第49話 裏切り
藤堂……!
こいつ、やっぱり腕はぼくらより遙かに上だ……! それなのに……!
『……ふん、ゴミクズにしてはやるじゃあないか』
藤堂正宗の声。そうか、指揮を出す機体は確か、すべての周波数に声を送ることができるってツキノさんが言っていた。
「おまえ――ッ」
『ちょーっとアンタァ、藤堂正宗! どうしてあたしに指揮権を渡さなかったの!?』
メタルのアームを回避しながら破壊し、タランテラがドレッドノート級の背中から飛び降りて装甲に
ディヴァイデッドがグライドを始め、
『なぜ渡す必要がある? 俺の作戦にミスはなかった。ただ他のやつらが俺の予想をこえて、使えぬ無能だっただけだ。そのようなやつらは死んで当然だろう? これからも俺の足を引っ張り続けるのだからなァ?』
さも当然のように、それも半笑いを含む声で藤堂が大げさに嘆いた。
今やメタルはタランテラを最大の脅威と捉え、機関砲の集中砲火を浴びせかけている。ぼくはネイキッドを走らせてタランテラを狙ったアームをタングステンナイフで叩き伏せ、タランテラと背中合わせに立つ。
この人が倒れたら、おそらく全滅は免れない。
だが、ネイキッドのナイフもタランテラの
『そもそもが、この俺と同格のやつが五人もいたら、この程度のメタルなど造作もなかったはずだ』
この野郎……!
「ふざけんなッ!! そういうのも引っくるめて考えんのが指揮だろッ!! てめぇのせいで何人死んだと思ってやがんだ!」
『ほう? ふは、ふははははっ! その声は貴様、高桜かッ!!』
「だったらどうだってんだ!」
『クズのクセに生きているじゃあないか。今までどこに隠れていたんだ? 脅えて震えて、虫けらのようにビルの隙間にでも挟まっていたか? ああ?』
タランテラと背中を離してグライドする。直後にぼくらの立っていた位置にミサイルが着弾した。
『藤堂くん、成宮です。イツキさんはずっと最前線で勇敢に戦っていました!』
ぼくのハンドガンはすでに弾切れだ。ためらいなく投げ捨てる。重量を減らせば、それだけ
『そうかそうか。そ~おかぁ。成宮は特殊のクズどもに尻を振って馴れ合ったのだなあ? 淫乱には相応しい行動だ』
『わ、わたしは――』
粘着質な声で呼びかけられて、ルルが小さく怯えた声で呻いた。
ネイキッドでキャンディフロスの前に立ち、ぼくは堂々と言ってのける。
「気安く話しかけんなよ、藤堂。彼女は大切なうちのチームメイトだ」
『あぁ~、そうだろうとも! 我々はここで撤退する。せいぜいそのためのオトリにでもなっていろ。その薄汚く臭い牝は、貴様のような敵に尻を振るのが得意のようだからなァ!』
『に、人間は敵なんかじゃない! あなたは何と戦っているんですか!?』
『黙れ、牝。耳が穢れる』
直後、その場にいた誰にも予想できなかったことが起こった。
ディヴァイデッドの照準がメタルから離れてゆっくりと下がり、キャンディフロスに――。
「おい……」
直後に鳴り響く
『う、……く……ぁぁ……きゃあああああああああああああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー……あああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?』
想像を絶する悲鳴をルルがあげる中、藤堂正宗の機体ディヴァイデッドがぼくらに背中を向け、バーニアを噴かした。
『くく、そこで四つん這いとなってメタルにも尻を振ってやれ。よろこんで食らい付くだろうよ。最期に撤退の役に立ったのだ。裏切りものの牝には上出来の末路だ』
メタルと交戦しながらのあまりに異常な事態。ぼくらは誰ひとりとして藤堂の行動を予測し得なかった。
ディヴァイデッドが視界から消失する。
『イツキッ!』
天川月乃の声が飛んだ瞬間、間一髪、ぼくは我に返って迫るアームをタングステンナイフで払いのけた。
「くっ……」
気絶でもしてしまったのか、ルルのキャンディフロスは倒れ込んだまま立ち上がらない。本物の肉体ではないとはいえ、人の脳は
凄まじい激痛だったに違いない。もしもルルがリミッターをカットしていたら、ショック死していたって不思議じゃない。
「こんな……っ」
『イツキ、ルルを担いで撤退! こっちは戦闘に出てきていたわけじゃないから、弾薬も近接武器も、もう保ちそうにない! ……悔しいけど準備不足よ……!』
「こんなことがあっていいのかっ!? 敵はメタルじゃないのかよ! なんでルルが人間に撃たれなきゃなんないんだ……!?」
『聞きなさい、イツキッ! 壊し切れなかった射出口が開いた! ――早くっ!! これを持って行きなさいっ!』
タランテラが
『な――っ!?』
ああ、頭が痛い。割れそうなくらいに。
「ダメだ、ツキノさん。だってこいつをこのまま野放しにしたら、東京から出てしまうかもしれない。そうしたら、人類の負けじゃないか」
頭痛を堪えて吐き捨てたつもりが、ぼくの声は弱々しく上擦っていた。
『何言ってんの! 帝高にはまだ上級生がいるでしょ! 帝大だって出てきてない! ここが最終防衛ラインじゃないのよ! 自己修復能力があっても、メタルには修復材料に限界がある! 弾薬の九割も使わせた! ここまで削れば、あとは誰かが何とかしてくれる!』
メタルの背から吐き出された六基のミサイルへと、振り回されるアームを避けながらタランテラが
空で大量の炎が散った。
「逃げ切れるかどうかだってわからない! それにぼくらが退いたことで、壁が壊されたらどうするんだッ!?」
撃ち落とし切れなかった一基のミサイルを避けるため、ぼくはキャンディフロスを引きずってバーニアを噴かした。
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