第三十二話 ますます絡まる謎

 「それって第1試験の蓮のこと?……暗八仙あんはっせんの――荷花かか?」

 娜娘娘ナニャンニャンを見ると、神妙に頷いた。


 「ええ、私はあの試験で餌をばら撒いたのよ。御2人方を殺した犯人を探すために。あなた達には悪かったけど、おかげでシュエ、あなたとも会え雅風ヤァフォン皇子とも繋がれた。そして、何よりも敵が動いた……収穫はあったわ」


 なんてこと……そんな思惑も入り乱れて、私達の試験が行われていたなんて……普通の試験だったら、私も受かったのかな……。

 「でも、どうして神美シェンメイに蓮の香りが?それに、こうの香りがそこまで重要だとは思えないけど」

 そこが問題だ。それに、暁雨シュウウ様付きの侍女なら、あるじこうが移った可能性があるはず。


 「暁雨シュウウ様は蓮の香を纏わないのよ。昔、何かがあったみたいで蓮がお嫌いなの。だから、あのお方の宮には蓮の花は勿論、蓮に関する刺繍や食べ物も傍にないの」


 娜娘娘ナニャンニャンの言葉に、ある違和感を思い出し記憶を呼び起こす。

 「……でも、暁雨様の所で菓子をご馳走になった時、蓮の実餡の月餅ユエビンを出されましたよ」

 そうだ……勧められた。何度もだ。

 「それは本当?……変ね。わからないことが、まだ多すぎるわね。お考えは?雅風ヤァフォン様」

 娜娘娘ナニャンニャンに話を振られたフォンは静かに首を横に振った。


 「まだ何かが足りないな。それに、女官長の考えもわからない。宮中に来て30年間。女官長は真面目で厳しく、女官の手本のような女性だと聞いている。それなのに、なぜ、あの場に居て芽衣ヤーイーと何を話し黒幕も不明だ」

 ……そうだ。忘れてた。女官長。それに……。


 「女官長もだけど、あの女はどうなるの?内功師と偽った芽衣ヤーイーは?」

 あの自信満々な黒い笑顔を思い出すと、怒りが沸き出す。

 「問題ないだろう……あの女は馬鹿だ」

 フォンは疲れたのか茶に口を付ける。

 「そうね、欲に目が眩み陛下の目論みに嵌った……内攻師ではないとわかったら、偽った罪で拷問なのに。陛下は気が付いているわ……芽衣ヤーイーが内功師ではないと」


 娜娘娘も茶に口を付けているが、私はそれどころではない。

 その言い方だと、陛下は誰が内功師かわかっているってこと?


 「あれ?それだと……私が内功師だとばれてるの?」

 背中に汗が落ちると、風や娜娘娘ではなく、ふわふわと浮いているリィリィが声を上げる。

 『だと思うよ~あの父上が見間違うはずないもん。なのに、雪を逃がしたのよねーなんでだろう?』

 くるくる回って遊び出したリィリィは暇らしく部屋中を動きまわる傍若無人ぶり。だけど、私はそれどころではない。


 「ばれてるの……どうしよ!」

 勢いよく立ち上がると、茶を飲んでる2人はお互い顔を合わせ息を吐く。


 「どうしようもないな……父上の考えは不明だが、まだ雪を拘束しない所を見ると、別の考えがあるのだろう。それは俺が調べておく。問題は……これからどうするかだ」

 風に余裕を感じるのはなんでだろうか?風も内功師であることを隠してるのに……その自信家ぶりが反対に羨ましい。

 「とりあえず、私の宮に居れば簡単に侵入出来ないわ……この宮にいる者は全員、武の心得があるから簡単には雪を渡さないわ」

 

 ……わーこの宮全員、皇太后様と陛下の息がかかっているんだ。ちょっと待って。それだと、私が簡単にここから逃げ出せない。

 『残念ね、雪。しばらくは大人しくして様子をみましょう。それに、兄上が動いているのが気になるわ。あの人は昔から内攻に興味があったから』

 さらりとリィリィが怖いことを言った。


 あの天子様が内攻に興味……私が内功師とばれたら真っ先に捕まるかも。それは嫌だ……。


 「俺の護衛も見張りに付けておく……雪は脱走が得意だから」

 ギロリと風に睨まれ小さくなる。

 前科があると何を言っても無駄だろう。

 「ええ、そうしてくれると助かるわ。でも、第1皇子や暁雨様、陛下が来たら、私でも止められないわよ。雪、その時は、自分の判断で動きなさい」


 ……ええ……そんな感じ?


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