第二十話 対峙

御館おやかたさま、きてくだされ。どうやら、敵はウェダリア城攻めの準備じゅんびをはじめたようです。おそらく総攻撃そうこうげきに出てくるかと」

 自室じしつで寝ていた幸村ゆきむらに、佐助さすけ報告ほうこくした。

「ついにか!」

 幸村は、とび起きた。

 まだ薄暗うすぐら早朝そうちょう

 佐助の部下ぶかたちがジュギフ本陣ほんじんにて、オーク、ダークエルフ、リザードマンがいそがしくたち振る舞いだしたのを目にして監視かんしを強めていた。

 また、ウェダリア城からもジュギフ本陣のなかを魔物まものたちが、忙しくうごめいているのがえた。


(ついに来るか……)

 幸村は、急ぎ身支度みじたくを整える。赤揃あかぞろえのよろいを着込み、千子村正せんじむらまさこしに指す。

 膠着状態こうちゃくじょうたいを動かすための、幸村のさくはどうやら成功せいこうしたようだ。だが、まだ次がある。

 そう、戦って勝たねばならない。

 背筋せすじ緊張きんちょうが走る。


「佐助、敵はいつごろに来そうか?」

「あの調子ちょうしですと、正午しょうごというところではないでしょうか」

「そうか」

 一万の大軍たいぐんでの攻撃こうげきだ。連携れんけいを重んじて、日の高い時間じかんを選んだのであろう。

「わかった。それならば、兵たちはいつも通りの時間に起きれば問題もんだいないな」

 幸村はうと、城門じょうもんへと向かった。城門わきの階段かいだんをかけ上り塔へ。そこからジュギフ本陣を見る。少し明るくなってきた空の下、武装ぶそうを整える魔物たちが小さく見える。

(これは、間違いあるまい)

 幸村は、確信かくしんった。


 ウェダリアの兵たちが起きると、幸村は部隊長ぶたいちょうをすべて集めるとげた。

「おそらく本日ほんじつ、ジュギフの総攻撃がある。みな持ちに付くように」

 朝食ちょうしょくの後、全軍ぜんぐんが城門、城壁じょうへき真田丸さなだまるの持ち場に付ついた。


 幸村は兵たちが持ち場に着いたのを、塔から確認かんにんした。

「あの魔物たち、来るの!?」

 ミラナが塔へと駆け上がってきた。白いふく金髪きんぱつが風にれる。

「どうやら来ます。ミラナどのに貸していただいた魔導器まどうきの数々が、だいぶ効いたみたいですね」

 幸村は、緊張からか表情ひょうじょうが硬い。

「そう……ついに来るのね……」

 南側みなみがわ眼下がんかには真田丸につめるウェダリア兵が二千。城壁、城門につめる兵が千。まっすぐ南のジュギフ本陣では、蠢く魔物たちが整然せいぜんとした隊列たいれつを組みつつある。 

 ミラナは、その光景こうけい不安ふあんげに見つつ言う。

「私は、何をすればいかな……」

 幸村、しばし考える。

「では、みなの働きをここで見ていてください。きっとよろこびます」

 下を見ると、ウェダリアの兵たちがミラナを見上げ、片手かたてをあげ敬礼けいれいしている。ミラナは、微笑み手を振りかえした。

「わかったわ。ではここで皆の働きを見させてもらいます」

「では、私は真田丸に。兵たちが待っています」

「幸村……ご武運ぶうんを」

「ありがとうございます」

 塔を降りると、城門を出る。真田丸の北側きたがわ、城壁と挟まれた場所ばしょに入り口がある。そこから幸村は中へと入る。

将軍しょうぐん!あいつら、こちらに向かってきます!」

 南側最前列の兵がさけんだ。緊張が走る。幸村はうなずくと、つとめてゆったりと言う。

「そうか。おもいのほかはやいな」

 幸村にも、緊張と不安があるが兵にそれを伝えても得のいことだ。真田丸の南側へと向かう。確かに、ジュギフの兵たちが平原へいげん集結しゅうけつしつつあった。

 前列中央には、ザクマ率いる五千の兵。内訳うちわけ騎兵きへいが千に歩兵ほへいが四千というところか。ダークエルフが大半たいはんであるが、オークとリザードマンの姿も見られる。オークたちは重装備じゅうそうびに身を固めている。

 後列こうれつには、ガズマス率いるオークたち五千。そのうち、騎兵は千というところか。ガズマスも漆黒しっこくうま騎乗きじょうしている。こちらも、かなりの重装備だ。本陣で見た、あの巨大きょだい戦斧せんぷ遠目とおめにも存在感そんざいかんはなっている。

 どの部隊ぶたいも、城壁を超えるためであろう梯子ていしを持っている。


「将軍、力と勇気ゆうきを」

 緊張した兵の一人ひとりが幸村に言った。ウェダリアのいくさ前の習慣しゅうかんであろうか。

 それを聞くと、みなが「力と勇気を」と口々くちぐちびかけ合う。

 幸村も兵たちを見て、頷き応える。


 戦闘準備の整ったジュギフの兵たちは、平原の中央ちゅうおうに集まった。ザクマが大声たいせいで呼ばわる。

「ジュギフ軍副将のザクマである!昨今さっこんのウェダリアの挑発ちょうはつ、許しがたい!我々われわれからの降伏条件は示しているにもかかわらず、それを無視むししての挑発の数々!無礼ぶれいとしか言いようがない。我がぐんの武をもって、その返礼へんれいとさせていただく。覚悟かくごなされよ!」

「グウオォーーー!!」

 魔物の軍勢ぐんぜいは沸きたち歓声かんせいがあがった。


 幸村、それを受けて言う。

「なんのことやら!魔物どもに脅されて城を開けわたしたいと思うものがどこにいるのか!我らに迎撃げいげき用意よういあり!押してまいられよ!」

 幸村が言うと、ウェダリア兵は沸いた。


(行くか………)

 ザグマは、背後はいごのガズマスを見た。

 ガズマス、黙ってうなずく。

 ザクマ、うなずき返すと視線しせんを前にもどす。

 まっすぐに北。

 ウェダリア城を見る。

 空は鮮やかな青に、純白じゅんぱくの雲が鮮やかに浮かぶ晴天せいてん。静かに風が流れる。

(殺戮さつりくにしろ略奪りゃくだつにしろ、気分良くやれそうな良い天気てんきだ)

 ニヤリと笑った。


「行くぞ!!」

 ザクマはさけぶと、それを合図あいず銅鑼どらと巨大な太鼓たいこが打ち鳴らされる。銅鑼の金属的な響きと、内蔵うちのくらに響く太鼓の低音ていおんが重い音律おんりつを刻む。

 その音にあわせて、魔物たちが前進ぜんしん開始かいしする。鎧の鉄がこすれ合うカチャカチャとした金属音きんぞくおんが、太鼓の音律にくわわる。その音律は徐々じょじょに早まっていく。早まる音律にあわせて歩みも早歩きになる。

 さらに音律が早まり、ついには土ぼこりを上げて魔物たちは全力ぜんりょくで走り出した。手に持ったやり穂先ほさき、曲刀、戦斧が日の光をうけて白くかがやく。

「グオォー!!」

 ダークエルフ、オーク、リザードマン。

 魔物たちの叫びが、緑の平原に響きわたった───

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