01【殺牙/encounter】①

 ――その日の空は哀しい程に紅に染まっていた。


 "彼女"は立っていた。周りの建造物はことごとく破壊し尽くされ、至る所に瓦礫が転がっている、まるで終焉を迎えた様な世界で。空は暗雲が立ち込め、僅かな隙間から紅の光が差し込む。一匹の黒いカラスが瓦礫から飛び立ち空の彼方へ消えて行った。"彼女"の前には一人の女性が立ってた。彼女はまるで全てを――かつて予感した未来を無想し、呆れ果てた様な目をしていた。

 

「……"■■■"よ……。貴様は分からぬのか。もうこの世界は行き詰った。未来など……いいや、人類おまえたちが紡ぐ世界の未来に……希望等もう存在しないと。我々は悟っていたのだ……この世界を導くのは貴様ら人類でも血鬼祓けっきばらいでもない。吸血鬼わたしたちだと……」


 彼女は"彼女"に説得するかのように語り掛ける。だが"彼女"は納得していないのか首を振っていた。


「いいえ。簡単話よ。不必要なのは、お前達吸血鬼。それだけは確かよ。何もかも奪って言ったお前達こそが不要よ。奪う事しか出来ない哀れな生命いのち。それが吸血鬼よ!」

「――分かり合えぬか。なら、次こそ貴様の命を奪うまで。我々の様なこの哀れな生命に奪われるしかない下等な貴様らを今ここで全て滅ぼしてやろう――」


 彼女はそう告げると、空から巨大な刀が6本も降下し、彼女の周りをまわる。それを見て"彼女"も刀を構えた。そして刹那、二人は互いを殺す為、駆けだした――。







「――い……ま…………い……――――舞!」


 ――朝霧舞あさぎりまいは、その声で目を覚ました。何か夢を見ていた気がする……。が、その内容はもう覚えていなかった。


「ほら、舞。早く起きないと学校の時間だよ」


 彼女に声を掛けていたのは彼女の父親、雄進ゆうしんだった。舞は「あ、おはよう、お父さん」と言いながらベッドから降りる。


「おはよう、舞。うなされてたみたいだけど、怖い夢でも見たかい?」

「え……そう……なのかな?」


 舞はさっきまで見ていたはずの夢を思い出そうとするが、頭痛がしてそれは出来なかった。ふらふらとしながら彼女はリビングへ降りて行った。

 テレビからニュースキャスターが最近起きた事件の概要を説明する声が聴こえる。


『今年2月未明に発生した男性の失血死事件ですが――』

「最近は物騒で困るなあ……。舞も帰るときは気を付けるんだよ、なるべく誰かと一緒に帰る様にしたりとか」


 雄進は少し不出来な卵焼きを口に運びながら言う。


「大丈夫だって、葉月と帰れる時は一緒に帰ってるからさ」


 舞は彼が作った朝食を食べ終わると、制服のリボンをしっかりと結んだ。すると、家のインターホンが鳴る。


「お、葉月ちゃんのお迎えかな?」

「そうみたい。じゃあ、行ってきます!」


 舞はソファーに置かれていた鞄を手に取って玄関へ向かった。その玄関に置かれていた袋に入れられた竹刀をも肩にかける。雄進も一度朝食を食べる手を止めて、舞の見送りに向かう。

 舞が学校指定の靴を履いてドアノブに手を掛ける。


「――舞、気を付けて。いってらっしゃい」と、彼は笑顔で舞にそう言った。

「分かってるよー。いってきます、お父さん」と、舞は少し恥ずかしがりながらドアから出て行った――。




    VAMPIRE KILLING 01




 アスファルトに覆われた大地を穿つ音が、街中に響いている。ここ、東京都新宿区の隣に位置する街『祓間はらいま』市では、咲き狂った桜を散らすように、雨が降っていた。いきなりの雨だったのだろうか、街を行き交う人々の中には傘を持っていない者もいた。

 時間は十八時。学生達は授業の後の部活を終え、社会人たちは残業をする者や飲みに向かう者を除けば帰路に向かう時間帯である。そのためか、傘を持っていない者大半に彼らが含まれていた。

 一瞬、空を閃光が覆い尽くすと、何秒か遅れてから心臓に響くような思い爆音が聞こえた。おそらく、遠くで雷が鳴ったのだろう。すると、雨はより一層強くなっていった。


 雨の中を、一人の少女が傘も差さず駆けていた。着ていたセーラー服は雨に濡れ、下着がうっすらと浮き出し、肩に背負っている学校制定鞄も、少し古びた竹刀袋も雨に濡れ水滴が滴っている。そして、彼女の美しいその銀髪に付着した雨粒がネオンに照らされ輝き、より美しく見えた。

 少女――朝霧舞あさぎりまいは、所属する剣道部の練習が終わると、彼女がすぐに着替え荷物を持ち出して市立祓ノ原中学校から下校してきた。いつもならば、友人たちとゆっくり喋りながら帰るのだが、今日はそういうわけにはいかない。その理由は雨が降っているからだ。まさか今日が雨降りになるとは朝起きた時には思わなかった。よく雄進が折り畳み傘を入れておけと言っていたが、いう事を守れば良かった……。


 彼女が家の前に辿り着いたのは、学校を出て十三分後だった。あたりは妙に静かだ。というよりも、周りの家屋に電気が点いていない。

 舞は、ずっと走り続けていたのにも関わらず、息はあまり上がっていなかった。昔からスタミナはかなり高かったからだろう。雨にずぶ濡れになった身体で彼女は家のドアに手を掛けた。

 ガチャリ。音を立ててドアが開く。


「……なんで開いてるの?」


 舞は思わずそう呟いた。いつもは、父が在宅中でも用心のために施錠されている。しかし、今日はそうではなかった。容易くドアが開いたのだ。

 ――まさか空き巣?。そんな考えが脳裏に浮かんだ。焦りの表情を見せる舞は、そのままドアを開け、玄関に入る。ふと、彼女はドアを見た。ドアを開ける際に違和感を感じていたからだ。


「鍵が……壊れてる……!?」


 ドアにある鍵は完全に壊されていた。

 舞の焦りの表情は直ぐに恐怖へと変貌した。鍵が壊されている――。そんなこと、ただの生活を送るだけではありえない。やはり、誰かが……。舞は靴も脱がずに玄関からリビングに向かう一本の廊下を走って行った。

 舞は、リビングに入るドアを開いた。


「お父さん!!」


 その声は、むなしく響いた。破壊の限りを尽くされた、そのリビングに。

 二人用の黄色いソファーはズタズタに引き裂かれ、中の綿がはみ出し、液晶テレビの画面はひび割れ、食事をとるためのテーブルは足が折れ、フローリングにテーブルの上部が落ちていた。そして、そのフローロングはいたるところが血に染まり、酸素に触れたのか、黒く変色もしていた。窓はすべてが割れているか、ヒビが入っていた。

 いったい、何があったらこのような惨状になるのだろうか。このリビング一帯が、戦闘によって荒廃したかのように見える。

 舞の目に、何かが見えた。それを、舞は少しずつズームして捉えていく。ある程度何かとわかっても、舞はそれを拒否することはできなかった。見たくない、現実。

 それは――父親の死体だった。片腕は切断され、左目はなくなり、腹は刃か何かによって引き裂かれた痕。そして、大量の血痕。すでに息の根はないと分かるのには十分だった。


「嘘……そんな」


 彼女は茫然とその場に崩れ落ちた。いつもの日常がある日突然無茶苦茶に破壊されたその心情は、どうしてよいかもわからない具合に混沌としている。

 ふと横を見ると、一枚の写真が落ちていた。フレームに嵌められ、飾っていたのだが何らかの拍子で落ち、写真だけ抜けたのだろうか。舞は、その写真を手に取って眺めた。映るのは幼い自分の姿と、自分を抱えて笑顔で映る父の姿だった。

 震える手で、彼女はその写真を手に取る。すると、ぽたぽたと雫が写真の上に音を立てて落ちる。涙が溢れ出てきたのだ。彼女の脳裏に、これまでの記憶が駆け巡る。

 これまで舞は父雄進一人に育てられてきた。母親は舞を生んだ際に死んでしまったと、以前聞かされた。ずっと父の手で育てられてきた。「ごめんね」と申し訳なさそうな顔をしてサラサラなカレーライスを作ったり、運動会の時には何時間もかけてお弁当を作って応援に来てくれたり、雷が鳴って怖がる自分をずっとそばにいて安心させてくれたり――そんな父との思い出が余計に彼女の心を強く締め付ける。


「お父さん……うああああ――……」


 ボロボロと涙があふれる。止めようと、止めようと思っても涙が止まる事は無い。しまいには完全に顔を伏せて只管泣いた。もう一度父の手で頭を撫でてもらいたい。抱きしめてもらいたい。一緒に食事をとって、学校で何があったか話したい。でもそれは――もう叶う事はないと。彼女がこれまで紡いできた日常はいとも簡単に断ち切られてしまった――。


「誰かと思えば、あいつの娘?」


 割れたガラスを踏み潰す音とともに、舞とそう変わりがない声が、リビングにこだました。舞は直ぐに涙を拭い、声のする方向へ顔を向ける。そこに立っていたのは、自分とほぼ同じ身長の水色のパーカーのフードですっぽりと顔を隠し、白色の生地に星の模様が施されたミニスカートを穿いた少女だった。その少女は舞を見ると、小さく笑った。


「誰……何しに来たの……? 見て分からない!? 人が死んでるんだよ……? 私の、私のお父さんが!」


 舞は、その少女へ向けて声を張り上げる。今の舞に余裕など当然なかった。


「誰かって? 私は、そこに転がってる男を殺した奴だよ」

「は……?」


 あっさりと答えた少女に対して、舞は思わず間抜けた声を出してしまった。自分の父を殺した犯人が自分と大差ない少女で、しかもまた家に戻ってきて、殺した相手の娘に自分が殺したと告げる。こんな摩訶不思議な出来事があってもいいのだろうか?

 「犯人は現場に戻ってくる」とはよく言うが、あまりにも早すぎるのでは? 舞は混乱する思考をなんとかして制御し、絞るように言葉を発する。


「ねえ……冗談もほどほどにしてよ……よくこんな状況でふざけた事言えるね……」


 舞が発する言葉は怒りと悲しみによって語尾が震えていた。そんな舞を見て少女はまた、静かに笑う。


「冗談ねえ。残念ながら私はユーモアには疎いんだ。真実。恨みがあったからお前の父親を殺したの。でも、そんじょそこらのアホな人間同士の殺し合いとか、そんなものじゃない。お前にも、誰にもわからない、積年の恨みがあったから、私はその男を殺したんだよ。そして、逃げる前に何か残していないか調べに来たらお前が居たんだよ」


 少女は、さらさらと答えるがその裏には強い憎しみがこもっているようにも聞こえた。そして舞は、彼女の言葉に引っ掛かりを覚えた。『アホな人間同士の殺し合い』……まるで、自分が人外であるかのように聞こえる。


「これ以上ふざけた事言ってみなよ、どうなっても――」


 舞の言葉を遮り、少女が手から青い光を発し、直後銀色に輝く鋭い刃を持った刀が舞の頬向けて飛び出した。舞は、剣道で鍛えられた反射神経を使い、紙一重でそれを避ける。飛んで行った刀はそのままリビングを抜け、玄関のドアに甲高い音を鳴らして突き刺さった。


「な……!?」

「ごちゃごちゃうるさいわね……今までのうのうと平穏に暮らしてきた檻の中の動物が、偉そうな口を叩かないでくれない?」


 唖然とする舞に一歩一歩少女が近づく。その時初めて舞はフードの中身を見ることができた。しかし、彼女の素顔自体は未だ見ることはできなかった。なぜならば、彼女の顔には漆黒の仮面で覆われていたからだ。誰かに目撃されることを避けようとした結果なのだろうか。視界を遮ることのないよう、右目のみが仮面には覆われていなかった。

 その姿以上に、舞はさっきの現象のほうに意識がいっていた。突然青い光とともに現れ出たあの刀。まるでそれはマジックのようだった。舞はそろりと後ろを見る。するとどうだろうか、さっき突き刺さっていた刀は跡形もなく消えていたのだ。


「あなたは……まさか本当に……というかそれどこから……一体、何者なの……?」

「私? 私はそうだね……ざっくり言ってしまえば私は――」


「【吸血鬼ヴァンパイア】だよ」

「ヴァン……パイ……ア……?」


 何を言ってるんだこの人は。それがまず舞の脳内に浮かび上がった言葉だった。【吸血鬼】? ふざけているのか? それとも相当イカれているのか? それともバカにしているのか? 全く見当がつかない。

 【吸血鬼】の存在なんて、ほぼ都市伝説だ。昔からよく学校で流行ったものだ。この世界には【吸血鬼】が存在し、人を襲っている。そして、被害が広がらないようそれらから市民を守る者がいる……が、そんなことは絵空事だ。舞は生まれてこの方、そんなオカルトな存在は目にしたことはない。見たことないものは信じない性格だった。


「ふ、ふざけてるの……? それともバカにしてるの……?」

「なにそれ、せっかく答えてあげたのに嘘だと思われてるの? はあ、まあ人間たちには私たちのことは公表されていないのは知ってるけど。じゃあちゃんと証拠、見せてあげる」


 少女はそういって、舞の前で手のひらを広げた。すると、先ほど見た青い光が――いや、それよりも細かい青く光る大量の粒子が、彼女の手からあふれ出ている。


「これは……?」

「この青い光は、【Conduct Energy粒子】――略して【Ce粒子】。私たち【吸血鬼】の主な栄養源であって、攻撃手段。人間の体内には休眠状態で血液に含まれているから、私たちはそれを得るために人間を襲う。そして、この【Ce粒子】は自由自在に性質を変化することができるの。ほら、こうやって――」


 青い輝きを放つ【Ce粒子】が集まり、一瞬でその姿を変え、先ほどと同様の銀色に輝く刀を成した。


「今すぐにでもお前の首を斬ることができる」


 少女がそう言って、刃先を舞の首筋に当てた。


「ほ、本当に……」


 舞は目の前で起きたその現象を受け入れざるを得なかった。あんなもの、人間が行えるような所業には見えなかった。


「そろそろお話はお終い。お前も死んで貰うね?」


 少女が刀を振り上げ、斬る準備に入った。その時、舞の脳内を激しい電流が走る。もし、ここで自分が死ねば、この少女はどうなる。こんな人知を超えた技を使える人間――いや、【吸血鬼】を誰が捕まえる? なんとか生き延び、知らせなければ。誰にも取り合って貰えないかもしれない。バカにされるかもしれない。だけれども、今なんとか生き延びなければ父親の無念を晴らすことはできない。その電流は脳内を通れば、神経を通して手足を動かした。同時に、彼女の『何か』がプチンと切れた。


「殺して……殺してやる……私の……私のお父さんをよくも……!」


 舞はそばに横たわる竹刀袋を手に取ると、ノーモーションで少女の肘めがけて竹刀を袋に入ったまま叩きつける。その間わずか一秒。あまりにも早い行動に少女は少し狼狽える。舞はその隙に立ち上がり少女から離れ距離を取った。舞は袋から竹刀を取り出して構えた。


「もしかしてそんなもので……私を倒すつもり……? ねえ、お前こそ私をバカにしてるの? お前たち人間が、【吸血鬼】をそんな棒切れで……?」


 少女の声色が少し低くなっているように聞こえた。おそらく、彼女に怒りという感情が発生しているのだろう。彼女の刀を握る手の強さがさらに増えた。


「勝てるかどうかはわからない、でも私は……"お前"を殺してやりたい。殺さないといけない! 私の日常へいおんを……お父さんを奪ったお前を! 憎い、憎い……憎くて堪らない」

「知らないわよそんなの、いいから人間はおとなしく餌になってれば?」


 少女が足を踏み込み、一気に舞の懐向かって飛び込む。ぴんと張るまで伸びた手の先には刀。一瞬でも遅れれば、その刃は腹を貫く。が、剣道で鍛えられた反射神経――にしては、超人じみた舞の反射神経は、それを捉え、直ぐに脳は身体中の神経に回避行動を促す。

 飛び込む刃を避けた舞は構えていた竹刀を横へスライドさせるように振り、少女の頭へ打撃を加えようとする。普通の人間ならば、この打撃をくらい脳震盪を起こして倒れるだろう。しかし、相手は【吸血鬼】。そんな簡単にはいかず、少女は竹刀を刀を持っていない手でつかみ取り、舞のほうへ押し戻した。

 二人はステップを使い離れ、、一定の距離を開けて対峙する。


「人間の割には避けるのは上手いのね。でも、次はそういうわけにはいかないよ?」


 少女は舞に向かって言い放つと、左手を首に当て、首を回してゴキッと鳴らすと、再び刀を構えた。そして、大きく息を吸い、短めに吐き出す。


「――忍び切り裂け、【一鬼刀閃いっきとうせん】」


 少女が刀を振ると、紫色に輝く刃の形をした斬撃が放たれた。それをも舞の視神経と脳は捉え、身体中に回避行動を促した。その通りに彼女は正面の斬撃を避ける。「やった」、と感嘆の声を出したその瞬間、背後にぞわりと冷たい感覚を覚えた。その数秒後、彼女はようやく理解した。斬撃は、正面だけではなかった。背後からも放たれていたのだ。


「なん……で……!?」


 舞はぼそりと声を漏らす。背中に強い痛みが走り、身体中の神経細胞が危険を知らせる。あまりにも強い痛みに、舞は膝をついてその場に倒れる。その様子を見ていた少女は一気に飛び掛かり、刃が舞の胸を貫いた。少女は刀を抜き取ると、思いっきりの力を込めて舞の身体を蹴り飛ばした。舞の身体は宙を舞うと、ズタズタに裂かれたソファーに大きい音を立てて落下した。衝撃によって、ソファーは壊れる。落下した舞は口から血を吐き出し、胸と背中からは鮮血が溢れ、ソファーの生地を赤く染め上げる。


「――【Ce粒子】は使っているうちに……つまり、連度が高ければ、その使用者だけの能力が生み出されることがあるらしい。その強さは、【吸血鬼】の強さによって違うけどね。そして、私の能力が【一鬼刀閃】もそのうちの一つ。これがある限り、人間は絶対、私には勝てない」


 倒れこむ舞に向かって、少女が歩み寄る。舞はなんとか立ち上がろうとするが、手足は全くいうことを聞かない。流れる血も止まらない。彼女の身体は確実に死へ向かって進んでいた。


「あ……が……」


 舞は何かをしゃべろうにも、口すらまともに動かない。かろうじて、眼だけは動かすことができた。その時、舞の身体から赤く輝く粒子が少しづつあふれ出てきているのを見た。舞は突然の出来事に驚愕した。「なぜ私からこんなものが?」と言いたいのが、口は動かない。その意思を感じ取ったのだろうか、少女がその疑問に答えた。


「さっき言ったよね? 人間にも、休眠状態で【Ce粒子】が血に含まれているって。今お前の身体から溢れてるのはその休眠状態だった【Ce粒子】。さっきの私の攻撃でお前の【Ce粒子】が呼び起されて、身体から溢れてる状態ね。そしてそうなったらもうお終い。【Ce粒子】が目覚めるということは【吸血鬼】と化すということ。でも、ただの人間はそうにはならない。今にも吸血衝動が発生して、人間としての人格と吸血鬼としての欲求が反発しあって精神が崩壊して廃人と化す――。せめて、そうなる前にとどめを」


 少女は刃先を舞の額に当てた。舞の意識は遠のいていっていた。


「でも、本当にお前が私と同じなら……」


 ぼそりと彼女が呟いた。

 同時に――舞に『死』が、近づいていた――。

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