第二十三話 貧弱男は戦い抜く

 ガズマスは巨体きょたいを滑らかにしならせ、巨大きょだい戦斧せんぷをダニエルへと振り下ろす。風鳴りの音が響く。

「うぁ!あぁ!」

 悲鳴ひめいなのか、雄叫おたけびなのか判断はんだんがつかないこえを上げると、ダニエルは横っ飛びにかわす。

 ガズマスは、戦斧を横にぎ払う。

「あ!あぅぁぁ!」

 勇ましいのか、おびえているのかまたも判断しかねる声を上げると、ダニエルは身を低くしてかわした。戦斧が頭上ずじょうをかすめ空を切る音が耳もとで響く。

「うああぁあ!」

 今度こんどは雄叫びであろう声を上げ、ダニエルはやりでガズマスを突いた。よろいに弾かれ、槍をとす。

 だが、ダニエルは動きを止めない。そのまま前へと踏み込む。

「あぁ!あぁ!うぁあ!」

 ガズマスの脚へしがみついた!脚をとって倒そうとする。

「コ!…コイツ!!ゴフ!」

 ガズマスは嫌そうな顔をした。

 近過ぎて戦斧が振れない。やむなく戦斧から手を離すと、ダニエルの首を右手ゆうしゅつかみ、高々とち上げた。

「手こずらせおって!わりだ…ゴフ」

 ダニエルの首にガズマスの手が深く食い込み、呼吸こきゅうができない。ガズマスの手を外そうと、ダニエルはもがく。

 だが、オークのその巨体と腕力わんりょくは、ビクともしない。ダニエルの意識いしきが遠のく。その平手ひらてでガズマスの首筋くびすじをピタピタと叩いた。

「なんのつもりだ?面白おもしろいヤツだな……。イカン、いつまでもお前の相手あいてなどしてられんわ。サラバだな、小僧こぞう

 ガズマスは、ダニエルを地面じめんに叩きつけようと振り上げた。

 ダニエルの意識は薄れ、腕が垂れ下がった。

振り上げられた反動はんどうで、ダニエルの右手が自分じぶんこしにあたる。

 その右手に、何かが触れた。


 それは一本ひともと短剣たんけん

 ポラード家の短剣。

 父にもらった短剣。

 最後さいごにもらった短剣。


 ダニエルの手が、無意識むいしきに、短剣を引きく。

 意識がもどった。

「父さん!!」

 ダニエルは、右手を振り上げると、ガズマスの首筋に短剣を突き刺した。

「ガハ!!ゲフ!!グフ!!」

 短剣はガズマスの首筋に根本ねもとまで突き刺さった。

 ガズマスは膝から崩れ落ちる。ダニエルは地面に転がされた。体をこし、ガズマスをる。


 ガズマスは膝をつき、戦斧を杖がわりに立ち上がろうとした。だが、ダニエルの短剣が急所きゅうしょに深く突き刺さっている。

 ガズマスの脚は力を失い、前のめりに倒れ込んだ。ガズマスは動かなくなった。


「……あの、ヒョロヒョロ野郎やろう……ガズマスを……大将たいしょうを倒しちまいやがった……」

 佐助さすけ呆然ぼうぜんと、倒れたガズマスとその前に立ち尽くすダニエルを見ていた。佐助と槍を交えていたオークたちも、呆然とその光景こうけいを見ている。


見事みごとだ!!」

 幸村ゆきむらは、声を上げた。

「オォー!!」

 ウェダリアの兵たちが歓声かんせいをあげた。

「敵の大将は倒れた!打って出るぞ!一気いっきに蹴散らせ!」

 幸村は号令ごうれいをかける。

 城門じょうもんが開かれ、城内じょうないにいた千。真田丸さなだまるに籠っていた二千の兵が、一気に平原へいげんへと打って出た。

 魔物まものたちは、自軍じぐん敗北はいぼくを悟った。散り散りにげ出す。どんなに強い相手でも、背中せなかを向ける相手を倒すのは容易よういい。

 あとは魔物の死体の山が築かれるばかりだった。


 その時、西の国ナギアでは───

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