【84】魔人、再び


 魔法陣から「ズドーン!」と勢い良く立ち昇る巨大な火柱!

 激しく燃える炎の中で薄黄緑色の光が収縮し、一瞬にして上空へと姿を消した。


 「ズゴゴゴゴ」と腹まで響くような重低音に、皇都防衛ライン城壁がグラグラと揺れ、魔法陣の周囲に土煙が舞い上がる!

 「ズゴン! ズゴン!」と岩が砕ける音が響き渡り、黒い光は竜の如く、真っ赤に燃え立つ火柱に纏わり付いて、耳を塞ぎたくなるほどの不気味な悲鳴を上げた!


「キィィィシャアァァァァァァァァァァァ!!!」

「来るわ!!!」



 一同が固唾を呑んで見守る中、炎を纏った天空城が、魔法陣を突き破るようにして姿を現した────!



 ズギュゥン! ズドドドドドドッッッ!!!


「うわっとっとお!!!」


 魔法陣から天空城の天守閣が顔を覗かせた瞬間、四方に向けて放たれる真っ赤な熱光ビーム!

 地表を穿ち、皇都最終防衛シールドを切り裂かんばかりに縦横する!


「め、めちゃくちゃだ!!」


 さすがの晴矢も、飛翔術で交わすのが精一杯だ。


「隙あり!────破魔!猪突貫通槍ちょとつかんつうそう!!」

「────剛砕!猪突破岩撃ちょとつはがんげき!!」


 一瞬の隙を突いて、サンリッドとスクワイアーが、天空城に向けて高く跳ぶ!

 まるで火のカーテンを開け放つが如く、炎のシールドを振り払う!


「おおおお、さすが!……って、アリフさん! それにウズハたちも!!」


 振り払われた炎の防護シールドのその向こう。

 天空城甲板に、蒼竿銃ブルーロッドライフルを構える皇子アフマドを守るようにして、防護シールドを展開する雨巫女ウズハとマヨリンとルナリンの姿があった。

 周囲には、老兵たちが血を流して倒れ伏している。


 そして、真っ赤に燃える瞳に炎のオーラを纏った皇アリフが、炎に燃える剣を両手に詰め寄っていた!


 それだけではない!

 双頭の黒い大型犬のような魔物が5匹、雨巫女ウズハたちの周囲を取り囲んでいるのだ!

 口から鋭い牙を覗かせて、どす黒い炎を吐き出し、唸り声を上げている!


「あれはオルトロス!!」

「ウズハどの!!! ウズハどのおおおおおお!!」


 瞬間、一匹のオルトロスが皇子アフマドに襲いかかる!

 皇子アフマドがすかさず蒼竿銃ブルーロッドライフルを放つが、オルトロスは横に飛び退ってこれを交わした!

 蒼竿銃ブルーロッドライフルの弾丸を込め直す皇子アフマドに向かって、再び飛びかかろうとするオルトロス。


「アフマド様は、マヨリンがお守りしますなのです!」


 皇子アフマドを守るようにしてマヨリンが防護シールドを展開したその時、振り払われたはずの炎の防護シールドが急激に回復し始めた!


「ボケっとしてんじゃねえ! 突撃しろ、晴矢!」

「うおおおおおおっ!!!」


 クンと方向転換する晴矢!

 だが────!


「キシェエエエエエエエエエエエエ!」


 天空城上部で渦巻く混沌が甲高い声を上げると同時、キュウンと赤い閃光が煌めいた!


「やべえ!」

「うわっとぉ!」


 ビシュビシュゥン!!


 再び全方位に向けて放たれる赤い熱光ビーム!

 慌てて避ける晴矢の目の前で、天空城甲板は燃え盛る炎に遮られてしまった。


「くそっ! ビームも邪魔だし、炎もすぐに回復しちゃうぜ!! これじゃ突撃できない!」

「攻撃を加え続けて!!」

「やるしかないですな!」

「おう!」

「キシェエエエエエエエエエエエエ!」


 天空城の周りを高速で飛び回る晴矢に、渦巻く混沌が奇声を上げる。

 天空城を覆う炎が荒れ狂い、熱光ビームが続けざまにほとばしる。


「覚悟を決めて特攻しろ、晴矢!」

「む、無茶言うなよ! 焼き鳥になっちゃうぜ!!」

「だったら少しぐらい矢を撃て! テメーの弓は飾りモンか!?」


 肩に止まるグスタフがけしかけるが、それどころではない。

 天空城周辺を動き回るサンリッドとスクワイアーも、熱光ビームを掻い潜るのに精一杯で、第二の攻撃の機会を得られずにいた。


「────精霊力増幅! マジカルアンプ!!!」


 逃げ惑う晴矢の耳に、ミュリエルの詠唱が木霊する。

 定位置で天空城の熱光ビームをひょいひょいと交わす6体のガーゴイルの間に、白い光のラインが現れて、六芒星を描き出した。

 そこから五色の光が、キラキラと舞い落ちてくる。


「さあ、これで精霊魔術の効果がパワーアップですわ! あたくしのバーニングスピアキャノンをお見舞いして差し上げますの!!」


 魔法を発動し終えたミュリエルが、すぐにクマのぬいぐるみを手にステップを踏み始める。

 皇都防衛ラインの城壁で見守る各国の将たちは、荒れ狂う天空城を前にして、息を呑むしかない様子だ。


「すべてのことわりに背いて の者を灼熱の檻籠おりかごとどめん!

 ────マグマティック・スネア・ダブル!!」


 間髪を入れず、ロコアが魔法を繰り出した!


 地表に「ズガガガッ! ズゴゴゴン!」と重い音が響き渡ったかと思うと、真っ赤に燃える溶岩の手が2本現われる!

 そしてガッシリと天空城の土台を鷲掴みにした!


 さらに!!!


「────バーニングゥ~~~スッピア~~~~キャノォォォォォォンッ!!!」


 いつの間にか上空に現れていた8本の巨大な炎の槍!

 ミュリエルの声とともに、天空城目掛けて一斉に解き放たれた!


「バーニングスピアキャノンのあとに私たちもいきますよ、スクワイアー!」

「おうよ!」

「晴矢、テメーも続け!」

「オッケイ!」


 熱光ビームを避けつつ、一旦、天空城から距離を取る晴矢。

 8本の炎の槍が熱光ビームすら切り裂いて、四方から炎の防護シールドに迫り来る!!


 ズドガシャァァァァァァァン!!


「キシィィィィィィィィィ!!!」


 真っ赤に弾け飛ぶ炎と爆炎!

 天空城上部で、苦痛に悶えて踊り狂う巨大な混沌!


 天空城を包む炎が鎮まり、あとに残されたのはヒビ割れた防護シールドだけになる!


「チャァァァァンス!!」


 この機を逃さず、3人が天空城に殺到する!


「────破魔!猪突貫通槍ちょとつかんつうそう!!」

「────剛砕!猪突破岩撃ちょとつはがんげき!!」

「うおおおお!────ライトニングショット、連射モード!」


 サンリッドとスクワイアーが交錯し、さらに晴矢の放った雷矢が「ズドドドドド!」と雷鳴を轟かせて、防護シールドを突き破った!


 ガッシャアァァァァンッ!!!


「よし、今だ!!!」


 晴矢がシールドにできた隙間に飛び込もうとしたその瞬間!!


「ヒシャアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 突然、怒気をはらんだ叫びを上げたかと思うと、一気に膨れ上がる混沌!

 赤い閃光がキランキランと瞬いて、辺りを真っ赤に染め上げた!!


「あぶねえ! 上に逃げろハレヤ!!」

「へっ!?」


 グスタフの声に、咄嗟に急上昇する晴矢!

 その直下で、天空城から爆発音が轟いた────!!!


 ズドホオォォォォォォォォォォン!!


「ぶはあっ!!!」


 爆風に煽られて、晴矢の身体が弾き飛ばされる。


 核爆弾でも落としたかのように立ち昇る巨大なキノコ雲。

 激しい熱風が四方へ走り、皇都防衛ラインに構える連合軍にも襲いかかった。





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