第4話 初期化
この少年が、首都大戦と呼ばれた戦いの最後の生き残りとなった。
だが少年はすでに、メタルに汚染されていた。ウィルスではない。細菌でもない。放射性物質ですらない。理由も目的もわからないまま人類の脅威となったメタルが撒き散らす、何か。死に至る、何かだ。
だからこう呼ばれている。発症ではなく、罹患でもなく、汚染。
「ねえ、あなたの名前はなんていうの?」
担架で運ばれてゆく幼い少年の手を取って、少女は出逢ったときと同じように不敵な微笑みを浮かべ、平行して歩く。
少年は、息も絶え絶えに。けれども確かに瞳には光を、口もとには笑みを浮かべていた。
「たかざくら、いつき」
「イツキ、良い名前だね。大丈夫。何も心配いらない。……ほら、これ見て」
少女は真っ白な長い髪を右手で掻き分けて身を屈め、少年へと首筋を近づけた。そこには、まるで一枚の鱗のように銀色に輝く金属片が埋め込まれていた。
イツキが、パチパチと瞬きをする。
「
イツキがあわてて首を左右に振った。
「へーきだよっ、かっこいい」
顔がわずかに赤いのは、照明のせいではない。幼い少年、高桜一樹は、真っ白な少女をとても綺麗だと思った。一欠片の濁りさえない白い髪も、流れる血流の色を顕著に映し出す、ルビーのような赤い瞳も。
「あら、お上手。でも、女の子に“かっこいい”は褒め言葉じゃないのよ。残念ながら」
「え、そうなの?」
「うんうん。理想は“可愛い”か、“綺麗”って言うの。いい? リピート・アフター・ミー。可愛い、綺麗、ステキ、ナイスバディ、結婚してください」
悪戯に瞳を輝かせ、少女が薄っぺらい胸を張った。
「リピ……ト?」
「ぷっ、あはははは! 冗談よ、冗談!」
よく笑う人だ、そんなことを考えてしまう。薄いピンク色の唇の端をつり上げて、真っ白な歯を見せて。
「じゃ、手術がんばんな。イツキくん」
手術室の直前で足を止め、少女が手を振った。少年はあわてて身を起こそうとして、苦痛に顔をしかめた。担架で手術室の入口をくぐり――。
「あ、おねえさんの名前――」
手術室の扉が閉ざされる。
まあいい。難しい手術じゃないって言っていたし、治ればまた会える。
胸が高鳴る。会えると思うだけで心が締め付けられて、掻き毟りたくなる。怖いのにワクワクして嬉しい。家族も友達も、何もかもを失ったのに、自分はヒドいやつなのかもしれない。それでもいい。あの人と、もう一度話がしたい。
しかし少年は、自らのこの気持ちを理解するのには、あまりにも幼なすぎた。
加えて、彼が目を覚ます頃には少女はすでに存在しない。
――システム・アバカロフ、
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