
今度はこちらから視線を合わせてお礼を言うと、少女は少し驚いたような顔をする。
「これ飲んで。近くの湖で汲んだ水。」
少女の表情の変化が少し気になったが、差し出された桶に入った水をもらい飲む。
ドラゴンに会ってからというもの走って、転んで、叫んで、痛みにうめいてとのどが渇いていた。初めは手で水を汲んで飲んでいたが、渇きに耐えられず桶を抱えて桶から直に水を飲む。
俺の姿に少女が驚くような気配を感じたが気にせず桶の水を飲みほした。
「ありがとう。助かったよ。」
もう一度目を見てしっかりとお礼を言う。
またも驚くいたような表情をする少女。
「名前は?私はフィール。」
少女ーーフィールからの質問。
「椎崎 信也。よろしく。」
「シザシーヤ?」
誰だ。そいつは。
「椎崎 信也だ。シ・ン・ヤ。」
「シンヤ?」
「そう。シンヤだ。」
若干イントネーションがおかしい気もするが問題ないだろう。
ドラゴンがいて、魔法があって、髪が青い少女がいる世界。
ここはきっと異世界だ。少なくても日本ではない。
「シンヤ。覚えた。」
先ほどから少し気になっていたが、フィールのしゃべり方はどこかぶっきらぼうだ。一言が短い。
まあ、しゃべり方程度で俺の感謝の気持ちは揺るがないが。
「あのけが、なんで?」
気になるのも当然だろう。
自分で言うのもなんだがあれは重傷だった。治した当人だし、隠すこともないので正直に話す。
「ドラゴンに追われた。」
「へ?」
さっきまでの美しいというよりも、可愛いという感想を持った。
「ドラゴンに?なぜ?」
「猫を追いかけたら、ドラゴンに追われた。」
「馬鹿にしてるの?」
そう思うのも当然だが真実だ。
さて、どうやって信じてもらおうか。
こんな感じで俺とフィールは出会ったのだ。
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