【85】突撃、そして


「……クッ……よくも……よくも、あたくしのガーゴちゃんたちを……」


 モウモウと煙が立ち込める中、ヘッドセットからミュリエルの歯軋りする声が聞こえる。


「うへ……サンリッドさんとスクワイアーさんは?」

「ヤツらは問題ねえ。地獄の炎でも死なねえ超脳筋ちょうのうきんだ」


 グスタフの言葉通り、雲の下には、2つの白い光が円を描いて動き回っていた。


 そして……。


 土埃が晴れると、再び炎のシールドに覆われた天空城が姿を現した。

 その天頂で、混沌がほくそ笑むかのように甲高い声を「ヒィィィ……」と小さく漏らしている。


「ははっ! 凄い魔力だが、熱光ビームを放つ余裕は無いようだな!」

「ああ、これだけの悪魔術ラニギロトを使ったのですから! 疲弊は免れないでしょう!」

「……お遊びはここまでですわ。皇都最終防衛シールドを解除しますわよ!」

「おお、一気に決めますか! 蒼竿銃兵ブルーロッドスナイパー、構え!!!」


 ミュリエルの言葉に、防衛ライン城壁が俄に色めき立った。


皇都おうと最終防衛シールド、解除!!!」


 ミュリエルが扇子をサッと横に払うと同時、皇都最終防衛シールドの青い壁がスッと消え失せる。


「撃てえ!!!!」


 ゴラクモの掛け声とともに、蒼竿銃ブルーロッドライフル蒼竿砲ブルーロッドバズーカの銃声が一斉に轟いた!


「────マグマティック・スネア・クインテット!!」

「────破魔!猪突貫通槍ちょとつかんつうそう!!」

「────剛砕!猪突破岩撃ちょとつはがんげき!!」


 ロコアの精霊魔術を合図に、サンリッドとスクワイアーが一斉に襲いかかる!

 あちこちで炎のシールドが切り裂かれ、天空城の天守閣と甲板が露わになった!


「うおおおおおお、今度こそ! 行っけええええええええ!!」


 バサリと大きく翼をはためかせ、全速力で天空城へ突撃する晴矢はれや


 甲板では、雨巫女ウズハたちに襲いかかったオルトロスたちが、その防護シールドに鋭い牙を突き立てている!

 そして雨巫女ウズハたちの背後!


「ヤバイ!!」


 皇子アフマドの横に回り込んだ皇アリフが、炎の剣を振りかざし、今まさに、皇子アフマド目掛けて振り下ろさんとしていた!


 蒼白な表情で蒼竿銃ブルーロッドライフルの引き金を引く皇子アフマドだが、「カチッ、カチッ」と虚しい音が木霊している!

 すでに弾丸が尽きたのだ!


「────ライトニングショット、連射モード!!」


 青い光がやじりに集まると同時、弓を解き放つ!

 5つの雷鳴が轟いて、2頭のオルトロスを撃ち抜いた!

 オルトロスは電撃にのたうち回ると、「キャイン、キャイン」と悲痛な鳴き声をあげて、黒い靄となって霧散する。


 その雷鳴に構わず炎の剣を振り上げる皇アリフ!

 皇子アフマドは咄嗟に、これを受け止めんとして蒼竿銃ブルーロッドライフルを水平に構えた!


 ガキィンッ!


 弾ける金属音!

 真っ二つに叩き斬られた蒼竿銃ブルーロッドライフル


 衝撃に、皇子アフマドが体勢を崩して後退る。

 次に剣戟がくれば、守る術は無いだろう────!


「皇子!」

「アフマド様!」


 マヨリンと雨巫女ウズハが同時に振り返る!

 しかし二人とも、防護シールドに牙を立てるオルトロスを相手にするのに精一杯だ!


おのが弱さに嘆くがいい!!!」


 皇アリフの真っ赤に燃える瞳が煌めいて、炎の剣を『かすみ』の構えで皇子アフマドに切っ先を向けた!


「お逃げください、皇子!!」

「グワオゥッ!」

「ウズハお姉さま、危ないなの!!」


 防護シールドを引き裂いて、オルトロスが雨巫女ウズハに襲いかかる!

 ルナリンの悲鳴と同時、オルトロスが雨巫女ウズハを押し倒した!

 「ズグリ!」と鈍い音を立てて、その肩口に齧り付く!


「あぐうっ……!!」

「ウズハ殿おおおおおおおおお!!!」


 痛みに悶絶する雨巫女ウズハの姿に、インディラの持つ彌吼雷刀ミクライブレードがブルンと震えた。


「────架け橋となれ! グラップリングスネア!!」


 ロコアの声が響き、防衛ライン城壁と天空城甲板の間に大きな掌が伸びてくる!


 岩の橋が掛かると同時、彌吼雷刀ミクライブレードを手に構えたインディラが猛然と駆け出した!

 天空城甲板まで、一直線に突っ切って行く!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「なんという速さよ! 雷を超えたか!」


 突進してくるインディラに、天空城天頂の黒い靄が金切り声を上げる!

 するとインディラの進路を阻むようにして、再び炎の防護シールドがブワッと広がった!


「てりゃああああああっ!!」


 気合もろとも、彌吼雷刀ミクライブレードを一閃する!

 迸る電撃が炎を蹴散らし、インディラは天空城甲板に躍り出た!


 その時────!


「すああァッ!」


 皇子アフマドに向かって「ダンッ」と大きく踏み込む皇アリフ!!


「アフマドさぁぁぁぁぁぁん!!!!」


 絶叫とともに、真横から皇アリフに向かって突進する晴矢!

 瞬間、皇アリフがギランとばかりに晴矢を睨めつけて、ニヤッとばかりに笑みを浮かべた!!!


「────!!!?」

「待っていたぞ、この時を!! ちぇああああっっ!!!」


 グルンと素早く身を翻すと、目にも留まらぬ速さで、炎の剣を晴矢目掛けて突き出した!


 ザグッ────!!!!


「げぇぼぶふっっ!」



 ────鈍い音を立て、晴矢の胸を貫く炎の剣!!



 肋骨を砕き、肺を突き抜け、背中の肌まで焼き焦がす!

 そして全身から体温が奪い去られたように、襲い来る強烈な寒気……。


「ロコア、マスター権限!!!」


 晴矢の肩から羽ばたくと同時、グスタフが絶叫する!

 それを最後に、晴矢の視界が暗転した────。




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