第15話 まだ忘れられない

ある日ふと思い立った僕は、リビングのコルクボードに飾って置いていたかおるの写真を整理し始めた。

「どうしたの?」

ゆみがそっと聞いた。

「べつに・・・・・」

理由がないわけではない。僕はまだ、かおるとゆみの間にいる、どっちつかずの自分に、少々後ろめたさを感じていた。誰に?

ゆみにもかおるにでもある。

「まだ忘れちゃダメ」

「まだって」

「初めにいったでしょ、あの人のことは忘れなくていいって」

「・・・・・」

「忘れてしまったのなら仕方ないけど」

ゆみは微笑んでいる。

「まだ忘れてないんでしょ」

軽くキスをして僕の手から僕の手から写真を抜き取る。ゆみはそれぞれを元あった場所に正しく戻していった。ゆみが場所を覚えてしまうほど長く写真はそこにあったのだと、僕はその時気がついた。

「どうせ方付けるのだったら、コルクボード三枚ごと全部、うっしーのクローゼットの中かアルバムを買ってきて整理したらどう?」

ゆみが悪戯っぽく笑う。

それを見て僕はゆみにこう言った。

「今からアルバムを買いに行こう」

「本気なの?」

「本気だよ」

その日、僕はゆみといっしょ近くのショッピングモールにアルバムを買いに行き、写真を整理した後、思い切ってコルクボードを処分した。ただそれだけのために休日の半分を費やした。

二、三週間くらいたったある日、僕はふとある思いが浮かんだ。

「僕にはもう子供ができないのではないか」

ゆみに相談してみた。ゆみは病院を探してくれて、予約をして病院に行き僕は愕然とした。簡易検査の結果僕はもう子供が作れない体になっていた。精神的なものから来ていたらしい。

検査の結果を告げると、ゆみはこう言った。

「うっしーとならそれでもいいよ」

僕は嬉しかったが、そんなわけにもいかないと思った。

「ゆみの幸せを僕に奪う権利はない」

「いいじゃないの、私はうっしーといるだけで幸せなの」

それからしばらく、僕たちの生活は普段どうりに戻っていたが、それから約二か月後の僕の誕生日の前日に、「さよなら」と書いたメモを残して、ゆみは僕の部屋から出て行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る