第二話04〜07

04


 奏が衝撃の真実を告白した次の日、昼休み。

僕は奏と弁当を食べていた。


「全く……昨日は驚かされたぜ」

「そう? ただ百合だということを宣言しただけよ?」

「それに驚かされたんだよ……お前、僕のことを好きだとか惚れただとか言ってなかったか?」

「言ったわ。だから基本的には百合なだけで例外はあるのよ。それがあなた」

「ふーん……」


そんな会話をしながら、僕たちはお弁当を食べ進める。

昔はこのお弁当の時間……つまり昼休みにあたる時間が物凄く嫌いだったが、奏と食べるようになってからはこの時間は苦痛ではなくなった。

むしろ、女子とお弁当を食べているというのは優越感でさえもある。

それに、なによりもまあやっぱり、気心の知れた相手との会話は楽しいのだ。

殺人鬼全盛期時代にもそんな相手はいないわけでもなかったが、やはり殺人鬼……会話は殺しのことだけなのでつまらない。

別に、僕は殺しはするけれど殺しのテクニックやら楽しさ、こだわりなんかはどうでも良いのだ。殺せればそれで良い。

そんな僕からすれば、他の殺人鬼たちの殺しに対するこだわりなんて聞いていて面白くもなんともなかった。

『殺した相手の髪の毛を抜く』というこだわりをもつやつがいた。

『殺した相手の眼球を集める』というこだわりをもつやつもいた。

『殺した相手に悪戯を働く』なんて変わり者もいた。

が、僕からすればそれは全て無駄にしか思えなかった。

殺せればそれで良いだろう……と思っていた。

そうだなぁ、そう考えると僕にもこだわりがあったのかもしれない。

『ただ殺す』短いけれど、これが僕の殺人鬼全盛期時代のこだわりだったのだ。

って、いけないな。食事の時に殺人鬼全盛期時代のころを思い出しても気持ち悪いだけだ。

まあここから弁当の話題に戻すとするならば、こだわり……という点か。

この弁当、奏が相当こだわって作ってくれている。

一品一品手間暇かけて、最高の出来になっていると言って良いだろう。


「美味しい?」


すると不意に、首を傾げた奏にそう聞かれた。

ちょうど弁当のことを考えていた時なので少しびっくりする。

まあ少し前の、殺人鬼全盛期時代の頃を考えていた時に聞かれていたらそれはそれでびっくりするのだろうけれど……。


「うん、最高」


僕は正直に感想を述べた。


「…………ありがとう」


奏は素っ気なくも照れながらそう言った。

僕は奏のこういう所は相当好きだ。

そんなことを思っていると、僕たちの方へとある女子が小走りでやって来た。


「HeyYo! お弁当一緒に食べようYoー!」

「なんでDj風?」


とある女子は渼羽だった。


「満月君とカナカナ、お弁当一緒に食べない?」

「カナカナ……?」


恐らく奏のことを言っているのだろうけれど……奏は困ったように首を傾げている。


「僕は良いけど……奏、お前は?」

「そうね。カナカナという呼び方を変えてくれたら考えなくもなくもなくもなくもなくもなくもないかもしれないかもね」

「多分良いな。じゃあ渼羽、座れよ」


僕が言うと、渼羽は僕の前の席に座った。

そしてお弁当箱を取り出した。

随分と小さいが、こんなんで足りるのだろうか?


「それで、なんでまた僕たちと弁当なんて?」

「え? そんなの友達になりたいからに決まってるじゃない。満月君と奏さん、いつも二人で楽しそうだし……私も仲良くなりたいなって」

「ふーん……」


僕は適当にそう返事する。

そんなに楽しそうに見えるかな……? 僕と奏。

まあ二人とも、クラスメイトと話さないから……その分話しているだけで楽しそうに見えるのかもしれない。


「あらあら、渼羽さん。渼羽哀無さん。私たちのように仲良くなんて無理よ。だって私たちは愛し合っているもの」

「え⁉︎ 満月君と奏さんって付き合ってるの? 仲が良いとは思っていたけど……」

「おい、軽く嘘を吐くな」


僕が奏と愛し合ったことなど一度たりともない。

奏よ、お前はなんで初めて話す人に対してそう簡単に嘘を吐けるんだ?


「私の将来の夢は詐欺師よ。嘘くらい吐くわ」

「お前の将来の夢を阻止するのを僕の将来の夢にしたくなってきたよ……」


こいつなら本当に詐欺師になりそうだ……。

将来、本当に詐欺師になっていたら止めてあげよう。

全力を尽くして止めてあげよう。


「まあそういう訳で、渼羽。僕たちは恋人同士でもなんでもない。決して勘違いしないでくれ」


僕がそう言うと渼羽は、「うん、わかったよ」と言ってから、「それにしても……」と続けた。


「それにしても、二人とも仲良いよね? なんていうか……通じあってる感じかな? 心から信頼し合っているというか……そんな感じ」

「そうか?」

「そうかしら?」


僕と奏は二人揃って首を傾げる。


「それを言うなら渼羽、お前だってクラスのみんなと仲が良いじゃねえか」

「うん……まあそうだけど、二人とは違うっていうか…………なんだか、上辺だけに感じるんだよね。クラスのみんなは……。心からは何も言えない、周りに合わせているだけ、そんな感じ」

「それは……まあ、学校って場所において、それが一番上手くやっていく方法なんだから仕方ないんじゃないのか?」

「うん、そうなんだけど……最近の二人を見てて思ったの。私も欲しい……心から語り合える、そんな友達が。って」


渼羽は儚げにそう言った。

心から語り合える友達……。

渼羽は確かに誰とでも仲良くは出来る。

だが、それは同時に……誰とも親友になれないということか。

それはなんというか……悲しいことだと僕は思った。

だから、僕は渼羽に言おうとした。

「なら、僕たちと親友になろう」と。

そんな言葉で親友になれるなんて思わないけれど……それでも今からの高校生活で、いつかそんな親友と呼べる関係になれるかもしれない。そう思って僕はそんなことを言おうとした。

が、その言葉は奏の言葉によって遮られた。


「浅ましいわ」

「え?」


奏の言葉に渼羽は驚いたようにそう言う。


「あなた、親友が欲しいと言ったけれど……本当に親友を作ろうとしていたのかしら? そのクラスのみんなと、深い仲になろうとしたのかしら? クラスのみんなが上辺の付き合いをしているんじゃなくて、あなたが上辺の付き合いをしているじゃないの? 誰にでも話しかけて、誰とでも仲良くなる……そんな人との付き合い方で、本当に親友が出来ると思っているの? 選り好みもせず、誰とでも友達になれるというのは確かに素晴らしいことだわ。けれど……それで一人一人との関係が浅くなっていたら意味はないの。私たちに親友が欲しいなんて言っているけれど、どうせ私たちもあなたの多数の友達の一人になるだけではないかしら? 本当に本当の友達が……親友が欲しいのなら、友達を切り捨てなさい。みんなと友達になって、それでいて親友も欲しいだなんてわがままよ。友達との関係だけでなく、考えも…………浅ましいわ」


奏は言う。正論を……やめることなく。

弾丸のように正論を放ち続ける。

普通の人なら怯んでしまうほどの勢いで、淡々と正論を述べ続ける。

が、渼羽が怯むことはなかった。


「そう…………だよね。うん! 奏さん。ありがとう」


なんと、立ち上がり奏の手を握ってそんなことを言った。


「やっぱり私……満月君と奏さんと親友になりたい。奏さんの今の言葉物凄く響いた。なんていうか……本音をぶつけてくれている感じかな? こういうのを……私は求めていたんだと思うの」

「はぁ……?」


奏は少し困惑したようにして僕の方を向き、助けを求めてきた。


「僕は良いと思うぜ。今すぐに親友って訳にはいかないと思うけど……渼羽がここまで言っているんだし、僕は渼羽と友達になりたいと思う」


僕がそう言うと、渼羽はパーっと顔を明るくして喜んだ。

そして奏の顔をジッと見て、「奏さんは……どうかな? 私と友達になってくれる?」と不安そうに首を傾げた。


「………………良いわよ」


奏は少し照れるようにして顔を渼羽から逸らしながらそう短く答えた。


「でも、私たちと親友になりたいのなら……さっきも言った通り、友達を切り捨てないといけないことになるわよ? 酷なことだけれど……やっぱり、クラスメイト全員と友達でありつつ、私たちと親友になるだなんて、間違っていると思うわ」

「大丈夫、たとえそれでクラスメイトのみんなから嫌われても、それでも! 私は奏さんと満月君と親友になりたいって思ったから……それにさっきの言葉、本当に嬉しかったし。初対面で浅ましいなんて言われたのはびっくりしたけど……私のこと、しっかり考えて言ってくれてるっていうのが伝わったから」

「……そう」


奏はそんな風に素っ気なく答えたが、その顔は心なしか喜んでいるように見えた。


「それにしても……いくら私たちと親友になりたいからといっても、友達を切り捨てるだなんて渼羽さん。あなた思っていたより性格悪いのね。私からすると信じられないわ、友達を切り捨てるだなんて」

「えー⁉︎ 奏さんが言ったんじゃないの!」

「ふふっ、冗談よ」


まあとにかくこんな感じで今日、僕と奏に友達が出来た。


05


 渼羽と友達になって一週間が過ぎた。

今日も昼休み……三人でお弁当を食べている。


「奏さん、満月君。今週の土曜日映画見に行こうよ」


渼羽は唐突にそんな提案をした。

映画……か。

僕、映画って見たことはないけれど、この前テレビで予告していたゾンビものの映画は少し興味があるんだよな。

それなら是非是非見に行きたいところだが。


「映画……三人でかしら?」

「うん」

「そうね。私も満月君も予定はないし良いわよ」


ん? 僕、奏に土曜日の予定なんて教えたか?

いや、絶対に教えていない。


「おいおい、僕に予定がないなんて決めつけるなよ。奏」

「あるの?」


あるわけがない。

が、決めつけられるのは嫌だ。

まあ、どっちにしろ予定はないので僕は正直に答えることにした。


「ねえよ」

「なら口を挟まないでくれるかしら? 私と渼羽さんがせっかく楽しく女の子同士でキャッキャウフフと和やかに話しているというのに邪魔よ?」

「酷い言いようだな……! 僕、お前になんか嫌われるようなことしたか?」

「いいえ、満月君は好きよ。でもそれ以上に渼羽さんが好きなだけ」


そういえばこの一週間、学校では僕よりも渼羽と話している時のほうが多かった気がする。

くっ、まさか一週間で奏の好感度序列において敗北するとは……!

恐るべし……渼羽哀無。


「えーっと、とにかく二人とも用事はないんだよね? じゃあ土曜日、学校の前に集合してそこから映画館ということで」

「わかったよ、渼羽」

「わかったわ、渼羽さん」


 まあそんな感じで予定も決まり、学校生活は淡々と過ぎていき土曜日。


「待ったかな?」


もう既に学校の前で待っていた僕と奏から遅れて渼羽がやってきた。

少し息を切らしているところを見ると寝坊でもしたのだろう。

全く……服も制服だし、って制服?


「渼羽、なんで制服なんだ?」

「確かに……渼羽さん。私はあなたのきゃんわいい〜私服を見て至福のひとときを過ごす為に来たというのに、なぜ制服なの?」


別に急いでいるからといっても制服を着る必要はないだろうし、本当……なんで制服なのだろうか?

いや、別に僕も奏みたいに渼羽の私服を見て至福のひとときを過ごそうだなんてことは思っていないけれど……。


「えー、っと……あのね。あのですね。いや、これといった事情はないけどね…………あはは」

「もしかしてまだ距離を置かれているのかしら? もっと親しくなってポイントを貯めないと渼羽さんの私服は解放されないの?」

「いや、そんなゲームみたいなシステムじゃないけど……えへへ」

「……では、なぜ制服のままなの? 校則で外でも制服だなんて決められている訳でもないし、もしかしてそういう主義なの?」

「えーっと…………う、うん! そういう主義なの。学校、家、パジャマにお出かけ、全部制服主義の哀無ちゃんなの」


本当だとしたら相当凄まじい話だが……というか本当ならいつ制服を洗うんだという話だが、その渼羽の言葉はなんだか嘘くさかった。

そう、渼羽の言うところである『上辺』の付き合いみたいに僕は感じた。


「そ、それよりさっそく映画へ行こうよ! あ、遅れたお礼にアイスおごるよ。アイスクリーム、略してアイス」

「最後の部分は別に言わなくてもわかるから……!」


誤魔化すように言った渼羽の言葉に僕は突っ込む。


「そうかな? そうであるかな、略してそうかな」

「口癖みたいになってる……⁉︎」

「あ、本当だ。本気で当たり、略して本当」

「そのキャラでいく気なのか……⁉︎」


語尾にいちいちその口癖入れてたら相当変だし面倒臭いのでとてもやめてほしいキャラだった。しかもいろいろ間違っていると思う。


「まあとりあえず行こうよ。映画館に」

「そうだな」

「そうね」


僕、奏とそう返事をし、僕たち三人は学校から近くの映画館へと向かった。



「これを…………見るのか?」


僕はチケット売り場にあるポスターを指差しそう言った。

すると渼羽はなんでもないように「え、そうだよ?」と首を軽く傾げながら言った。

いや……ちょっと待ってくれ。

僕たちは高校生だぞ?


「なあ……渼羽。本当にこのパンダやらウサギの可愛くデフォルメされたキャラクターがお花畑でわいわいと楽しんでいる保育園児が見そうな映画を見るのか?」

「そうだよ」

「…………おい、奏なんとかしてくれ」


僕は悩んだ末に奏に助けを求めた。


「そうね…………渼羽さん、本当にこういうのが好きなの?」

「え? 女の子なら誰でも好きでしょ?」

「…………まあ、確かに。女の子、可愛いものは皆好きよ。でもね、渼羽さん。これは……内容が高校生向きではないのよ」

「え? そんなことないと思うけど……監督さんだって頑張って作っているんだしそんなこと言うのは、め! ですよ」

「…………確かに、確かに監督さんは頑張っているかもしれないわ。でもね、これは小さい子たちのために頑張ったのよ。私たち高校生でも楽しめるようにと作られた映画ではないのよ」

「むー……わかったよ。じゃあなにを見るの?」

「そうね。私的にはこれがおすすめよ」


そう言って奏が指を指したのは、最近深夜にやっているアニメの劇場版だった。

僕はまぁ、奏が見ているのを少しみたくらいなのでよく知らないが……。


「おいおい奏。これ、アニメ版を見ていないと分からないやつじゃあないのか?」

「そうよ」

「僕たちが楽しめないじゃねえか」

「知らないわ」

「自分勝手すぎる……⁉︎」

「自分勝手とは失礼ね。自由奔放と言ってくれるかしら?」

「自由にするな! 奔放するな! お前……渼羽のこと言えないぞ」

「うるさいわね、このヘタレ殺人鬼が」

「お前やっぱり僕のこと嫌いになってるだろっ⁉︎」

「はぁ……じゃああなたのオススメはなんなの?」


ん? そこで僕に振るのか。まあ当然の流れではあるけれども……。

まあ見たい映画はあったし、それを言えば良いか。


「僕はこのゾンビ映画が良いと思うぜ」

「却下ね」

「却下だね」


奏、渼羽と続いて却下されてしまった。

うーむ、僕のが一番まともだと思うんだけどなぁ……。


「はぁ……もう仕方ないわね。三人で別々の映画を見ましょう」


すると奏はそんな提案をした。


「ちょっとまて、僕たち三人で来てるのに別々の映画を観るって悲しすぎないか?」

「そうね、確かに悲しいわ。私も渼羽さんとポップコーンを一緒に食べたかったもの。でもね、満月君……ここまで意見が食い違うのだから、仕方ないとは思わない?」

「思わねえよ」


どんな残念な奴らだよ。意見が食い違ったら解散って……。


「うーん、じゃあ間を取ってこれを見ようよ」


すると渼羽は次の提案をしてくれた。

次はまともだと良いのだが……。


「ん? なんだこれ英語のタイトルじゃん。読めねえよ」

「私も読めないわ」


僕はまだしも英語の成績が良いはずの奏まで読めないとは……。


「私も読めないよ」

「お前もかよ。なんで提案したんだよ」


渼羽も読めないようだった。

お前……一応は天才なんだし読めろよ。

基本頭悪い感じだけど、勉強面は天才って設定じゃあなかったのかよ。


「まあでも面白いかもしれないわよ? これ以外はホラーとか子供向けのが多いし、試しに見てみるのも私は良いかと思うわ」

「うーん…………よし! 確かに面白いかもしれないしな。見てみるか」


という訳でその映画のチケットを購入し、僕たちはポップコーンと飲み物を持って映画館へと入った。

奏と渼羽に挟まれるように座りながら、スクリーンを僕は見る。

初映画館……ワクワクする!

…………ってあれ? 映画が始まらない。


「なぁ、奏。映画が始まらない」

「それはそうよ。まだ時間まで数分あるもの」

「あ、そっか。良かったあ……」

「可愛い……」

「ん?」

「いえ、別に満月君って女の子みたいに小さいからワクワクしているのを見ると可愛いなあなんてことは思っていないわ」

「だから僕を小さいって言うな!」


こっちのほうが殺すときに小回りとか効くから便利なんだよ……。

暗殺者とかには羨ましがられるんだぜ?

「小さいからターゲットにバレなさそうで良いな」って昔言われたし…………これ今考えたら馬鹿にされてるな。


「ほら、満月君。始まるよ」

「お……! ありがとう、渼羽」

「楽しみだね」

「うん」


ついに映画が始まる。さて、内容は……?


06


 映画はゾンビもののコメディだった。

僕の見たかったゾンビものとは違うけれど……まあ初めての映画は面白かった。

だが……奏と渼羽。

先ほど僕のゾンビ映画を見ようという案を速攻で却下したことから分かる通り、二人はゾンビがとんでもなく苦手であったため、その二人は今、泣いていた。


「ゾンビとはいえなんでコメディなのに泣くんだよ」


僕は二人の背中を撫でながらそう言う。


「し、仕方ないじゃない……」

「そうだよ……仕方ないよ」


仕方ないらしかった。

なにが仕方ないんだ…………?

他に映画を見ていた女の子は泣いてないし、これじゃあ僕が泣かしたみたいだ。


 その後二人をなんとか泣き止ませ、三人で近くのショッピングモールに向かった。


「奏さん! これ奏さんに凄い似合うと思うよ」

「そうね……あ、これなんか渼羽さんにぴったりだと思うわよ」

「あ、可愛いっ! 哀無ちゃん的にもグッドだよ奏さん」


今は奏と渼羽の二人が服を見ているところだ。

因みに、僕は近くのベンチで二人を眺めている。

それにしてもあの二人……随分仲良くなったなぁ。

もう渼羽の望んでいた親友という関係になれているんじゃないだろうか?


「お待たせー」


渼羽の声が聞こえたのでそちらを向く。


「長かったな」

「そう? 普通このくらいだよ?」

「ふーん……次はどこに行くんだ?」

「アイスを食べに行くんだよ。アイスクリーム、略してアイス!」

「だから最後のはいらねえよ!」


 まあ、ということでアイスを食べにいき、僕と奏は約束通り渼羽に奢ってもらった。

そして、ショッピングモールの様々な店をまわった。


「可愛いわ、満月君」

「…………なんでこんなことに?」

「やっぱり女装が似合うわね」


途中、そんな感じで女装をさせられたりもしたが、これは記憶から消すとしよう。

その時に使った女装の為のセットを奏からプレゼントされたが、部屋の奥のほうに閉まっておくとしよう。

僕は女装なんてしていない……そう言い聞かせるとしよう。


「じゃあバイバーイ! 満月君、奏さん」

「うん、じゃあな。渼羽」

「バイバイ、渼羽さん」


それからも色々まわっているうちに夜になり、僕たちはそんな風に分かれた。


07


「今日は楽しかったわね、満月君」

「そうだなぁ……また来週にでも行くか?」

「ええ、後で渼羽さんに連絡しておくわ」


奏がそう言ったので、僕は返事をしようとした。

が……出来なかった。

横から何かよく分からないものに攻撃をされたのだ。


「うぐっ!」


そんな呻き声をあげ、僕は吹き飛んだ。

受身はとったが体中が痛い……。

瞬時に何かに吹き飛ばされたと判断し、僕は反射的に立ち上がる。

そして僕は僕を吹き飛ばした『何か』を見た。

フォルムは人間のように見えるが……何か違う。なんだ……この生物? は。

すると、その『何か』は、走って僕に追撃を加えようとしていた。

考える暇すらなかった。

急いで腰にあるホルダーからナイフを取り出し、それに構える。


「ああああああああああああああああっ!」


そんな叫び声を上げながらその『何か』は僕の顔辺りに向かって殴りかかってきた。

僕は咄嗟に、構えたナイフでその攻撃を受け止める。

だがしかし、受け止めはしたもののその余りの勢いに僕は吹き飛ばされる……!

そして、近くの壁に身体をめり込ませる勢いでぶつかり、崩れ落ちるようにして僕は倒れた。


「満月君!」


奏がそんな声を出し、僕に駆け寄ってくる……駄目だ。駄目だ奏……!

近づいてくるな、危険すぎる!


「奏! 危険だ!」


僕がそう叫んだ時にはもう遅かった……。

その『何か』は奏に向かって走り始めたのだ。

くっ、身体が動かない……!

奏が危ないのに…………動け! 動け! 動いてくれよ!

僕は心の中で何回も繰り返す。


「うぐああああっ!」


気合いを入れそんな声を出しながら力を振り絞り、僕はなんとか立ち上がった。

そして今にも奏に攻撃をしようとしている『何か』に急いで近づき、僕はナイフでその『何か』の首辺りを切る……。

が、その『何か』は僕の攻撃が効いていないのか首を百八十度回転させ、こちらをギロリと見た。

その瞬間……こいつが人間でないことを確信する。

僕は急いで一歩下がり、構えた。

だがその『何か』は僕をギロリと見てからは何もせず、止まった。

完全に停止したのだ。


「な、なんだったんだ……?」


そう呟いてから、ふと奏のことを思い出す。


「奏! 大丈夫か!」

「ええ、少し怖かったけれど……大丈夫よ」

「そうか。良かった……それにしてもこいつ、いったい」


そう言って僕は『何か』に近づく。

すると、その『何か』は消えた……否、正確に言うならば蒸発した。

気体となり、空へと消えていったのだ。

まるでそんなもの最初からいなかったかのように……。


「……とりあえず帰りましょう、満月君。その傷を早く治さないと」

「…………そうだな。でもそれなら白木のところに連れて行ってくれないか? あいつならこの怪我もすぐに治せるだろうし、何よりも今の現象が何だったのかも分かるかもしれない」

「そうね……じゃあ行きましょうか。その怪我じゃあタクシーは使えないし、歩くことになるけれど大丈夫?」

「はっ、当たり前だろ……? 僕は殺人鬼なんだぜ」


そう虚勢を張りながらも、僕は奏に肩を貸してもらい白木のところへと向かった。




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