どんな願いでも叶えてくれるという、伝説の秘宝を手に入れたとしたら、あなたはなにを願うでしょうか。流れ者の傭兵・グランバッシュが願ったのは、チート的な能力でも酒池肉林のハーレムでもなく、秘宝を「返品」することだった――一風変わった出だしが目を惹くこの作品。
ラグランジュと呼ばれるその秘宝は、あくまで「望みを叶えるチャンスを与える」だけであり、それを実現させるためには持ち主が相応の苦労をしなくてはならない。願いは自分で掴み取れと言わんばかりの、ある意味無責任なシステムが、主人公グランバッシュを振り回します。
軽妙な会話に迫真のバトル、そしてリアリティのある情景描写。次の頁次の頁へと読者をいざなうストーリー構成など、きわめて高い完成度の作品であると断言します。
特に秀逸だと思ったのは、主人公グランバッシュと相棒の神官エレムのキャラクターですね。グランバッシュは富や名声を求めるタイプではありませんが、いわゆる「やれやれ系」のキャラというわけではなく、確固たる考えを持って自分の道を行く「いい男」です。一方のエレムは、神官という立場ながらもけっしてテンプレート的な堅物ではなく、世慣れたところも見せます。
過度に馴れ合う関係でもなく、かといって利害のみの付き合いというわけでもない。ちょうどいい距離感を持つコンビの空気が、実に心地よいのです。
このふたりに、謎の少女ランジュが加わって、ドタバタな珍道中が繰り広げられます。
作りこまれた世界観に没入し、あっという間に読了してしまいました。
本格ファンタジーを読みたい方には、自信を持っておすすめできます。
あれ、ここで終わるの? というところで完結となっており、困惑していたのですが、「小説家になろう」のほうに続編が掲載されているようです。これから早速読みにいかせていただきます。