【72】魔人軍掃討戦
「総員、出撃! 魔人軍を掃討!」
「待ってました!」
「任せるがいい!」
「参る!」
「ルナリンが天空城防護シールド、全・解・除……」
「乗降口大扉、開門なのです!」
天空城土台の乗降口が、重い音を軋ませながら開け放たれる。
ドシーンと地響きとともにタラップが地上に降りるなり、歓声とともにインディラたちが撃って出た。
「狙いは魔人軍! 我に続けえっ!!」
「ブフォオオオッ!!」
タラップを駆け上がってきたオーガを、
真っ二つに切り裂かれたオーガは、電撃に身体を打ち震わせると、黒い靄となって掻き消えた。
その後ろから襲いかかってきたホブゴブリンを、
ターンと乾いた銃声のあと、ホブゴブリンの身体にぼこぼこと浮き上がる泡のようなコブ。
そのコブが「バシャリバシャリ」と破裂したかと思うと、ホブゴブリンも黒い靄となって霧散した。
「見ろ、オレの
「魔人軍、恐るるに足らず!」
「行け! 我ら
タラップを駆け下りて、三方に別れて突撃していくインディラ・ムサビ・ゴラクモの部隊。
魔人軍に向かって怒涛の如く、襲いかかる!
抵抗むなしく、次々と黒い靄と化していった。
「各国の将よ! 魔人とサウドはゴーレムの力にて、貴殿らもろとも天空城を吹き飛ばす計画にあったのだ! これでもなお、魔人に味方するか!?
今、天空城の力で魔人の妖力は封殺された!
ならば魔人に肩入れする理由も無し!」
皇子アフマドの掲げる
「────時は来たれり! 今こそ、魔人討伐の時っ!!!」
大砲のごとく「ズドーーン!」という音を響かせて、青い光が弾け飛ぶ。
その光の眩さに、連合軍が我に返ったようにざわめき始めた。
「5体のゴーレムから、また混沌反応なのです!」
「
「はい!」
「オッケイ、任せろ!」
天空城を浮上させながら、晴矢は操縦席を後ろに回し、5体のゴーレムをキッと見据えた。
「まとめて仕留めてやるぜ!! ────
天空城の土台付近に青い光球が膨らみ始める。
その光景に、連合軍からどよめきがあがった。
「あ、あれが噂に聞く、天空城の
「あのようなものこちらに向かって放たれたら……」
不安げな声を耳にした晴矢も、思わず苦笑するしか無い。
そんな心配など、する必要もないのに。
皇子アフマドの狙い通り、天空城に対する畏怖の念が掻き立てられているのだろう。
となれば、あとはヤツらを打ち払ってみせるだけだ。
視界の先のゴーレムたちをグンと睨みつける。
そして天空城が、皇都最終防衛シールドのその上まで浮上した時!
「いっけえええええええええええっ!!!」
突き上げた腕を、力一杯、薙ぎ払う!
5体のゴーレムめがけて迸る青いレーザービーム!
シュドン! ズドドドドドォォォォン!!!
城壁よりも遥か高くまで立ち昇る、爆炎と土煙!
再び湧き上がる、連合軍から畏怖のどよめき。
ゆっくりと解けていく爆煙の向こうに、もはや5体のゴーレムの姿は無かった。
「ミクライの力が、一撃のもとにゴーレムを打ち倒した! 勝運、我ら
皇子アフマドの声に、
「こ、これが天空城と
「
「魔人は我らを虫けら同然に扱ったのだ!! 卑劣なる裏切りぞ!!」
連合軍の間で広がる声。
「我らの敵は魔人なり! 悪しき力に頼るべからず!!」
「今こそ我ら力を合わせ、魔人を討伐するのだ!」
「我らの初志は魔人討伐なり!」
「各国の将よ、我らに続け! 杜乃榎の
「眠れる
情勢が、もはや天空城と皇子アフマドに傾いたのは明らかだった。
「はあっ、ふうっ……ひとまず、第一作戦成功かな?」
「そうみたい。ウズハさん、
「はい、おまかせくださりませ。……
「マヨリンとルナリンも、エネルギー注入と防護シールドの管理を」
「はいなのです!」
「ルナリン、自信MAXなの……」
すべては順調……に思えた。
だが……!
「……あれは?」
周囲に視線を巡らす晴矢の目に、大軍勢の端っこの方で黒い靄が点々と渦巻いているのが見て取れた。
『
魔人軍へ反旗を翻した連合軍といえど、
インディラたちがそこへ到達するのにも、時間がかかるだろう。
軍勢の端から綻びが生じ、それが全体に広がらないとも限らない。
「────スパイラルショット!」
正面の黒い渦に向かって声を上げる。
だが……。
「ちぇっ、射程圏外か……!」
照準マーカーが緑のまま、フラフラして定まらない。
「ロコア! 軍勢の端っこの方で、魔人軍が
「……そうね」
「天空城を移動していいかな? 俺のスパイラルショットが届く位置まで」
「天空城を移動? それは……ちょっと待って……」
ロコアの反応に手応えがない。
こうしているうちにも、右端の方の一団の黒い渦が、ジワジワとその範囲を広げつつあった。
「ウズハさんの加護力の範囲を考えると、天空城はこの位置がベストなの」
「そういうことか……じゃあさ、俺が打って出るよ! 手遅れにならない内に!」
「……そうね、その方が良いと思う。高度300mまで上昇させたら、出撃を。それと、時々、天空城を持ち上げに来てね」
「オッケイ!」
ビッと親指を立てると、晴矢はすぐさま天空城を上昇させていく。
インディラたちが次々と魔人軍を討ち倒していく様を見ながら、チラリと防衛ラインの城壁に視線を向ける。
まだ薄く皇都最終防衛シールドが発動されているその根元、城門の上にグリサリが倒れているのが見えた。
「(『抗魔誘眠の漣』で、グリサリさんも眠ったのかな……?)」
「高度300mなのです!」
「晴矢くんの出撃に備えて、天空城浮遊力補助システム、全開。この高度をキープします」
「はい、なのです!」
操舵室では、相変わらずロコアを中心に統制が取れている。
これなら、自分がいなくても問題無いだろう。
そんなことを思いつつ、『
操舵室は、雨巫女ウズハとマヨリンとルナリン、そしてロコアが情勢を見守りながら天空城の細かな調整に余念がない様子だ。
「ちょっと行ってくる!」
「うん」
ロコアにひと声かけて、操舵室を飛び出していく。
天空城の天守閣を大急ぎで駆け抜けて、甲板に踊り出る。
それと同時、甲板で仁王立ちする皇子アフマドと視線が合った。
親指をビッと立てて見せると、皇子アフマドもビッと親指を立て返す。
「勝利は目前! 行くぜ!!」
心も軽く、サンダードラゴンボウを手に取ると、晴矢はサンダードラゴンウイングをはためかせ、天空城から飛び出していった。
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