第十九話 軍議

 ジュギフがウェダリアに襲来しゅうらいして九日目。

 その早朝そうちょう

 リザードマン一人ひとり、ダークエルフ五人ごにん、オーク五人の部隊ぶたいは、本陣ほんじんのまわりをまわっていた。深夜しんや、早朝は奇襲きしゅうをしかけるに時間帯じかんたいである。この時間帯、ジュギフは定期的ていきてきな見まわりをおこなっていた。

「ウグッ!」

 オークの一人が左肩ひだりかたをおさえ、うずくまった。魔物まものたちが、そのオークを見る。矢が深は深々ふかぶかと刺さり血が流れている。緊張きんちょうが走る。

 あたりを見まわす。すると北の茂みから、もう一本ひともとの矢がはなたれた。リザードマンに向かって、まっすぐに飛んでくる。リザードマンが体をかわすと、後ろにいたダークエルフにその矢は当たった。もんどり打って倒れる。矢はダークエルフの左胸に深々と突き刺さっている。即死そくしだ。

 その茂みから、ウェダリアのよろいを身につけた兵が飛び出してきた。近くの林にかくされていたうまに飛びのると、北のウェダリア城へとげっていった。リザードマンが追ったが、兵を乗せた馬は、全速力ぜんそくりょくで逃げきった。


 また、その夕方ゆうがた。見まわりを行っていた魔物たちに矢が打ちこまれケガ人を出した。矢をはなった者は、またもウェダリアの兵装へいそうを身にまとっており馬で逃げさった。


 その翌日よくじつ翌々日よくよくじつも、このウェダリアによる挑発ちょうはつはつづいた。


「もう我慢がまんなりません!」

 ジュギフ北部方面軍ほくぶほうめんぐんの本陣で開かれた軍議ぐんぎで、ダークエルフの千人隊長せんにんたいちょうが怒りを込めてった。

「この二日ふつかで、見まわり中のケガ人は、二十人を超えます!我々われわれが守りを固めているために、なめられているのです!こちらのほうが兵力へいりょくは、圧倒あっとうしている!我々の力を見せつけてやるべきです!ここは一気いっきにウェダリアをとすべき!」

 集まったオーク、ダークエルフの千人隊長たち十人じゅうにんは、うなずき同意どういしていた。北部方面軍の一万の兵力は、「千人隊長」とよばれる士官十人により、千人せんにんづづの部隊に分けられていた。

 副将ふくしょうザクマ、大将たいしょうガズマスも同席どうせきしている。

 北部方面軍は、ガズマスの兵六千と、ザクマの兵四千の合同部隊ごうどうぶたいである。そのため千人隊長はザクマ派のダークエルフが四人よにん、ガズマス派のオークが六人であった。


「うむ、そうか……。これは困った事態じたいよ。ザクマ、どうおもうか?グフ……ゴフ……」

 ガズマスは言った。

「そうですな。千人隊長たちの言うこと、もっともであると思います。もしガズマスさまのお許しがいただけるならば、ここはウェダリア城を攻め、我がぐんの力を見せるべきときかと。まだガイロクテイン侯爵閣下こうしゃくかっかは、この地の実情をご存知ぞんじでない。ここはガズマス大将のお考えで動くべき時かと思いまする」

 ガズマス、大きくうなずくと言う。

「うむ、そうか。それならば、やむえまい。現場げんば士気しきもこのままでは下がるだろう。ワシの判断はんだんでウェダリアを攻めよう。ガイロクテイン侯爵閣下もお許しいただけるだろう……ゴフ……ゴフ」

 ガズマスは言った。


(よしよし。ここでウェダリア城を落とし、魔導器まどうきを我が物にする良い機会きかいよ。本軍ほんぐんが来てからでは、ワケマエは知れているしな〜。閣下かっかの命に逆らうのは危険きけんだが、ここは下の者たちの心情しんじょうを汲み、仕方無かったともうし開きできる。行くしかあるまいよ……グフ……グフフフフ)

 ガズマスは内心ないしんほくそ笑む。


(バカめ。ガズマス。のって来おった。閣下の命令めいれいに背いた責任せきにんは、今の発言はつげんでおまえがることになるのだ。あとはウェダリアを落としたどさくさに、魔導器はオレがいただく)

 ザクマも、内心ほくそ笑む。

 ザクマとガズマスの目が合った。お互い笑みを浮かべる。


「ところでザクマよ、今回こんかいのウェダリア攻め、そちに先鋒せんぽうをまかせようかと思う。武人ぶじんの誉れであろう。どうであろうか………ゴフ」

 ガズマスは言った。


(ウェダリアに勝利しょうりしたのち、ザクマが魔導器のワケマエについて文句もんくを言ってくるかもしれん。ザクマに城攻めに先にとりかからせ、ヤツの兵数へいすうを削いでおいたほうがよかろう。後ろ盾となる兵が少なくなれば、ザクマも動きはとれまい……グフ……グフフフフ)

 ガズマスは思った。オークとしては、極めて高い思考力をガズマスはっていた。


「え!?」

 ザクマは、おどろいた。


(く、ガズマス。オレの兵力を削ぐ狙いか。相変あいかわらずの悪知恵わるぢえよ)

 ザクマは、すぐに気がついた。

 ガイロクテイン侯爵配下のなかで、生き残ってきたガズマスは、その腕力わんりょくのみならず狡猾こうかつな立ちまわりをする能力のうりょくをもっていた。


「そうですな。たいへん名誉めいよなこと。よくぞ命じていただいた。このザクマ、ウェダリア城攻めの先鋒。つつしんで、お受けいたします。ですが、我らダークエルフだけで先陣せんじん手柄てがら独占どくせんするわけにも行きますまい。ぜひガズマスさま配下はいかのオーク兵の力をお借りしたい」


 ザクマは思う。 

(ガズマスの兵を借りることで、こちらの損害そんがいを少しでも抑えよう。その上で、城壁じょうへきを破りウェダリアにガズマスより先に侵入しんにゅうし、魔導器はいただく)



「む……そうか。ザクマはつつしみぶかい男よの。では、我が兵を貸すとしよう……ゴフ……ゴフ……」

 ガズマスは言った。

(ち、ザクマめ。気付きづきおったか。そう言われては、大将として兵を出さないわけにはいかん。な〜に、ザクマに先を越されても、締め上げて魔導器はうばえばよい……グフ……グフ)


 ザクマ、ガズマスの目を見て考えている。

(いざとなれば、ガズマスは力づくでオレの手にいれた魔導器を奪ってくるやもしれん。どのみち、こちらが兵数は劣る。いざとなれば暗殺あんさつするしかあるまい)

 ザクマが酷薄に笑った。だが、すぐにその表情ひょうじょうし、列席れっせきした千人隊長たちを見回すと言う。

「さて、それでは軍議の結論けつろんは出ましたな」

 ガズマス、うなずき言う。

「うむ、ウェダリアを攻める。日ははやいほうがよかろう。明日あすとしよう……ゴフ」

 千人隊長たちも、ガズマス、ザクマを見てうなずく。


「では明日、我が軍はウェダリア城を攻める。ということでよろしいですな」

 ザクマは、ガズマスに言った。

「うむ、そうしよう」

 ガズマスはニヤリと笑った。


 明日、ウェダリアを攻める───

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