第47話 戦力半壊
くっそ……っ! まだ一年生はリミッター・カットを教わっていないから、ロックされたら逃げ切れないんだ……!
『ひとつ、何があってもグライドを切らないこと。反動の大きな大火力を用いるとき以外は、絶対に動きを止めてはダメ。マニアがネットで得意気に語るような独学のセオリーはすべて忘れなさい』
「はいっ」
前線から吹っ飛ばされ、アスファルトを転がってきたグレーの
ぼくの射撃の腕では装甲の隙間は狙えない。やはり近接攻撃じゃないとダメだ。
視界の端で藤堂正宗の真っ赤な機体ディヴァイデッドが、破壊され転がったグレーの機体から装備を引き剥がしているのが見えた。ディヴァイデッドは再びグライドを始め、他の新入生たちの機体を指揮してメタルの後部に集中砲火を浴びせている。
だけどベルベットほどの大火力でもなく、タランテラのように装甲の隙間を確実に狙えているのも藤堂だけでは、効果があるようには思えない。
『イツキ、集中。視界をすべて使う』
ぼくへと振り上げられていたメタルのアームを、リサのベルベットが撃ち抜いて破壊した。冷や汗が浮いて、ぼくは息を呑む。
「ごめん! 助かった、リサ」
今、リサと同じチームじゃなかったら、ぼくは重傷、もしくは死んでいた。足手まといになりたくないのなら、そのことを冷静に受け止めなければならない。
大丈夫、頭は冷えている。
『ひとつ、メタルは装甲を破壊して、核を剥き出しにしてから電磁力を帯びた武器でショートさせること。核が生きている間に破壊したら、半径一キロは吹っ飛ぶ上に、半径三キロが一年間汚染区域になってしまう。東京は破壊で滅んだんじゃない。汚染で滅んだの』
「了解!」
『けど、それはまだまだ先。まずはすべての装甲を剥がすことを考えて』
十分に近づいてからアスファルトを蹴って飛び、全力でタングステンナイフをドレッドノート級の装甲の継ぎ目へと突き刺す。
「――おおおおおぉぉぉーーーーーーッ!」
堅い手応え。てこの原理を利用してナイフを動かし、全力で装甲を引き剥がす。耳障りな金属音が響いて、メタルの大きな装甲がアスファルトに落ちた。
「どうだっ!」
『おっけー! その調子!』
伸ばされたアームを避けて距離を取ったぼくの視界に、装甲の隙間から生えていたメタルの銃口が向けられた。
――機関砲!?
『イージス展開』
三門の銃口がネイキッドへと向けて火を噴いた瞬間、ぼくの視界を空色のベルベットが覆った。
「――リサッ!?」
秒間数百発にも及ぶ、金属同士がぶつかる音が響く。足元に無数の弾丸が散って落ちた。
ぼくを庇ったのか!?
けれど銃声がやんだとき、リサは何事もなかったかのように先ほどと同じ調子で呟いた。
『問題ない。メタルの特徴はひとつずつ確実におぼえる。そして、初見の相手は決して隙を見せないことが大事。メタルは常に進化する』
ベルベットの左腕に薄い金属膜のような
カスタマイズパーツ。ホントに段違いの性能だ。
「了解、リサ! ……ドレッドノート級は近づけばアーム、中距離では機関砲、遠距離ではミサイルだな」
少しずつ、ぼくは強くなっているだろうか。
鞭のようにしなって迫る二十メートルものアームをバックグライドで回避し、ハンドガン放った瞬間、切迫した成宮ルルの声が突如として響いた。
『――ッ! キャンディフロスより全機! 熱源感知ミサイル装填音確認! 数、多数! タランテラ、ネイキッド、ベルベット、キャンディフロス他、五十八機体がロックされています! 発射! 着弾はおよそ七~十秒後ッ!』
メタルの背中から射出された数え切れないほどのミサイルが、斜めの空へと上がってゆく。ぼくはそれを、ただ見上げる。ハンドガンを放つことすら忘れて。おそらく新入生のほとんどが、そんな状態だったのだと思う。
嘘だろ、オイ……。リサの迎撃能力、いや、ベルベットの全火力を同時に放ったとしたって、これじゃ全然足りない……。
二振りの
『ビルの陰に逃げ込めっ!! 回避ーーーーーーーーーーーーーーっ!!』
わずかに遅れて、視界の端に赤文字が浮かび上がった。
――警告。ロックオンされています。
タランテラが高速バックグライドでアームの攻撃を逃れながら、新宿御苑を飛び出した。
ネイキッドが動いたのか、ベルベットに引きずられたのか、わからなかった。ぼくらはただ夢中で新宿御苑を離れて、崩れ残っていた高層ビルの隙間へと逃げ込んだ。
けれど回避行動ができたのは、成宮ルルの警告と、天川月乃の指示を聞くことのできた、ぼくらのチームだけだった。
鋼鉄と火薬の雨が、容赦なく降り注ぐ。
爆発と轟音。大地が、空が、渦巻く炎に包まれた。
ミサイルの直撃によって崩れ落ちるビルの瓦礫を回避して、ぼくらはただ呆然と、その光景を見ていることしかできなかった。
さながら地獄絵図……九年前と同じ紅蓮の世界――。
足を引きずりながら逃げ惑う新入生たちの機体。そのほとんどが小破から中破している。その彼らへと向けて、メタルの機関砲から容赦なく降り注ぐ鉛弾。
大破。大破。大破。
炎の中で次々と動かなくなってゆく
拉げたコクピットから流れ出る赤い液体と、……破裂した肉の腕。
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