第52話 作戦失敗

 傾いたビルなどものともせずにドレッドノート級が交差点へと侵入する。

 瞬間、コンクリートや鉄骨のひしゃげる巨大な音が響いて、ドレッドノート級の前部が倒壊し続けるビルへとぶつかり、その勢いを弱めた。

 細かな瓦礫が吹き飛ばされて来る中、マサトは続けて、向かいのビルの根本に並べられた装甲人型兵器ランド・グライドへと、ハンドガンを射出する。


『チッ、意外に頑丈じゃねえか!』


 ビルの下敷きとなって暴れ回るドレッドノート級が、徐々に鉄筋コンクリートを押し潰し始めた。なのに爆発は起こらない。


『や、やべえっ、爆発しねえ……!』


 ぼくはキャンディフロスから借りたハンドガンを持ち上げて、同じく十字路に転がった装甲人型兵器ランド・グライドへとデタラメに乱射した。


「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!」

『撃て撃て撃ちまくれぇぇぇーーーーーーーーーーーーーっ!!』


 機関砲の銃口がぼくらに向けられた。オレンジ色の光を出して、次々と鉛弾が射出される。

 タングステンシールドに凄まじい数の衝撃が走った。だけど、これくらいなら耐えられる。

 回避もせず、ぼくらはシールドで防ぎながらただひたすらにハンドガンを撃ち続けた。


 パシ……ッ。

 半壊して崩れ落ちていた装甲人型兵器ランド・グライドの残骸がわずかに電流をスパークさせた直後、巨大な閃光と爆炎を噴出して空と大地を揺るがした。

 視界が真っ赤に染まるほどの大爆発が巻き起こる。


「うわっ!!」


 天高くそびえ立つふたつめの高層ビルが、グラリと傾いた。

 それを皮切りに、並べられた装甲人型兵器ランド・グライドの残骸たちが次々と誘爆してゆく。

 交差点中央で倒壊したビルを押し退けようとしていたドレッドノート級の背面へと、高層ビルが大地震を引き起こしながら倒れ込む。


 地鳴り。大地が大きく沈み込み、ぼくらはバランスを失って片膝をついた。アスファルトを割ってめり込んだドレッドノート級のキャタピラが、凄まじいモーター音を残して空転している。


『まだだ、イツキ! あのままじゃ時間の問題で這い出してくる!』

「わかってる!」


 ここまで来たらもうマサトの作戦に乗るしかない。高層ビルの重量でメタルを圧し潰すんだ。

 三つめのビルの根本に並べられた装甲人型兵器ランド・グライドへと、ぼくらはひたすらハンドガンを乱射する。


「よし――っ!」


 爆発、炎上。高層ビルはメリメリと不気味な音を立てながら、十字路でもがくメタルへと傾く。だけど倒れない。

 怒りの咆吼のように大音量で地響きを起こしながら、ドレッドノート級が暴れまわる。キャタピラがアスファルトの割れ目を噛んで、その巨体がわずかに動いた。


『くっそ! 誘爆しねえ! 燃料ケロシン不足だったか! イツキ、ビルの一階を撃ちまくれッ!! 残ってる柱や鉄骨を破壊するんだ!』

「うおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーッ!!」


 地鳴りが、銃声が、叫びが、鉛弾が一帯に降り注いだ。

 ビルが耳障りな悲鳴を上げながらさらに傾いてゆくと同時に、ドレッドノート級のキャタピラが完全にアスファルトを噛んだ。

 メタルの巨体が、瓦礫を押しのけて這い出してくる。

 早く、早く、早く早く早く倒れてくれ!


 ガチン、ガチン――!

 その音に冷や汗が浮いた。ハンドガンの弾切れだ。同じく、マサトのものも。

 くそ、さっきのビルで手間取りすぎたか!


『伏せなさい!』


 声がした直後、反射的に屈んだぼくとマサトの頭部を掠めて、無数の鉛弾が傾いたビルへと吸い込まれていった。


「ツキ――」

『行っけえええぇぇーーーーーーーーっ!』


 いつの間に背後にいたのか、短機関銃イングラムをかまえたタランテラが大量の薬莢をアスファルトへと撒き散らす。

 ドレッドノート級のメタルがジワジワと動き始めた矢先、先ほどまでとは比べものにならない地鳴りが始まっていた。


 間に合うかッ!?

 大地が鳴動した。

 恨み。数十万人もの血を吸った廃都の大地は、メタルを地獄の底へと引きずり込むかのようにアスファルトを割って深く沈み込む。


『うお……っ』

『きゃあ!』


 凄まじい勢いで三つめのビルが倒壊して、這い出そうとしていたドレッドノート級の背中を、さらなる重みで圧し潰す。わずか残ったアスファルトの残骸を破壊し、メタルの巨体をさらに深く落とし込みながら。

 その震動だけで、周囲の小さなビルや建物が次々と倒壊してゆく。


『よっしゃ! ラストだ! ツキノさん、頼む!』


 けれど黄金色のタランテラは、静かに短機関銃イングラムを下げた。そうして、無念そうに吐き捨てる。


『弾切れよ。気をつけて、這い出してくるわ』

『そんなっ、ここまで来て――くそがっ!』


 数十万トンもの重みを受けても、空回るキャタピラが止まる気配はない。それどころか、怒りをあらわすかのように排煙を噴き上げ、不気味な音を地の底から響かせ続けている。


 くそ! ここまで来てダメなのか!? あの4つめのビルさえ倒壊させられたら! 何か、何か方法はないのか!?

 キャタピラがアスファルトを噛み、凄まじい勢いで空転する。


『くっ、弾薬を探してくるしかねえぜ!』

『そんなの間に合わない! 撤退するべきよ!』


 ガゴン、とドレッドノート級にのしかかっていた高層ビルの一部が崩れてアスファルトに落ちた。秒間数センチ。だけど確実に、ドレッドノート級が這い出してきている。

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