7COLOR
陽輔が家の中に入ると、既に中に入っていた若い男は、部屋の中をあちこち歩き回りながら何かをしていた。
声を掛けようとする陽輔を、片手で制止し、再び歩き回る。
全ての部屋を確認し終えると、ようやく陽輔の元へ戻り、口を開く。
「今、全ての部屋を探索して来た。異常はない様だ。不審者も潜んでいなかった。だが念の為、直ぐに自室の合法・非合法の機材の確認をした方が良い。あれは、いろいろな細工を施せそうだ。」
(はぁ~・・・久々の再開だって謂うのに・・・ホントにこいつはやりずらい・・・でも、そこまで慎重にしなければいけないくらい、相手にもプロが係わっていると謂う事か・・・)
ここは、相手の謂う事に黙って従おう。
「あぁ、直ぐ作業に取り掛かる。元々、対策はしてあったから、そんなに時間は取らない。今、確認して来て良いか?」
「あぁ、構わない。オレは適当にしているから、さっさと作業に取り掛かってくれ。恐らく、早急に動いた方が良い。」
陽輔は、直ぐに自室にこもり、機材に悪戯されていないかを確認しだした。
全てのPCには、ハッキングに対しては勿論、直接室内へ侵入し小細工しても、強固なブロックをかけている。
ただの素人が遊び半分で侵入しようとしても、あっという間に返り討ちにしてやっている。
けれど、プロが係わっているとしたら、どこまで防御出来ているのか多少の不安もある。
現役の頃なら誰にも負ける気はしなかったが、今では腕も鈍り、素人に毛の生えた様なものだろう。
しかし、どうやら杞憂に終わった様だ。
侵入は認められなかった。
と謂う事は、まだ俺がこの件に係わっている事が、ましろ経由で表沙汰になっていない証拠だ。
でも、猶予はないはずだ。
急がないと、何もかも失い、取り返しのつかない事になる。
陽輔は、リビングへ降り唖然とし、同時に『良い気味だ』とほくそ笑む。
暫く一人にしていた若い男は、アサヒの熱烈歓迎を受け、半ばボロボロになっていたからだ。
良い気味だと思いつつ、複雑な思いもした。
(あいつにも、こんなに直ぐに懐くナンて、どれだけ嫌われてるんだ、俺・・・)
さっきまでの緊迫感を、一気に台無しにした光景を目にし、陽輔はつい緩んだ心持になってしまった。
すっかり、放置して眺めていると、流石に限界だったのだろう。
歓迎を受けていた本人から、SOSが発せられた。
「オイ、黙って見てないで助けろ!!犬は・・・好きだが・・・こんなに熱烈な歓迎は・・・む・・・無理・・・た・・・頼む、兄さん!!助けてくれ!!」
陽輔は『助けてくれ』の一声を聞き、ニヤニヤしながら、何故か勝ち誇った様に、ようやく行動を起こした。
アサヒには、ゲージの中へ速やかに退場して頂いた。
本人は、まだまだ歓迎し足りない様子だったが、渋々納得頂いた。
「うちの住人の歓迎も済んだ事だし、本題に入りたいんだが、良いか?」
床に
グッタリとした状態から、一つ咳払いをし、上体を起こす。
「あっ??あぁ、構わない。そうしよう。兄さんの方から聞こうか。恐らく、オレの調査案件と同一の内容だろう。」
陽輔の弟、
場所を陽輔の部屋に移し、ようやく落ち着いて話をする事にする。
「所で、お前。ここの場所良く分かったな。お前に連絡入れたのも久々だったし、住所も知らせていなかったはずだろう?」
「あぁ、そんな事・・・オレが何処で働いているのかも忘れてしまったのか?相変わらずガッカリ全開なんだな・・・国家機関・特務省庁直属・特務調査部だぞ。ここだけの話だが、国民の情報は全て手中にある。こんなボロ屋敷の住所どころか、兄さんが数年前まで遊び半分でやっていたハッキングも、バレバレだったんだぞ!最近は挑まれた相手に対しての報復として、サイバー犯罪取り締まり本部に、いつの間にか繋がる様にしてるだろ!!」
久々に再開した弟は、ここぞとばかりに、説教しだした。
(いや、だから・・・本題に入りたいんだが・・・変なスイッチ入れちまったみたいだな・・・)
「いや、犯罪予備軍を更生の道に導いたんだから、褒められはしても、説教される覚えはないぞ。」
「そう謂う問題じゃない!!どうせ『犯罪予備軍は楽して捕まえられるんだから、俺の事は見逃せ』って謂う計算ずくの行為だろ!!しかも、あちこちの機密機関へ入りこんで、甘いシステムを勝手にプログラミングし直して、強固にしてやってるだろ!!全く!!兄さんも兄さんだが、あいつらもあいつらだ!!甘んじてそのままでいるなんて、国家機関が聞いて呆れる!!だいたい・・・」
(すんげぇ怒ってんな。止まらないじゃん・・・どうしたら止まるんだろ?またアサヒに相手してもらうか?いや・・・それだと、今以上に会話にならなくなるしな・・・)
途中からすっかり弟の説教を聞き流していた陽輔だったが、ついに、聞き流している事もバレる。
「聞いてるのか!!全く、だいたい兄さんはだな!!」
「分かった!!分かったから!!今までの不平不満は全部かたがついたら、改めて聞くから、本題に入らせてくれ。その前に、最初に謝らせてくれ。いくら打つ手がなくなったからと謂って、今まで何の音沙汰も無かったのに、結果、巻き込む事になってすまん。そして、頼む。助けてくれ!!」
そう謂って、陽輔は頭を深々と下げた。
それを見た直哉は、一瞬息をのんだが直ぐに陽輔の頭を上げさせる。
「やめてくれ。そんな頼み、要らないんだ。今、世間で黒い噂として広まっている件だろう?しかも、父さんが深く係わっているって。」
陽輔は下げていた頭を上げ、弟を見つめた。
直哉は苦渋の面持ちだった。
そして、全て悟った。
「お前・・・今、調査してるのか?でも、身内の事だ、良く外されなかったな。」
「いや。元々、調査チームから外されていたんだ。自分から志願した。今でもオレがチームにいる事を良く思ってない奴の方が多いんだ。いざとなったら、父さんを逃走させたり、証拠を消したり。オレが手を貸すかもしれないと。」
「だろうな。だったらナンで志願したんだ?」
「そんなの決まってる。身内だからこそだ。逮捕するなら、オレがしなきゃいけないと思ったからだ。けれど、本当の黒幕は他に居る気もするんだ。父さんを過信している訳では無く、何か釈然としない所がある。それに、恥ずかしい話だが、国家機関だからと謂って、全員が清廉潔白な訳では無い。父さんだけが
そこまで謂って、余計に苦しげな表情になる直哉。
「国家機関の人間も係わっている様なんだ。だから、どこまで事実が事実として明かされるか、今の時点では分からない。深く知り過ぎて
「あぁ、勿論だ。」
お互いに、頼れる人物が他に思い浮かばなかったと謂う、切迫した事態だと、改めて思い知らされる結果となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます