第四十九話 敵の敵

「グガアアアアアァァァァァァァァァァ!!!」

 大きな断末魔だんまつまこえをミノタウロスがあげた。ミノタウロスの背後はいごから斬りかかった、プレートアーマーの戦士せんしたち三人さんにんが止めをさした。

「ヤッタぜ!ザマみやがれ、この怪物かいぶつが!!」

 黒服くろふく盗賊風とうぞくふうの男がった。

 才蔵さいぞうは、ミノタウロスの亡骸なきがら一瞥いちべつすると、その向こうにいる幸村ゆきむらとコバキのただならぬ空気くうきに気が付いた。


 断末魔のさけびを横に、幸村とコバキはにらみ合っていた。幸村の右腕みぎうでからは血が流れている。コバキの斬撃ざんげきで肩に受けた傷は、軽傷けいしょうではなさそうだ。幸村は、その傷を左手ひだりてで押さえコバキに言う。

「どういうことだ?」

 コバキは、長剣ちょうけん切先きっさきを幸村に突きつけると、答えた。

「ククク……どういうことってね?そんなこと言われてもね……わかるだろ?バケモノは倒した。次はお前らだってだけだよ。剣士けんしさんよ、よく頑張ってくれたなぁ。感謝かんしゃしてるゼェ?あんた、なかなかの実力じつりょくだぁな。しかしよぉ、利き腕にそれだけの怪我けがしちまったら、おいそれと反撃はんげきもできまいな……ククク」

 幸村がり落とした千子村正せんじむらまさが、コバキの目の前に転がっている。

「おい、そこの優男やさおとこも動くんじゃねぇ!おじょうちゃんもな!」

 コバキは、才蔵とミラナに視線しせんを向けると鋭く言った。その二人ふたりの背後に回った、コバキの仲間四人がけんを突きつけた。

「おい、お嬢ちゃん。レイピアを仕舞しまいいな。言うとおりにしないと、この剣士さんが死ぬことになるぜぇ!?」

 コバキは長剣の切先を幸村に向けたまま言った。ミラナは言う。

「あなた、なんて卑怯ひきょうなの!騎士道きしどう精神せいしんにもとる行為こういよ!」

「騎士道なんてのはなぁ、ゼニのある奴らが言う戯れ言だゼェ!?いいから、はやくしろよぉ!レイピアをしまえ!」

 ミラナは、しかたなくレイピアをさやへとおさめた。コバキは言う。

「そこのお嬢ちゃんは上物じょうものだ。お前ら傷つけるんじゃないゼェ?ククク……いやね、しかし悪いな。お前ら、ホントよくやってくれたよぉ。オレを恨むなよぉ。たまたま、ここが未踏迷宮みとうめいきゅうだったのが悪いんだゼェ?その主を最初さいしょに倒した栄誉えいよは、俺たちコバキさまとその仲間なかまでいただく。シナジノアの冒険者ぼうけんしゃ歴史れきしにコバキ様の名が刻まれるってわけだゼェ!そしてこのミノタウロスのお宝!」

 コバキは広間ひろまの一番奥に目を向けた。無造作むぞうさに山と積まれた金色きんしょくかがやきがえる。ミノタウロスが貯めていた金銀財宝きんぎんざいほうだ。

「こんだけありゃ、一生遊いっしょうあそんで暮らせるゼェ!?」

「おぉ!!」

 コバキの仲間が沸き立った。

「しかも、その斬馬刀ざんばとう魔剣まけんときてる!貴族連中きぞくれんちゅうに売りさばけば、ひと財産ざいさんだ!」

 ミノタウロスの落した斬馬刀が、橙色だいだいいろの魔光をはなつづけている。


(どうするか……)

 幸村は考えている。コバキの発言はつげん調子ちょうしに乗っているが、隙無すきなく幸村を警戒けいかいしている。千子村正を自分じぶんの前に置きっぱなしにしているのは、幸村に希望きぼうたせてなぶっているようだ。幸村がかたなに目をやるとニヤリと笑って言う。

「拾いたいか?拾ってみろよ」

 コバキは、幸村に向けた長剣の切先をユラユラとらす。

(才蔵……なんとかならんか……)

 幸村は、チラリと才蔵を見た。


 才蔵も悩んでいる。自分一人じぶんひとりなら、体術たいじゅつ駆使くししてコバキの仲間たちを倒せそうだが、ミラナに剣が突きつけられている。

(オヤカタ様……きびしいですな…)

 才蔵は幸村を見て、小さく首を横に振った。

 

「さて、あとはコイツらをどうするかだが………」

 コバキは愉快ゆかいそうに言った。つづける。

「おい、そこの優男、入り口を開けてこい!早くしろ!」

 コバキは才蔵に言った。

「……わかった……」

 才蔵はコバキに言うと背を向けて、ミノタウロスが閉めた入り口のとびらへと歩いて行く。才蔵に短剣たんけんを突き付けていた黒服の盗賊とうぞくの手が空いた。

「おい、クロスボウ出せよぉ」

 コバキが小声こごえで言った。

「おぉ……そういうことか」

 盗賊はニヤリと笑うと、背負せおっていたクロスボウを構え矢をつがえる。

(あの優男も腕が立つ。遠くから殺そう)

 才蔵の戦いぶりを見ていたコバキは、そう判断はんだんした。

「あいつが、扉に手をかけたら射て」

 コバキが言うと、盗賊はうなずき目立たぬように狙いを定めた。


 才蔵は、扉近くまで来た。後ろを振り返る。

「おい!早く開けろ!」

 コバキが言った。

「……」

 才蔵、観音開かんのんびらきの扉に手をかけようとした、その時。


勢いく扉が開いた───


 何者なにものかが外から押し開いたようだ。

「なんだ!?」

 才蔵、その扉の外にいる者たちをみて、飛び退いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る