第8節 初対面! 美少女二人

 始業式やホームルーム等の間、俺は自分の気持ちを整理していた。


 オテント様の効果を全く信じてない、といえば嘘になる。半信半疑、とはまた違うな。一割、いや、一%の可能性に、期待する心境だ。たとえどんなに微かな望みだろうと、捨てるのはもったいない気がする。行方不明の件が信憑性を高めてんのかな。


 俺がオテント様の効果を信じてみたくなるのは、他にも理由が思い当たる。


 オテント様の条件には、“学校の屋上”と“十代の人間”が含まれてる。俺の場合、高卒で就職予定だから、卒業したら二度とオテント様をできなくなってしまう。卒業してから未成年のうちに、学校の屋上に行くなんて無理だろうしな。この三年間が最後のチャンスなんだ。

 一生遊んで暮らすって夢もある。例えばオテント様で、大金が欲しいって願えば、叶うかもしれんのだろ。あわよくば、俺は将来の不安が消し飛び、悠々自適な生活を送れるんだ。

 そして新星さんの件もある。魔法使いになりたいっていうんだから、その願いを叶えさせてあげたい。俺も実際、新星さんが魔法使いになったとこ見てみたい。どんな魔法使うのか興味あるわ。彼女からギザ十を受け取ったのは、これも何かの縁とやらなのかね。

 だけどまぁ、望月さんに言われて気づいたわ。

 俺は今、オテント様で願いを叶えることに夢中だ。現実的な方の夢が、早くも叶ったわ。

 俺がひと皮むけるか否かは別として、美少女と接すること自体は、やっぱり楽しいよね。




 放課後、筧先生が去った五組の教室内。自席で俺が荷物をまとめていると、前側のドアから新星さんが覗いてきた。この教室に来たのは今回が初めてなのだろう。目が合った途端、カブト虫を見つけた幼い少年の如き顔で、彼女は接近してきた。応対することに煩わしさを感じたので、敢えて帰り仕度を続行する。直後、机の前側を両手で侵略された。


「はるばる六組から来てあげたわよ」

「隣でしょうが。例の第三者には、話をつけてある。付いてきて」


 半数ほど残っている生徒らの、視線を感じつつ、俺は新星さんを伴って、望月さんの席を訪れた。


「望月さん。連れてきたよ。準備はいいかな」


 新星さんと対面した望月さんは、口を僅かに開いて固まった。我に返ったように答える。


「……あぁ。例の場所に行くぞ」


 俺は、新星さんに同行を促し、望月さんと共に教室を出て右折した。振り返ると、三歩ほど後方から、新星さんが追行する。三人とも手ぶらだ。階段に向かう途中、望月さんが俺の耳元で囁く。


「飛び切りの美人ではないか。どのような子を連れてくるのかと思ったが、予想外だ」


 君も負けないくらい可愛いよ。言えないっ。こんなセリフ言えないっ。


「いかにして知り合ったのだ」


 あぁっ、望月さんと肩が触れ合ってるっ。柔らけぇー。落ち着け俺。


「通学路が被っててさ、昨日登校中に出会って、俺が声を掛けたんだ」

「ほう。君がナンパをするとはな」

「そんな不純な動機で話し掛けたんじゃないよっ」

「さては、君が夢中になっているものは、彼女のことか」

「違うもん。断じて違うもん」

「ムキになって否定するところが、怪しいぞ。今朝、進展でもあったのか」


 流し目の望月さん。後方を振り向いた俺の視界に、新星さんの膨れっ面が入る。


 ほったらかしにされてご立腹らしい。話が終わった頃には上機嫌になってるかもな。


 階段付近で足を止めた。階下へ向かう生徒の、通行量が多い。


「望月さん。今は屋上への階段上ると目立ちそうだね」


 俺が美少女二人と一緒に居ること自体、傍から見れば、さぞ異様な光景だろう。


「私たちを怪しんで、誰か上ってくるかもしれないな。話す場所を変えよう。人気ひとけの無い所が望ましい」


 俺は周囲を見回す。目に留まったのは、階段前を通り過ぎた先、廊下の突き当たりにある部屋。両開き戸の上部に、化学室と表示されている。望月さんも同様に顔を向けていた。


「化学室か。人通りが途切れたら、行ってみよう。無人だといいのだが」


 頃合いを見計らって、望月さんが化学室の前に駆け寄った。少しドアを開け、室内を覗く。

 俺たちが手招きされ、俺、新星さん、望月さんの順で入室。廊下を覗きながら、望月さんはドアを閉めた。


「見ての通り、誰も居ないようだ。ここで話すとしよう」


 望月さんは生徒用の机側に歩いていく。続こうとする俺だったが、右腕を新星さんに掴まれ、引き寄せられた。小声で会話を始める。


「誰なん、あの子」

「クラスメイトだよ」

「あんたの何なん」

「だからクラスメイトだってば。聞きたいことは山ほどあるだろうけど、今は大人しく向こうに座ってよ」

「もう訳分かれへんわ。あんたら二人でヒソヒソ話して、こないなとこに連れてこられて」


 今は自分もヒソヒソ話してるだろうが。


「新星さん」


 不満気な顔で見上げる新星さん。俺は肩の力を抜き、真剣な表情で問い掛ける。


「魔法使いになりたいってのは、本心なの」

「しつこいなぁ。ホンマやって言うたやん」


 俺は、右胸内側のポケットから、例のメモ紙を取り出した。新星さんに提示する。


「これ読んでみて」


 新星さんは受け取り、黙ってメモ紙を睨み付ける。


 新星さんは、オテント様のこと、果たして信じるだろうか。


 望月さんの方を一旦見やると、彼女は椅子に座って俺たちを眺めている。

 読み終えたのか、新星さんが顔を上げた。

 最初に出たのは、声ではなく、手。新星さんは右拳を、俺の腹に叩き込んだのだ。うめき声が漏れる。


「何でこないな話今まで黙ってたんよ!」

「殴ることないでしょーがっ」

「これホンマなん? 願いが叶ってしまうん? なぁ、どうなん」


 新星さんは嬉々として詰め寄る。


「んん、まぁいい。詳しい話は、あの人が教えてくれる」


 俺が掌で示す方へ、新星さんも振り向く。目を細め、口元を左手で覆い、声は出さず、肩を震わせる望月さんの姿があった。


 望月さん、クスクス笑いやがって。あんなに表情が緩んでるとこ初めて見たわ。


 俺と新星さんは、机を挟んで望月さんの反対側の席に腰掛けた。


「えっと、俺は二人共知ってるけど、君らは初対面なんだよね」


 豪華なツーショットだこと。


「申し遅れてすまない。私の名は望月絵利果。古森君にオテント様のことを伝えた者だ」


 新星さんの視線が、メモ紙に一瞬落ちた後、俺、望月さんの順に移った。


「あっ、ウチは六組の、新星緩菜」


 ……。法衣云々は言わんのかい。


「よろしくな、緩菜さん」

「うん、よろしゅうな、絵利果」

「今君が持っているメモ紙は、昨日、私が書いて古森君に見せた物だ」

「あぁ、そうなんや。どうりで女子が使うようなメモ帳の紙やと思たわ」


 確かに、俺が差し出したから本人が書いた物だろう、と誤解されるか。


「昨日、ひょんなきっかけで、古森君に伝えてな。今から君にも、詳しく教えてやる」


 俺たちが屋上に出入りしたこと、新星さんには伏せるんだろうか。


「緩菜さん。そのメモの中身と、これから私が話す内容は、口外を控えてほしい」

「あら、内緒なん。――えぇよ」


 俺も改めて聞こう。オテント様の話。



 望月さんはオテント様について、昨日俺に話した時と同様に語っていく。但し、自分と俺が万葉高校の屋上に忍び込んだことや、自らが儀式を実行したことについては、触れなかった。新星さんに伝えたのは、四ツ葉中で流れている噂、及び二十年前に生徒が行方不明になった事例、そして今日こんにちに至るまでの話である。

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