第26話 驚かされる

 「ミッチェル、ちょっといいか?」

 手にしていた予算案から目を上げた。

 「かまわないが。どうした?」

 サミュエルが執務室までやってくるとはめずらしい。それだけ重要なことなのだろう。

 相変わらず洒落た服を着て、白い袖口から伸びた優雅さを感じさせる長い指で複雑に結んだタイをしきりにいじっている。

 「なんだ? わたしは王であっても超能力者じゃないんだぞ」

 「暇をもらいたいんだ。それほど長くなくていい。ずっと働きづめで、息抜きがしたいんだ」

 クッションの効いた椅子の背に体を預けた。

 サミュエルがそわそわしているのは女がほしいからだったのか。

 「おまえをみくびっていたよ。夜だけじゃ足りないなんて。どのくらい時間がほしい?」

 サミュエルは眉をひそめた。

 「三日ほど」

 思わず大事な書類を破ってしまった。

 「三日もか?」

 「ああ、わかってる。急にこんな頼みをされても困るよな。だけど、もう耐えられないんだ」

 わたしだって精力には自信があるが、三日もやり続けるなんて不可能だ。女が欲しくてたまらなかった十代の頃でさえそんなことは…。

 初めて見るようにサミュエルを眺めた。

 一体どこにそんな力を隠し持っていたんだ? これではハーレムの女たちでは足りないかもしれない。

 「女はどうする?」

 サミュエルはミッチェルの不機嫌そうな顔をまじまじと見つめた。

 ルシアの見張りが心配なんだろう。

 「君に負担はかけたくない。休みがもらえるなら自分で探すよ」

 「そうか…。いいぞ、許しを与える。だが切羽詰まっているからといって、相手に無理強いしたりするなよ」

 サミュエルは飲んだくれの兵士を思い浮かべて笑みをみせた。

 「もちろんさ。でも酒でもおごれば簡単に言いなりになるだろうな」

 サミュエルが出て行った後もミッチェルはぼんやりと考えこんでいた。

 三日か…。わたしだってやれないことはない。ただ試す時間がないだけだ。

 手の中の無残な紙切れに焦点を結んだ。

 「誰か、のりを持ってきてくれ!」

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