第5節 願いが叶う儀式! オ○ン○様のやり方

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 オテント様のやり方


 太陽に見つめられている時

 学校の屋上で

 十代の人間が

 ギザ十を

 空に向けて放り投げ、願いを叫び終え、落とさずキャッチする

 そのギザ十を日没までに消費する


 ※全ての条件を満たすことで願いが叶う

 ※物欲に関する願いは無効

 ※一連の作業を一人で行わなければ無効

 ※ギザ十をキャッチした後、日没までに消費しなければ死亡


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 俺が十歳だったら目の色変えて読んでたかもな。今ですら若干ワクワクしてしまったことは認める。ギザ十という言葉が、余計に俺を奮い立たせたんだろう。


 俺は顔を上げた。


「望月さんよ」

「ん、何だね古森君」

「この紙に書いた内容は、事実なの?」

「実際に願いが叶うのかは知らない。只――」


 望月さんの声が、より低めになる。


「オテント様が原因と思われる、妙な事例が、過去にあるのだ」

「妙な事例……。どんなの」

「二十年前に、四ツ葉中で起こった出来事らしくてな。四ツ葉町では密かに有名な話だ」


 望月さんは、怪談でも話すような口調で伝える。


「昔から、四ツ葉中ではオテント様の噂が流れていたのだ。あ、内容はそのメモ通りな。当時の四ツ葉中は屋上へ生徒が自由に出入りできたから、半信半疑とはいえオテント様を実行してみる生徒が多数居たらしい。何せ中学生という多感な時期だ、夢や悩み等を抱え込んでいるものだろ。オテント様は正に願ったり叶ったりの儀式。関心を寄せるわけだ」


 効果があるとは思えんけど、確かに興味を惹かれるわ、この儀式。


「だがオテント様で願いが叶った者は誰ひとり居なかった。終いには、誰かが広めたデマなのだろうという結論に至って、ブームは過ぎ去ったのだ」


 そうだろな。十円で願いが叶うなら、もっと有名な話になってたはずだ。


「そんな中、男子の間で、オテント様に関する実験が行われた。ふざけ半分でな」


 俺はメモ紙を持ったまま、相槌を打っている。


「オテント様をして、日没までにギザ十を消費しなかったら、本当に死ぬのか、とな」


 いつの時代も野郎どもはバカなことが好きらしい。俺もその気持ち、分からんでもない。


「実験の結果は、無事に生還。当該の生徒は、心身共に異常も無かった」


 本人は内心怖かったかもしれんね。


「その実験がきっかけで男子の間では、昼間の肝試しといった感覚なのか、儀式でキャッチした後、敢えてギザ十を持っておく生徒が、ちらほら居たのだ。以上を経て、某日を迎える」


 妙な事例の発生した日か。


「当日の放課後、一人の生徒が普通にオテント様をしている時、他の生徒たちが屋上へのドアを内側から固定して、屋上に居る生徒を日没まで閉じ込めたそうだ。悪戯目的でな」


 屋上では……ギザ十を消費できんよな。


「日が落ちて、内側からドアを開けると、オテント様をした生徒は屋上に居なかった」


 えっ。どこ行ったんだ。


「もしやと思い生徒たちが屋上から見下ろしたが、地面には、儀式をした生徒の、飛び降りたような形跡も姿も、無かった。屋上に残っていたのは、衣服、靴、荷物、そしてギザ十」


 ……どういうこった。屋上に閉じ込められたからって飛び降りんだろうし、落ちたら無事では済まんよな。最悪、死ぬ。なのに姿すら無いなんて。しかもなぜ脱いだ。


「つまりその生徒は肉体だけ行方不明になった。一件に関わった生徒たちは、警察の調べに対してシラを切っていたらしい。たとえ説明したところで、大人たちは理解しかねるだろう」


 警察をからかうんじゃない、とか言われそう。


「オテント様をして、日没までにギザ十を消費しなかった者は、それ以前から何人も居た。ではなぜ一人だけ行方不明になったのか。その疑問について、解明されることはなかった」


 ……。下手に死亡するより、行方不明になると余計不気味だな。


「以降、オテント様で肝試しをする輩は、影を潜めた。時代は変遷し、やがて四ツ葉中の屋上は、生徒の立ち入りが禁じられてな。理由は、生徒の非行等を防止する為らしい。オテント様はできなくなったが、思春期の生徒たちにとって魅力的な儀式であることに変わりはない」


 望月さんの話に聞き入る俺。


「そもそもオテント様を最初におこなった者は誰なのか。儀式のやり方をいかにして知ったのか。オテント様で願いが叶った者は存在するのか。謎が謎を呼ぶこの儀式は、今も四ツ葉町の小中学校に於いて、児童や生徒の間で密かに語り継がれているそうだ」


 俺は、メモ紙を掴む手が汗で濡れていることに気づいた。ズボンで手を拭いて、尋ねる。


「望月さんは、オテント様をいつ頃知ったの」

「小学生の頃だ。私は女子の間で、オテント様のやり方を聞いた。小中とも屋上は立ち入り禁止だったし、校則違反をするのは、今より罪悪感が強かったから、中学までは屋上に行った経験が無い。しかも、ギザ十を入手したのはつい先週。だから、実際にオテント様をしたのも、今回が初めてだ。念の為持ってきたことが、幸いした」


 俺はメモ紙と照らし合わせながら、本日の望月さんの行動を振り返る。


「つまり望月さんは、今日ギザ十を持参し、屋上への階段を見つけ、筧先生に質問。放課後、人目を忍び、極秘の手段で屋上に侵入。何らかの願いを叶えたくて、オテント様をしたの」

「花丸を付けてやる。今日は昼までだし、上級生が休みだから、都合がいいと思ってな」


 そうか、日没までの時間に、余裕のある方がいいよな。屋上に忍び込んで、願いを叫ぶ必要もあるから、人の少ない時の方がバレにくいし。……何で真面目に考えてんだ俺。


「望月さんは、いつから屋上に居たの」

「放課後、他の生徒たちや保護者たちが下校するまで、私は一旦学校から出て、昼食がてらに万葉駅で時間を潰してきた。戻って屋上に侵入したのは、二時前だったと思う」

「教室で俺が目を覚ました頃か」


 搭屋の前で問われた、望月さんの言葉が思い浮かぶ。


《君が先程四階に居た時、誰かの声が聞こえたか》


「ん、じゃあもしかして、俺は望月さんの叫び声で起きたのかもね」

「聞こえなかったのだよな」

「記憶にございません」

「君がドアの前に来なければ、今頃私の願いは叶っていたかもしれない」

「お生憎様」


 俺の視線が、彼女とメモ紙の間を、上下する。


「立ち入り禁止の屋上に忍び込んでまで儀式をするってことは、オテント様を信じ込んでるんだね、望月さん」


 望月さんは、大きな目を少し細める。


「高校生にもなって、迷信じみたことを信じる人は幼稚だ、と言いたいのか、古森君」

「え、ん、……うん」

「男子には理解できまい。乙女はロマンチストが多いのだ。夢ぐらい見させてくれ」


 夢――。


 教室で語られた、望月さんの自己紹介を、脳内で再生する。


《私の夢は、……痩せることです》


「ちなみにさ、望月さんが叶えようとした願いは、痩せること、かな」

「……想像に任せる。痩せている君には、どうせ私の気持ちなど分からないだろう」


 彼女は、微かな恥じらいを覗かせた。


「俺から見れば、気にするほど望月さん太ってないよ。ぽっちゃりしてて可愛いって」


 女子に面と向かって、可愛いだなんて言いやがった。あまり調子に乗るな俺。


「私の脂肪を、君に分けられるものなら分けてやりたいところだ」


 照れてるのかな。ポーカーフェイス気味だから分かりにくいわ。


 俺は、搭屋の前で黙りこくっていた望月さんを、思い返す。


「どんなおまじないかを明かすことさえ渋ってたのは、何でかな」


 鍵の件は、依然として真相が不明だな。俺はピッキングの説を唱えてる。


「オテント様は、一歩間違えば危険な儀式だ。他人に軽々しく教えない方がいい。のろいと書いてまじないとも読むのだ。それに私は、この学校にオテント様の噂が広まってほしくない」

「俺に話して良かったの? 口の堅さアピールが効いたのかな。俺の話を信じてくれたの」

「君が語ってくれたことを裏付ける証拠が、その、無いこともない、かなぁと」

「ん、どうしたの。遠慮なく言ってみて。俺怒らんから」


 気まずそうに答える望月さん。


「古森君は、見るからに孤独なオーラを放っているのでな」

「悪かったな。……別に今のは怒ったんじゃないからね。ちっとも怒ってないよ」


 望月さん、意外とそんな冗談も言えるんだ。うん、冗談ってことにしておこう。


「余計な世話かもしれないが、孤独云々の件は、他の人に言わない方がいいぞ。そういうのは、ほら、特に女子は嫌がると思うのだ」

「分かってるよ。俺は自分のことをむやみに曝け出すタイプじゃないもん。さっきは、望月さんから事情を聞きたくて、仕方なく打ち明けたんだよ」


 不意に俺の胃袋が、低音で空腹を訴えた。望月さんは微苦笑を浮かべる。


「古森君は、まだ昼ご飯を食べていないのだよな」

「うん。俺そろそろ帰りたい」


 彼女はスカートの右ポケットからケータイを取り出し、画面を目視。時刻の確認だろうか。


「私も、行かなければ。最後の条件を満たす為に」


 望月さんはケータイを元へ納めた。青いリュックを背負い、立ち上がる。


「条件って……あっ、そういや君は、まだ消費してない、よね」


 俺はメモ紙の注意書きを音読する。

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