第五十六話 最後の決戦

 ウェダリア城の南側みなみがわにひろがる平原へいげん。そこに武装ぶそうした六万の魔物まものたちが整然せいぜんと並んでいる。

「ウェダリア城か。懐かしいな」

 黒馬こくばに乗ったガイロクテイン侯爵こうしゃくこと織田信長おだのぶながは、目を細めて北のウェダリア城とその城壁じょうへき、そしてその城壁の前に居並ぶウェダリア兵たちをた。黒鉄色くろがねいろの美しい甲冑かっちゅうが、晴れ渡った空の青を映している。

「そうですね。ようやく、ここまで来ましたね……」

 白馬はくばに乗った森蘭丸もりらんまるも、過ぎさった時間じかんに想いをはせるように北を見た。信長のぶながう。

「ウェダリアを落とせば、アズニアは自然しぜんと落ちよう。そうなれば、我らの日ノ本にかえる望みも叶う」

「そうですね」

 蘭丸らんまるは静かにうなずく。

「さて、あの舐めた真田さなだ小僧こぞう後悔こうかいさせてくれるわ!行くか!」

「はい、上様うえさま。行くわよ!」

 魔物たちの軍勢ぐんぜいは、北へと歩を進めた。


「ついに来ましたな」

 猿飛佐助さるとびさすけは、ウェダリアの城壁の南に展開てんかいした陣から、南の平原のジュギフ本軍ほんぐんを眺めた。

 ウェダリア軍三万五千が城壁の前に展開している。アズニアを併合へいごうした現在げんざいのウェダリアの兵力へいりょくは三万だが、南のカヌマ、西のナギアからの志願兵しがんへい合流ごうりゅうし、三万五千となった。幸村ゆきむらが言う。

「うん、来たね」

 平原南端の丘には、黒い永楽銭えいらくせんの旗が何本なんぼんも風になびいている。ジュギフ本軍、織田信長の旗だ。

「さて、佐助さすけ。迎え撃ってやろうか」

「ですな。前へ!行くぞ!」

 ウェダリアぐんは南へと歩を進める。


「向かって来おったか!クズどもが!ならば殺す!」

 信長がさけぶと、付き従うオーク兵が、大きな太鼓たいこを叩き出した。地をるがすような大きな音が鳴り響く。ゆっくりとした重い音律おんりつを刻む太鼓の音にあわせて、ジュギフ本軍六万は北へと北へとさらに歩みを進める。


「来ますな」

 幸村の横にうまを並べる猿飛佐助は言う。黒い忍び装束しょうぞくの上に軽装けいそう鉄鎧てつよろいをまとっている。赤揃あかぞろえのよろいを身につけた幸村は、震える右手みぎてを握りしめると言う。

「ふん、そらそうだろうよ。織田信長が何するものぞ!」

 ウェダリア軍も太鼓を叩きだした。大きく低い音ではあるが、ジュギフの音より、やや高い。ジュギフ軍の太鼓の音の裏拍うらはくに入り、両軍りょうぐんの太鼓が交互こうごに聞こえる。幸村は言う。

「佐助、に着け。手筈通てはずどおりにな」

「はっ」

 佐助は、右翼うよく部隊ぶたいへと向かって馬を走らせる。平原の北西ほくせい、南を向くウェダリア軍にとっては右翼の騎兵五千を指揮しきする。幸村は中軍二万五千の歩兵ほへい、右翼の重装歩兵五千をダンジオが率いる。


 信長率いるジュギフ本軍は、一番西側の左翼さよくに騎兵八千。これを森蘭丸が率いる。東側ひがしがわに重装歩兵一万を配し、中軍四万二千を信長が率いる。

 佐助と蘭丸が率いる、騎兵同士が牽制けんせいしあうように向き合う形だ。


 晴天せいてんの下、草原そうげんを進む両軍の距離きょり徐々じょじょに狭まっていく。


「矢をはなて」

 信長は静かに命じる。

「矢を放て!」

 オーク、ダークエルフの千人将せんにんしょうたちが復唱ふくしょうする。すると、中軍ちゅうぐんの歩兵たちが斜めに矢を射上げた。数万すうまんの矢が白い美しい放物線ほうぶつせんを描いて中空ちゅうくうを舞う。その矢は重力じゅうりょくに引かれ、凶器の雨となりウェダリア軍へと向かった。

 

「盾を構えよ!」

 幸村が叫ぶ。

「盾を構えよ!」

 ウェダリア軍の千人将たちも復唱する。兵たちはしゃがみ、斜め上に木製もくせいの盾を構える。

───ガッ!!ガッ!!

 木製の盾に次々つぎつぎと矢が当たる音が響く。

「アーア!イデー!いでーよ!!」

 矢を足や体に受けて悲鳴ひめいを上げた者が悲鳴をあげる。

応射おうしゃせよ!」

 幸村が言うと、ウェダリア軍中軍の歩兵たちが、矢を中空に放つ。さきほど射られた矢の軌跡きせきを逆にたどる放物線が中空に描かれる。その矢はジュギフ中軍へと落ちていった。


何人なんにんかやられたか……」

 矢を受け損なって倒れるオーク兵を見つめて、信長は言った。ウェダリアの中軍にはためくくれないに黒く六文銭ろくもんせんの描かれた旗を見つめる。

突撃とつげき!」

 信長が言うと、千人将たちが復唱する。

「突撃だ!」

 太鼓が速い音律で打ち鳴らされ、やりを構えたオークたちが一気いっきに駆け出す。


「来るぞ!迎え撃て!」

 幸村は千子村正せんじむらまさき、振り下ろす。次々とウェダリア軍とジュギフ軍が衝突しょうとつしていく。左翼では佐助率いる騎兵きへいが、右翼ではダンジオ率いる重装歩兵じゅうそうほへいが次々と戦闘せんとうを始めている。


 オーク、ダークエルフ、リザードマンたちの戦力せんりょく人間にんげんを上回る。戦闘がつづくにつれウェダリア兵は押されだした。

(いかんな……こちらの方が兵力も戦力も劣る)

 幸村は、その様子ようすを見ると言う。

「いったん退くぞ!」

 その言葉ことば合図あいず退却たいきゃくかねが鳴らされた。ウェダリア兵たちがジュギフ軍と間合まあいを切り、退き出した。


 信長は冷たい目で、その様子を見つめている。

追撃ついげきしますか?」

 千人将の一人ひとりのオークが信長に聞いた。

「いや、追撃はせん。矢を射かけよ」

「はっ。矢を射かけよ!」

 そのこえを合図に、信長のジュギフ中軍から数万の矢が再び放たれた。ウェダリア軍に降り注ぐ。幸村もみずから盾を構えて、その矢から身を守る。

「チッ!乗って来んか……」

 幸村はひとり舌打したうちした。


 信長は幸村の陣を遠目とおめに眺めて、ひとり言う。

「おまえのやり口は知っておる、真田左衛門佐さなださえもんのすけ。どうせ何かわなを張って、引き込むつもりだろうよ。そのための退却だな。見え透いておる」

 信長は、左翼に目をやる。

(このいくさのかぎは、戦場西側にある)

 蘭丸と佐助の率いる両軍の騎兵が対峙たいじしている。どちらかの騎兵が崩れれば、優勢ゆうせいとなった騎兵隊きへいたいはその機動力きどうりょくを活かし、敵中軍の背後はいごへと回り込むであろう。そうなれば、前と後ろから挟み撃ちになり一気に形勢けいせい不利ふりになる。

(さて、蘭丸にはやく方をつけて欲しいところだな)

 信長は、遠目に蘭丸を見る。蘭丸は信長の視線しせんを感じとったのか、視線を返しうなずいた。

前進ぜんしん。ゆっくりと間合いを詰めよ」

 信長が言うと、ジュギフ軍は後退こうたいしたウェダリア軍に一歩一歩近づいていく。


両軍がもう少しで再び接触せっしょくしようかというその刹那せつな───


「行くわよオ!」

 蘭丸は自らが指揮する騎兵隊に号令ごうれいをかけた───

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