第四十八話 斬馬刀

 灰色はいいろのローブの魔導士が、頭部とうぶを失い血しぶきを上げながら横倒よこだおしに倒れた。


 ミノタウロスは、その巨大きょだいからは想像そうぞうもできない素早すばやさで一気いっき距離きょりを詰めると、斬馬刀ざんばとうを横にぎ払ったその一閃いっせん橙色だいだいいろ光跡こうせきを残して、最後尾さいこうびにいた魔導士の首を吹き飛ばしたのだ。

 

「あ……あぁ……!」

 コバキは、こえにならない悲鳴ひめいをあげた。ものの数秒で仲間なかま一人ひとりやられた。仲間たちの実力じつりょくは低くない。長い間、危険きけん迷宮めいきゅうで生き残ってきたベテラン揃いだ。それが一瞬いっしゅんで殺された。

(これほどのバケモノか!こいつはヤバイ……オレだけでもげるか!?)

 コバキは、部屋へやの入り口に目を向けた。とびらが閉じられているが、走れば逃げられるかもしれない。だが、ミノタウロスの脇をすりけて逃げ切ることができるだろうか。


 コバキの考えは、まとまらない。

 ミノタウロスの視線しせんがコバキに向く。ミノタウロスは凄まじい速度そくどで距離を詰めると、コバキに向かって斬馬刀を振り下ろした。


「───!!」

 コバキの視線は、斬馬刀の煌めきに吸い寄せられている。

「何をしてる!!」

 幸村ゆきむらはコバキを突き飛ばすと、千子村正せんじむらまさで斬馬刀の斬撃ざんげきを受け流した。流れた斬馬刀が石の床に当たり、凄まじい音をたてた。

「何をぼんやりしてる!後ろへ廻れ!」

 幸村がコバキにった。

「あ……あぁ!お前ら、後ろへ!囲め!」

 コバキは仲間たちにさけんだ。

 ミノタウロスは、前にいる幸村とコバキに斬りかかる。横薙よこなぎに切り払ったミノタウロスの斬撃を幸村は後ろに下がり、すんでのところでかわした。

「うわっ!アブねー!!」

 コバキは長剣ちょうけんを立てて、ミノタウロスの斬撃を受けた。その衝撃しょうげきを受けて横に激しく吹き飛ばされる。

「ゴアァ!」

 ミノタウロスは叫ぶと、後ろに振り向きざまに斬馬刀を振る。

「危ない!さがって!」

 危険を感じて間合まあを切ったミラナが叫んだ。僧衣そうえの男が後ろから、モーニングスターで殴りかかろうとしていた。

「ギャアァ!!」

 僧衣の男に、斬馬刀がめり込んだ。男は横に飛ばされ動かなくなった。

「くそ!二人ふたりやられたか!」

 コバキは立ち上がり、衝撃でり落とした長剣を急いで拾うと言った。

(このままでは、全員殺られるな……)

 幸村は、千子村正を正眼せいがんに構えると言う。

「後ろから斬りかかれ!正面しょうめんから注意ちゅういを引きつける!」

 幸村は、ミノタウロスに斬りかかる。ミノタウロスは斬馬刀で受けると、斬り返す。幸村、体をかわすと突きを入れた。

はやくしろ!そんなにたんぞ!」

 幸村は、明らかに押されている。体力たいりょくで勝てる相手あいてではい。だがミノタウロスの注意が後方こうほうに向かないように、果敢かかんに間合を詰めて斬りかかる。

「みんな!早く!」

 ミラナはレイピアでミノタウロスの背後はいごから斬りつける。

「オオォ!!」

 コバキも雄叫おたけびを上げて、ミノタウロスの背中せなかに長剣を叩き込む。

 才蔵さいぞうは、ナイフを抜くとミノタウロスの左眼さがんに向けて投げつけた。

「グガァ!!」

 狙い違わず、左眼に命中めいちゅうした。ミノタウロスは苦痛くつうに叫び声をあげた。

「いいぞ、才蔵!」

 幸村は、ミノタウロスの死角しかくとなった左側ひだりがわに回り込むと、その腕に斬撃を加えた。はじめてかたなが届いた。

 コバキの仲間たちも背後からの攻撃こうげきに加わり、ミノタウロスが押され出した。

「ゴアァァ!!!」

 ミノタウロスは、横薙に斬馬刀を振る。その威力いりょく相変あいかわらず凄まじいが、視界しかいが半分失われ正確せいかくさが無い。

 才蔵は右眼うがんも潰そうとナイフを投げるが、ミノタウロスの動きが激しく当たらなかった。

 だが、すでに流れは幸村たちにある。

「いける!このまま押しつつめ!」

 言うと、幸村は前方ぜんぽうからミノタウロスの注意を引きつつ、左の死角にもぐりこみ刀で斬りつける。

 コバキとその仲間たち、ミラナ、才蔵の背後からの攻撃も激しくなった。

 ミノタウロスが、ついに膝をついた。


「よし、これでとどめだ!」

 幸村は、ミノタウロスの首筋くびすじ右袈裟斬みぎけさぎりに一刀いっとうを浴びせようと刀を振りかぶった。その時、右肩に鈍痛どんつうが走った。

「グウゥ!!」

 予期よきせぬ方向ほうこうからの衝撃に刀を取り落とした。何がきたのかくわからない。

 右後方みぎこうほうると、そこにはコバキが長剣を幸村に向け立っていた。コバキは、その長剣で幸村に斬撃を加えたのだ。幸村が言う。

「どういうつもりだ!?」

 コバキと目があった。

 コバキ、ニヤリと笑った───

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