第16話 独立
二十年前の病室で誰かが言ったあの言葉。
「あなたもみんなの役に立っている、あなたはまだ、それに気付いてないだけ」
当時から僕はゆみが言ってくれたのではないか、と思っていた。それを確かめるためにゆみの誕生日に、花束とメッセージをゆみの実家に送ったが、返事はなかった。
それから間もなく仕事がにわかに忙しくなった。大手電機メーカーの企画担当から量販店担当になり、営業でのプロジェクトは成功し、昇格した。
次の年携帯電話の本格的販売のため、福岡の九州支社に営業の精鋭が集まり、そこに転勤もした。もちろん栄転で、九州全部を統括する部署だった。九州全部の支店を行き来しながらのやりがいのある仕事で、仕事に忙殺される日々を過ごしていた。確かに充実した毎日だった。
そんな中、友人から独立の話を持ちかけられた大企業の歯車としてではなく、自分たちが会社を立ち上げて、今まで働いてきた企業と取引しながら、生きていこうという内容の話だった。僕はその時独立した周りの人のスキルや経験その他、独立した人たちからの話を聞いてみた。そして会社の上司とも相談してみた。すると会社の専務に、自分が会社を作るからそこに来ないかと言われた。毎日の仕事と独立の話、寝る時間が一日、二、三時間という日々が続いた。毎年欠かすことのない、かおるの墓参りに、その年には行けなかった・・・・・。
僕が出張の帰りに倒れたのはそんな時だった。熱中症と診断されたが、友人らは働きすぎだの、儲けすぎてバチが当たったと、電話口の友人たちが励ましてくれた。
二度目に倒れたのは二カ月後くらいでその時には不眠と疲労が原因と言われた。会社からも両親からも、不眠治療のため入院を勧められた。とりあえず病院に行ってみた。すると、病院の先生から、十畳くらいの部屋どこでもいいからとのことだった。三日間入院してみたが、その病院の主治医から三日間しか寝ておらず、薬による治療が必要だといわれ、しばらく入院することになった。十か月後、退院と同時に、僕は大手電機メーカーを辞め独立の道を選んだ。
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