【05】大魔法炸裂
瞬時にそれを悟った
「蔦壁えええええええ!!!」
絶叫とともに、ガゼボに向かって遮二無二手足をバタつかせる。
背後から響き渡る、「ドジャーン、ドジャーン」という銅鑼の音。
それと同時、正門の上から甲高い女の声が響き渡った。
「────バーニングゥ~~~~~スッピアァァァ~~~キャノォォンッ!!!」
声を合図に、無数の炎の槍がヒュンヒュンと唸りを上げて降下し始めた!!
周囲の空気を震わせて、「グヒュウウウ」と不気味な風切り音が背後に迫る。
しかし、晴矢に振り仰いでいる余裕があるはずもない。
全身が総毛立ち、アドレナリンが駆け巡る。
デスクレイワーム数匹が晴矢めがけて身を躍らせて来るのにも構わず、ガゼボの中へと突進した!!
「うおおおおお! 蔦壁!!!!!!」
「────
飛び込んだ瞬間、眩い光柱がガゼボを包み込むようにしてシュンとばかりに立ち昇る。
「うわっ!!」
「きゃっ!?」
ドンッと触れ合う身体と身体。
次の瞬間!!
ズ・ゴ・ゴ・ゴ、ズドン! ズドドドド、ド・ド・ド・ド・ドオオオオオオオオオオオンッ!!!
大地が震え、轟音と高熱が辺りを包み込む。
爆風が周囲を駆け抜けて、土埃がキノコ雲となって立ち昇た。
「ぶひゃおうわあぁあああぁぁぁぁ」
ガゼボの中にも暴風が吹き込んで、晴矢の背中をドンとばかりに天井へと叩きつけた。
「ぶひゃひえうぉあわあわわわうああああああああ!!」
波が押し寄せるように、引かれては押され、引かれては押されを何度となく繰り返す。
背中は何度も天井に打ち付けられ、上下左右すらわからなくなる。
それをどれほど繰り返しただろうか……?
「フシュウウウウ……」という風音と共に、ようやく辺りが静けさを取り戻していった。
「……う……うう、うぇっ……」
ムカムカする胃の気持ち悪さに、呻き声を漏らさずにはいられないようだ。
ギシリと背中から響く音。
「凪早くん、もう大丈夫。天井から、離れましょ」
耳元で聞こえる声と、頬から首筋、胸のあたりに触れるぬくもりに、晴矢の胸がドキリと高鳴った。
「えっと……蔦壁?」
「ありがとう、凪早くん。わたしを助けようとしてくれたんだよね」
腕の中にある暖かな感触。
思わず、身を固くせずにはいられなかった。
視界の中に、ふっとロコアの顔が現れる。
どうやら、いつの間にかロコアを抱きしめていたようだ。
細くて華奢な身体つきのロコアだが、骨ばった感じはなく、しなやかでどこか柔らかい。
触れ合う感触の心地よさと、口元にかかるロコアの吐息。
咄嗟のこととはいえ、まさかこんなことになっていようとは……!
全身からブワッと汗が吹き出し、顔が真っ赤に染まるのが自分でもわかるようだった。
「大丈夫? 凪早くん?」
「……あ、ああ……。えっと……」
再び、背中からギシギシと音が響く。
晴矢はロコアの身体を抱きしめたまま、トンと天井板を蹴った。
魔法陣の描かれた石床に近づくと、ロコアがストリと足をつく。
ロコアを抱く腕の力を緩めると、暖かな感触がそっと遠ざかっていった。
「ごめんね、心配させて。でも、フィールド防御の魔法、使えるの」
「そ、そうみたいだな。知らなかったとはいえ、さすがに焦ったぜ……」
頭を掻くしか無い晴矢に、ロコアは優しく微笑んでみせた。
恥ずかしい思いでいっぱいの晴矢だが、ロコアの笑顔を見ていると、自然と心が落ち着いていくようだった。
「外に出たほうが良い、っていうわたしの指示も良くなかったね。ミュリエルが大魔法の詠唱中だってわかっていれば、この場に留まるように言ったのに」
「いやまあ、仕方ないさ」
「本当にごめんなさい。いきなり、こんな危険に巻き込んじゃって……」
不意に、ロコアが申し訳無さそうな表情になる。
その表情に、晴矢の胸の奥がズキリと痛む。
自分の無鉄砲な行動で、彼女を悲しませてしまった……。
そんな後悔の念が押し寄せてくる。
ロコアの力になりたい、ロコアのためにもっと何かできないか……。
晴矢がそんな想いに囚われた時だった。
「ロコアさまーーー!」
呼びかける声とともに、先ほど見かけた2人の重戦士が駆け寄ってくる。
背後の城壁からは、兵士たちの歓喜の声が湧き上がっていた。
見れば、ロコアの放った岩の剣山は、木っ端微塵に砕け散っていた。
それだけではない。
見渡すかぎりの平原が、真っ黒な穴ぼこだらけになっている。
あちらこちらで黒い煙がモワモワと立ち上り、何かの焼け焦げる臭気が鼻を突く。
「サンリッドさん、スクワイアーさん」
駆け寄ってくる2人を出迎えるようにして、ロコアがガゼボの入り口に立つ。
錫杖の連環がシャリーンと心地よく響き、かすかに差し込む夕陽を反射した。
重戦士2人はロコアの前までやってくると、フルフェイスのひさしをサッと上げて、片膝を付いてかしこまった。
「やはり、ロコアさまでしたか。よくぞおいでくださいました。お元気そうで何よりです」
「
「サンリッドさんとスクワイアーさんも、ミュリエルのバーニングスピアキャノンに傷一つないじゃないですか」
「ハハハハハッ! 我らは丈夫だけが取り柄ですゆえ!」
「ミュリエルさまに、大魔法発動までの時間稼ぎを、と仰せつかっておりましたから、これぐらいのことは」
そう言って涼し気な微笑みを浮かべる1人は、
口調も穏やかで、見るからに女性にモテそうな感じだ。
もう1人は、黒黒とした太い眉と濃い口髭を覗かせている。
手にした大きなハンマーを見ても、力自慢といったところだろう。
そんな2人の間から、バサバサと羽音を立ててグスタフが姿を現した。
そして何事も無かったかのような顔をして、ロコアの左肩にスッと止まった。
「ったく、間抜けヤロウが。ロコアは放っといても大丈夫なんだっつーの。なんでテメーだけを逃がしてやったと思ってんだ」
ジト目でキツイ言葉を晴矢に投げかける。
立泳ぎのようにしてフワフワ漂う晴矢も、苦笑いを浮かべるしか無い。
「でもさ、ガゼボの中も、すっげ暴風が吹き荒れたんだぜ?」
「バーカ。ロコアの絶対領域がなきゃ、テメーなんざバーニングスピアキャノンの超高熱で一瞬にして溶けてるわ」
「すごい風だったけど、あれでも外に比べれば、随分抑えられてるの」
「そ、そうなんだ……」
万が一、あと少しでも遅れていたら、晴矢の生命は無かったようだ……。
今更ながらにゾッとして、冷や汗が噴き出してくる。
頭を掻くしか無い晴矢を、片膝をついた2人が興味深げな眼差しで見つめている。
「こんなところではなんですから、さあどうぞ、ミュリエル様のところへ」
「我らが案内いたしますぞ!」
「はい、よろしくお願いします」
ニコリと微笑むロコアに、重戦士の2人がサッと腰を上げる。
その背後では城門前の大きな跳ね橋が、低い軋み音を立ててゆっくりと降ろされていた────。
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