第五十七話 最後の忍術

「行くわよオ!」

 森蘭丸もりらんまるみずからが指揮しきする騎兵隊きへいたい号令ごうれいをかけた。隊を二つに分け、自ら率いる一隊は猿飛佐助さるとびさすけのウェダリア騎兵隊に正面しょうめんから攻撃こうげきをしかける。もう一隊はさらに西側にしがわから回り込み攻撃する。


「来たぞ!押し返せ!」

 佐助さすけは自ら前に出るとやりを振るい必死ひっし防戦ぼうせんする。蘭丸率いるジュギフ騎兵隊は八千、対する佐助のウェダリア騎兵隊は五千。数の優位ゆういを活かし、蘭丸らんまる二方面にほうめんからの攻撃を仕掛しかけた。

 佐助たちは押され出した。

「佐助さん!これマズくいですか!」

 うまを並べて槍を振るうダニエルが佐助にった。佐助は、うるさそうに言う。

「口を動かしてる暇があったら槍を振るえ!」

「佐助さん、忍者にんじゃ忍術にんじゅつって魔法まほうみたいなの使えるらしいじゃないですか!何かいの無いんですか!?」

 ダニエルはいそがしく槍を振るってオーク騎兵きへいをなぎ倒しながら軽口かるくちを叩いた。

「そうだな。今日きょうは、わしの『最後さいごの忍術』の使いどころかもしれんな。その時は、あとを頼む」

 佐助は鋭い槍の斬撃ざんげきを繰り出しつつ言った。ダニエルは佐助が何を言っているのか、つかみかねた。


「おまえら〜!つけたぞ!!」

 馬に乗った巨大きょだいなオークが、佐助とダニエルの前に現れた。人の身の丈ほどもあろうかという戦斧せんぷを担ぎ、禍々まがまがしい模様もようの入った銀のよろいをまとっている。そのオークがはな危険きけん威圧感いあつかん、覚えがある。ダニエルが言う。

「え……おまえは!ガズマス!?」

「オレはガスマスの弟、ガズトキよ!おまえが兄のかたきだな!」

 ガズトキは馬上ばじょう、巨大な戦斧を凄まじい速度そくどで振り下ろす。鈍い光を放つ戦斧の光跡こうせきがダニエルに向かって行く。

「あっ!」

 ダニエルは馬から転がり落ちてその斬撃をかわすが、馬は首から先をもっていかれ横倒よこだおしに倒れた。佐助は戦斧が流れた隙に、踏み込むと槍の一撃いちげきを加えた。ガズトキの肩当てに弾かれる。

「ふん!下手しもてくそが!」

 ガズトキは言うと、戦斧を佐助にむけて力まかせに振る。

「いかん!」

 佐助も馬から転げ落ちる。ガズトキの戦斧が佐助の馬を吹き飛ばした。

「おい!猿飛佐助が落馬らくばしたぞ!敵将てきしょうの首をあげろ!」

 ガズトキはさけんだ。手柄てがらほしさに、たちまちオーク、ダークエルフの騎兵たちが群がってきた。

「佐助さん!だれか助けを!」

 ダニエルは叫ぶ。だがウェダリアの騎兵たちにその余裕よゆうは無い。ダニエルは佐助のほうに向かおうとしたが、その前に巨大なオークが立ちはだかった。そのオーク、馬上からダニエルを見下ろして言う。

「おまえの相手あいてはオレだ!死ぬまで可愛かわいがってやるぞ!……ゲフ……グフ」

 ガズトキはダニエルに、ニタニタとした笑みを投げかけた。


「くっ……しくじったな」

 佐助は言うと、懐の十字手裏剣じゅうじしゅりけんをつかむと、馬上の敵兵てきへい次々つぎつぎと投げつける。狙いは正確せいかくで、敵兵は次々と馬から転げ落ちる。だが、次々と新手しんてが現れ、十字手裏剣が底をついた。

「グ!!」

 佐助は苦痛くつうに呻いた。背後はいごから、槍で左肩ひだりかた深々ふかぶかと突かれた。ついで右脚みぎあしを突かれる。膝をついた。

「佐助さん!」

 ガズトキの凄まじい戦斧の斬撃を、なんとかかわしながらダニエルがこえを上げた。

「ここまでだな!あとは頼む!これが猿飛佐助、最後の忍術よ!」

 佐助は言うと、懐から丸く黒い玉をり出し、素早すばや導火線どうかせんに火をつけた。

「あ!爆薬ばくやくか!」

 佐助の首をあげようとしていたジュギフの騎兵たちが一斉いっせいに退いた。

 導火線は根元ねもとまで燃えたが、静かに燃え尽きた。何もきない。

「ハハハ……不発ふはつか。締まらんな……」

 佐助は力無く笑った。

「コイツ!ふざけるな!」

 魔物まものの騎兵たちが、一斉に佐助に向かって槍を振るう。ダニエルが叫ぶ。

「佐助さん!」

「バカが!いつまでよそ見をしている!おまえの相手はこのオレよ!」

 ダニエルはガズトキの声に、ハッと前を見る。戦斧を間髪かんぱつのところでかわし、槍で反撃はんげきするが、軽くいなされた。

「さて、おまえと遊ぶのもこんなところにするか」

 ガズトキが言った。

 その時、

「敵将、猿飛佐助を討ち取ったぞ!」

 佐助のいたあたりから声があがった。ダニエルは素早くそちらに目をやる。佐助の首らしきものが、槍の穂先ほさきにかかげられている。


隊長たいちょうが殺られたぞ!!」

 ウェダリアの騎兵たちに動揺どうようが広がった。徐々じょじょ後退こうたいする。ある瞬間しゅんかん恐怖きょうふ臨界りんかい到達とうたつしたように潰走かいそうを始めた。


「おい!踏みとどまれ!下がるな!戦え!」

 ダニエルは叫ぶ。だが、恐怖に囚われた兵たちの行動こうどうを変えることはできない。

「オラァァァ!!おまえも地獄じごくに送ってやるわ!!」

 ガズトキが戦斧を振り上げる。その姿を見た時、ダニエルの緊張きんちょうの糸も切れた。

「うあ!うあ!うあァァァァァ!!」

 ダニエルは戦斧の間合まあいの外に下がると、背中せなかを見せて走り出した。

 ウェダリアの騎兵隊は、崩れ去った。

「ウフフ……押し切ったわね」

 蘭丸は潰走していくウェダリア騎兵を見て、ほくそ笑んだ。


「いかん!騎兵が崩れたか!!」

 幸村ゆきむらは、西側で自軍じぐんの騎兵たちが潰走を始めたのを見て叫んだ───

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る