第一話09〜11

 09


 病院に着いた僕たち二人は、広いロビーを抜け、病院の奥にあるエレベーターに乗り込む。

そして、僕は三階のボタンを押した。


「三階にその医院長が?」


女は首を傾げながら僕に尋ねる。


「いいや、違うよ。これはコマンドみたいなもの。隠しコマンド」

「隠し……コマンド?」

「あん? ゲームとかやったことないのか?」

「ゲームは小学生の頃に少しやったくらいね」

「ふーん……まぁそんなもんか。えーっとまぁ見てろ」


言って僕は続いて一階のボタンを押した。

そして五階のボタン、四階のボタン、閉めるボタンを押してから、二階のボタンを押す。


「な、何がしたいの?」

「まぁ待っておけ。もうすぐだ」


すると、階数が表示される場所に、B1と表示された。


「地下一階……」

「そう、この手順でボタンを押すと、地下一階に行くようになってるんだよ。これは、この病院で働いていても、知っている人はほとんどいないと思うぜ?」

「ここに……医院長が?」

「ああ、通称……人身売壊セルセール白木しらきゐ譚いたん。僕の知ってる中じゃあ、最もイカれた男だよ」

「へぇ……」

「随分余裕そうだけど、まぁ、気をつけろよ。地下一階に入れば、そこはもう別世界だ。気を抜いてたら、いつの間にか身体中バラされてるぜ?」

「そう……わかったわ」


まぁ、僕以外にこの女は見えないのだから、身体がバラされるなんてことにはならないとは思うけれど……。

いや、でも仮に見つかったりしたら、こんな透明人間のような女……すぐに実験材料にされてしまう。

やはり気は引き締めていくべきだろう。

そして、エレベーターの扉は開かれた。


10


「ここに入ってきたということは……お前か。満月」


貧相な椅子に偉そうに座りながら、白木は僕の名を呼んだ。


「あぁ……久しぶりだな。白木」

「ふん、会いたくなかったよ。貴様にはな」

「相変わらずだな。僕のことはまだ嫌いなのか?」

「あぁ、この私が唯一嫌悪感を覚える人間がお前だ」


そう、僕はこの白木に嫌われている。

どれくらい嫌われているかを具体的に説明すると、会う度に殺されそうになるくらいには嫌われている。

この男、というかもうおっさんである白木は、人のことは基本嫌わない……が、僕に関しては例外らしい。

白木曰く、生まれた時から僕のことが嫌いだったという訳である。

その頃に僕は生まれてないんだけどなぁ……。

まぁ、特に理由も無く、人が人を嫌いになるなんてことは良くあることだ。

僕は初めて白木と会った時から白木に嫌われていた訳だし、人間というのは絶対に嫌いな人間が一人はいるものなのだろう。


「それで……用はなんだ? 満月。用もなく私に会いに来るほど、私とお前は仲良くなかったはずだが?」

「目を治してほしい」

「目?」


言って白木は眼鏡をかけた。

彼には似合わないほど派手な色の眼鏡である。

でも不思議と様になっているのは、彼の容姿が在ってのことだろうか?

白木は、俗に言う所のイケメン……という奴なのだ。

それも嫉妬するほどの……だ。


「ふむ、なるほど……どちらもナイフで一突きか。右はまだ軽傷ではあるが、どちらもかなり深い……。どこのプロにやられた?」

「え……あぁ、普通の女子高生に、少しな」

「普通の女子高生にだと? ふむ、面白い」

「面白くねえよ。痛かったよ。何なら今でも刺された時のリアクションが出来るくらいだ」

「ほお、ならして見ろ」

「え?」

「して見ろ……と言った。聞こえないのか? この無能が」


何故こんなことで無能とまで言われなくちゃあいけないのか……理不尽だ。


「えーっと、じゃあ、やるぞ?」

「早くしろ」

「うがっあぁっぁぁぁあっ! ぐぎゃあああっあぐぁぁぁああっ!」

「……」

「悪かったよ! 僕がリアクションが出来るだとか言ったのが悪かったよ! だから黙らないで下さいお願いします!」


僕は深々と頭を下げた。

くっ、何故こんなことで頭を下げているんだ……僕は。


「ふっ、冗談だ。ほら、茶でも飲め」

「ん? 珍しいな、白木が僕に何かくれるなんて……」


僕はそんなことを言いながら、出されたお茶を飲んだ。


「飲んだか……。良かったな、これで明日はトイレに引き篭もれるじゃないか」

「な、てめえっ! まさか下剤入れやがったのか⁉︎」

「ふん……騙されるのが悪い。私が出すものを飲んで、お前に良いことがあったことあるか?」

「うぐぐ……」


ない。

こいつが出した飲み物を飲んで、僕は何回も何回も酷い目にあっている。

解毒剤を探し、海外まで行ったこともあるくらいだ。

最近は気をつけていたけれど、つい油断してしまった。


「それで……僕の目は治せるか?」

「誰に聞いているんだ。私に出来ないことなどない。むしろ視力を上げて治してやろう……だが、対価は分かっているな? 嫌いな嫌いなお前の目を治してやるんだ。それ相応のものは貰うぞ?」

「わかってるよ。後払いになるけど……良いか?」

「……そうだな。それぐらいなら許してやろう」


良かった……今の僕に払えるような対価は何もない。


 その後、僕の目の治療が始まった。

手術は長時間に及ぶ……ことはなく、手術は難航する……こともなかった。

短時間でお手軽な感じに目は治った。

それも宣言通り、視力も上がって……。

すげぇ! 今まで見ていた世界と全然違う!


「ありがとうな。白木」

「ふむ、だが対価を払うのを忘れるなよ?」

「分かってるよ……」


さーて、対価ねぇ。

何にするべきやら……。


「さて、もう用が無いのなら早く帰れ。私はお前の顔を見ているだけで腹がたつ」


考えていると、そんなことを言われてしまった。

うーむ、確かにもう用はない。

目を治してもらったら、それで終了だ。

いや、でも……ちょっとまてよ?

物知りの白木のことだ。

もしかしたら、女の……臼白奏の症状について何か分かるかもしれない。

症状とは言ったものの、別に病気ではないから、白木の担当外ではあるだろうけど、まぁ聞くだけ聞いてみるとしよう。


「なぁ、白木」

「なんだ?」

「人間の存在感が、完全に無くなることって……あると思うか?」

「さあな……知らん。それはなんの話だ?」


白木は眼鏡越しにギラリとした目つきで僕を睨む。


「うぐ……えーっと、正直に言うと、僕の同級にいるんだよ。そういう子が」

「ほぉ……随分、興味深い話をするな。それで?」

「それでって……だから、存在感が完全に無い同級生がいる訳なんだけど。存在感が完全に無くなるなんてこと、ありえるのか? って話だよ」

「ふむ、心当たりが無いわけでもない」

「え⁉︎」


やっぱりダメ元でも聞いておいて良かった。

僕はホッと心の中で一息をつく。


「それで、その心当たりというのは?」

「二つある……一つずつ説明してやろう」

「あ、ありがとう」

「ふん、まずは一つ目……裏の世界の住人の仕業だ」

「…………っ⁉︎ 裏の世界ってことはまさか!」

「お前の予想通りだ。幻想奇術偶像師達なら、これくらいは出来るかもしれない」


幻想奇術偶像師…………殺死満鬼族や、白木異学団のような団体名を指す。

表では有名なマジシャンやらなんやらを選出している学校を経営しているが、裏では違法な薬物の取引、洗脳や催眠など、結構黒いことをやっている組織である。

つまり……この幻想奇術偶像師の誰かが、臼白奏を、何らかの方法で洗脳した……ということか?


「だが、これはないだろう」

「へ?」

「そう間抜けな声を出すな。気持ちが悪い。簡単なことだろう。確かに幻想奇術偶像師なら、そのお前の同級生に、誰からも存在を確認されないと錯覚させることは可能かもしれない……が、それは違うのだろう? 錯覚じゃあない。本当にお前の同級生は、誰からも存在を確認されていない。つまりだ……ここに幻想奇術偶像師を、組み込ませるとするならば、世界中の人間を洗脳しなければならない。流石にそれは、あの幻想奇術偶像師達でも無理だろう」

「確かに……そう考えれば、幻想奇術偶像師を犯人にするには少々牽強付会の感があるな……」

「そうだ。だからこそ、二つ目の考えを言うとしよう」

「あぁ、頼むよ」

「二つ目の考え、それは人外の仕業ということだ」

「人外…………? 人じゃない者の仕業だということなのか?」

「より正確に言うならば、人じゃない物の仕業だと言ったとこだろう……」


人じゃない……もしかして、まだ詳しくは聞いていないけれど、女の言っていた……『天使』。

天使の仕業だとでも言いたいのか?


「その同級生は……天使を見たと言っていた。もしかして、それが関係あるのか?」

「ほぉ、天使か」

「あぁ、天使だ。でも、僕は何かの比喩だと思っている。天使なんている訳がない。非現実的だよ」

「いや、天使がいる可能性はある」

「は? おいおい白木、お前ってそういうの信じるタイプなのか? 妖怪変化や魑魅魍魎、天使に悪魔に神に幽霊、UMAや宇宙人なんかを信じているのかよ……全く逆で、お前はそんなものを一切信じないのかと思っていたけど……」

「ふっ、偏見だな。医者や科学者だって信じている者は信じているし、信じていない者は信じていない。普通の人間と同じだ。それに……だ。お前は逆に、そういうものが絶対にいないと言い切れるのか? 火のないところに煙はたたないと言うように……伝承や、噂話、目撃情報などが、嘘が混じっていたとしてもある限り、そういうものが存在する可能性はあるのではないかと思わないのか?」

「…………確かに、可能性としてはあるかもしれないな」


だが……やはり天使の仕業だといのは、少々ファンタジックな考えではないだろうか?

僕としては疑問を感じざるを得ない。


「ふん、まぁ……詳しく聞かなければ、これ以上の事は分からんがな。私は万能じゃあない。それに……そろそろお前の顔を見るのも限界だ。先ほどから吐き気を催している。これ以上のことが知りたいのなら、その同級生とやらにもう少し詳しく話を聞き、もう一度来い。少しくらいなら答えてやる」

「そうか…………それにしても白木、今日は随分と優しいな? どういう風の吹き回しだよ」

「なーに、死ぬ前くらいは優しくしてやろうと言うことさ」

「え?」


僕がそんな間抜けな声を上げた瞬間……注射針が僕の顔の横をかすった。

くそっ! おかしいと思った!

白木が僕に会って、一度でも殺そうとしなかったことがあったか?

否……! 絶対にない。

僕と会うたびに僕を殺そうと殺そうとする男。

それが白木ゐ譚である。

その後も、延々と飛んでくる注射針を避けながら、僕は命からがらエレベーターに乗り込んだ。

乗り込んだ……が、困ったことになった。


「あの女……どこ行きやがった?」


そういえば、白木と話し始めた辺りから見かけていない。

この地下一階は十個ほどの部屋があるし、どこかを見学にでも行ったのだろうか?

最新の医療技術が揃っているからな……興味本位でどこかに行っていてもおかしくはない。

ちっ、でも今から注射針が飛び交う十個の部屋を回るのはキツイな……。

仕方ない。一旦上に上がって、注射針が収まった辺りでまた向かいに来るとしよう。

そう思い、僕は一階へと向かうボタンを押した。

数秒ほど経ち、一階へ着いたことを伝える音が、僕の耳に入ってきた。

そして、女を置いてきてしまったことに対する少しの罪悪感を感じながら、扉を開ける。

すると、目の前には女が立っていた。


「あれ? 上に戻っていたのか?」

「ええ、あの男を見た瞬間、吐き気を催してしまったのよ」

「……そうか」


どうやら女は、白木が僕を理由もなく嫌うように、白木のことを理由もなく嫌いになったようだった。


11


 その後、僕は天使について詳しく話を聞きたいということで、近くのファストフード店に女を連れて向かった。

そういえば夜ご飯を食べていなかったことに今更気付く。


「女は何頼む?」

「全てで」

「大食いキャラになろうとするな。お前は見た目からして少食だろうが」

「あら、見た目で決めつけないでくれるかしら」

「なら全部頼むぞ?」

「ふっ、仕方ないわね。あなたの財産事情を考えて、今日は一品にしておいてあげましょう」


やっぱり食べられないんじゃないか……。

だが、こんな冗談を言うなんて少しは僕に心を開いてくれたということだろうか……?

まぁそれならば少しは嬉しいが。


 その後、注文した物を受け取り、僕は女と席に座った。


「それで……目は治ったのね?」

「うん、まあね。むしろ視力が上がった」

「流石ね……世界最大規模の医療技術が揃っているだけあるわ」

「まぁ、どっちかと言うと世界最大規模の医療技術なんかよりも、あの男……白木が異常なだけなんだけどね。年齢が二桁になる前には百を超える賞を貰っていたみたいだし」

「その割には……テレビなんかで聞いたこともないわよ?」

「当たり前だよ。異常に才能のある者、つまり異端者は表の社会から消されるからな」

「なるほど……」

「まぁ詳しくは知らなくていい。お前はその症状が無ければ、普通の人間なんだからな。詳しく知ってしまうと、症状が無くなっても闇の世界を歩むことになってしまうぜ?」

「……重々承知したわ」


重々承知してくれたらしいので、僕は安心してドリンクを一口飲む。

それから、話のマクラとしてとりあえず、どうでも言い質問を女にしてみた。


「なぁ、こういう店にはよく来るのか?」

「え? あぁ……そうね。私は余りこういう店には行かなかったわ」

「ふーん……」

「それに存在感が無くなってからは、ほとんどのお店を利用できなくなってしまったし……」

「じゃあお前、ご飯とかどうしていたんだよ」

「大変心苦しいけれど……万引きね。近くのスーパーで万引き」

「寝るところは?」

「学校を利用させて貰っていたわ」

「風呂は?」

「銭湯に」


……思ったより辛い生活を、こいつはしているのかもしれない。

食事のたびに罪悪感で胸を痛ませ、寝るところは暗く閉ざされた、誰もいない学校。風呂についても、存在感が無ければ誰かにぶつかられて怪我なんかをする可能性があるから、恐らく遅い時間にわざわざ毎日銭湯へ通っているのだろう。

存在感が無い……一種の透明人間のようで、楽しそうに見えるかもしれないが、それは違う。

むしろ、何よりも残酷だ。

だって、自分という存在がまるで、最初から無かったかのように扱われるのだから……。

それは残酷と言うよりも、地獄……と言えるほどだ。


「それで……これからどうするの?」


すると、女は口を開いた。


「どうするって……お前から話を聞かせてもらうよ。天使とやらについてな」

「……そう」


女は心配そうな声でそう言ってから、ドリンクを飲んだ。


「大丈夫だ、心配するな。お前が思っているより、この件はもう結構解決編に向かっているんだぜ?」

「え? 本当に?」

「ああ、さっきな。白木に目を治して貰った時、ついでに色々聞いてみた。あいつは頭が良いからな。というか、色んな知識を持っているからな。何か参考になるかと思って……そうしたら、見事に事は進んだよ」


そうは言ってみたものの、これには少し嘘が混じる。

先程、解決編に向かっているんだぜ? なんてことを言ったものの、実は、そこまで解決編に向かっている訳でもないのだ。

分かったことは一つだけ、人外の仕業だということだけだ。

人外というか、天使の仕業だということだけである。

それも、天使がいると仮定してでの話だが…………つまり、今から女に話を聞き、その結果次第では、解決が遠のいてしまうのである。



「ふーん……」

「ということで、な。後引っかかっている謎は天使だけって訳だ。天使について詳しく話を聞きたい」

「良いわよ。でも、その前に食事を済まして、お風呂に入りましょう」


お風呂って……こいつ。

一刻も早くその症状を治したいと思わないのか?

いや、もう数ヶ月間この状態の女である。

そりゃあもちろん、早く治るのに越したことはないけれど、女からすれば恐らく、治ればそれでいいのだ。

それよりも、この一日の疲れを風呂にでも浸かって癒したいのだろう。

後、やはり女の子なのだし、身体を綺麗に保ちたい気持ちが強いのかもしれない。


「別に良いけど……風呂って、また銭湯まで行くのか?」

「いいえ、違うわ」


あれ? 違ったか。

でもさっきは風呂は銭湯でって……。

すると、女は僕をスッと指差した。


「ビームでも出すのか?」

「違うわ。あなたの家のお風呂を借りるのよ」

「へ?」

「だから、あなたの家のお風呂を借りるのよ」

「…………」


どうしよう……こんなことになるなら、部屋を片付けておけばよかった。

なにせ一人暮らしの身である。

見られてはいけないものや見られてはいけないものが沢山ある。

なにせ思春期だ。青春期だ。

仕方がないことだろう。

ということで、僕は言い訳をすることにした。

口は上手いほうではないけれど、頑張るとしよう。


「因みに、お風呂が家にないだとか、水道が壊れているだとか、家が汚いだとか、家が狭いだとか、家がないだとかの言い訳は無しよ?」

「言い訳の手段を全て封じられただと⁉︎」


頑張れ無かった……頑張る隙も、付け入る隙も無かった。

完膚なきまでに負けてしまった……。


「それじゃあ、よろしくね?」

「うぐ…………分かったよ」


こうして、僕は渋々ながらも女を家に招くことになってしまった。

くっ……こいつを招くくらいなら、まだ災いを招いたほうがマシだぜ。

ほら、災いの方は、災い転じて服と茄子って言うしな。

服だけでなく茄子もくれるなんて、災いさん超太っ腹である。


「それを言うなら、災い転じて福となすよ。あなたは服と茄子を貰ってどうする気なのよ……」

「あれ? 声に出てた?」

「ええ、『くっ……こいつを招くくらいなら』というところから、『超太っ腹である』までね」

「全てじゃねえか!」


駄目だ……心に思ったことを口に出すなんて僕、相当疲れているじゃないか。

うーむ……もう春だから最近はシャワーだけで済ましていたが、今日はゆっくり風呂に浸かるとするか。


「さて、じゃあそろそろ食べ始めよう。もうほとんど冷めてしまっている」

「そうね」


ということで、僕たちはすっかり忘れていた食事を始めた。

うん、やっぱりここのハンバーガーは美味しい。

値段は学生にも優しいし、まさに学生の味方って感じだ。

そんなつまらないことを考えながら食べていると、すぐに食事は終了した。

ふと目の前に座っている女を見る。

女も見られているのに気付いたのかこちらを見た。


「何かしら?」


女は首を傾げて僕に尋ねる。


「いや、別に何もない。ただ見ているだけだ」

「ふーん…………そう、見るくらいなら許可するわ」


許可されたけれど、本当にただふと見ただけなので、僕は女から目を離す。

そして周りを見渡した。

周りの人には、この女が見えていないのか……。

はぁ……全く、酷いことをする天使もいるもんだ。

いや、まだはっきり天使の仕業なのかは分からないけれど……。


 そんなことを考えながら、僕は女が食べ終わるのを、ボーッと待った。


「ごちそうさまでした」

「ん? 食べ終わったのか?」

「ええ。では行きましょうか」

「行きましょうかってどこに?」

「誤魔化さないで」

「うぐぐ……そうだな。行こう」


こんな僕の無駄な抵抗も虚しく、僕は女を連れ、家へと帰った。


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