第12話 はじめまして

 そもそもメタルと戦う帝高に来たのだって、マスコミがおもしろおかしく書き立てたように、義憤に駆られたなんて理由じゃない。ぼくからすべてを奪っていったメタルへの復讐と、助けてくれた少女やキャスケットのパイロット、士郎という人物の力になりたかったからだ。


「帝高のスカウトもマスコミの扇動アジテーションも関係ありません。政府や学校側の政治的宣伝プロパガンダのためでもありません。ぼくは自分の意志でここに来ました。なので、そんなふうに言われるのは本意ではありません」


 だからぼくは言い捨ててそのまま着席する。クラス中の視線が自分に向けられるのを感じながら。

 ぼくの無礼な言い方に、別段不快そうな表情を見せるでもなく、早見先生は「そうか。すまんな」と静かに呟いて次を呼んだ。


「では、次――」


 哀れみの視線ならもう腹一杯だし、この担任教師の無関心さは心地良い。


「リサ・アバカロフ……遠距離が得意……」


 リサが立ち上がり、ペコっと頭を下げた。そのまま静かに着座する。

 アバカロフ。ロシア人とのハーフなのかな。確かに日本人離れした色素の薄さだが、ロシア人に見られる長身だったり大人っぽい外見だったりはしない。むしろ背も低く、日本人の中でも華奢な方に位置するんじゃないだろうか。

 そういえば仕草もずいぶんと変わっている。今も両手を開いて指を曲げたり伸ばしたり、じっと見つめながら。まるで動くことを確かめているかのようだ。


「……?」


 何か納得がいかなかったのか、小首をかしげている。その様子が自分の尾を追いかけてくるくる回る犬のようで、少しおかしい。

 リサは、首都大戦の生存者であるぼくの名を聞いても、他のクラスメイトのような反応は示さなかった。ただ単に興味がないだけかもしれないけど、何だか少しだけホッとした。


「では全員の自己紹介も終わったところで、格納庫ドックに移動する」


 早見先生が出席簿を閉じて、教卓の中へと入れた。

 一番前の席に座っていた生真面目そうな眼鏡の少年が、手を挙げて質問をする。


「授業は行わないのですか?」

「今日は君達に、学業よりも優先順位の高いものを学んでもらう。本日の授業は、君達と装甲人型兵器ランド・グライドを引き合わせることだ。それぞれ機体に名前を付けてカラーリングをし、システムに生体認証登録を行う。これにより、その機体は登録者だけにしか扱えない、オンリーワンとなる」


 少しつり目の、気の強そうなポニーテールの女子が片手を腰に当てて尋ねた。

 たしか自己紹介の際に、中条と名乗っていたか。


「ねえ、先生。それってすべての機体性能を画一化して、誰がどれに乗っても扱えるものにしたほうがいいんじゃない? そうすればパイロットが死亡したときも機体はムダにならないし、逆に自分の機体が壊されても他の機体で出られるでしょう?」


 早見先生が両腕を胸の前で組んで、笑みを浮かべた。


「もっともな意見だが、装甲人型兵器ランド・グライドは戦車のような機械的な乗り物じゃない。言うなれば君達の新しい肉体だ。そうだな、たとえるなら頭脳をそのままに他人と肉体だけを交換したとしても、拒否反応が起こるだけでうまくは動けないものだ。内臓一つを取ってもそうだろう。それを回避するには、その頭脳に適合する肉体に作り替えなければならない。幸い、肉の身体とは違い、鋼鉄の肉体ならば作り替えはそれほど難しいことではない」


 中条が額にシワを寄せて、自信なさげに呟く。


「つまり、装甲人型兵器ランド・グライドの性能をあたしたちの頭脳に合わせて最適化するために、ひとり一機にした方がいいということ?」

「その通りだ。だから自分の肉体だと思って、せいぜい大切に乗れ。装甲人型兵器ランド・グライドは肉の身体同様、とても貴重なものだ。国防予算も無限にあるわけではない。そう簡単に替えはないからな。では、教室を移動する。全員起立!」


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