第十九話 情報収集
「変な顔してどうした?まだ食べるか?足りないなら、また運ばせよう」
リィリィを見つめ固まったままの私に、何を思ったのか皇子が立ち上がる。
「だ、大丈夫!もう、お腹いっぱいだから。それよりも、皇子……私の宮女試験ってどうなったの?まだ、第2試験の途中だったのに。しかも……もう、試験時刻終わってるし!」
八仙卓に手を付き、勢いよく立ち上がると、八仙卓の上に置いてある空の皿たちが地震でもきたかのように激しく揺れた。
「あ、ああ……試験な」
私の剣幕におされたのか、皇子が、のけぞるように後ろに1歩下がる。
「落ちつけよ。それよりも雪、俺のことは「皇子」と呼ぶな。名前で呼べって言っただろ?」
この話の脈略で、どうして名前呼びに拘るのかわからないが、腕を組み不服そうだ。
「えっ?いいじゃない。皇子で。それで?私の試験は?」
掴み掛る勢いで、皇子に近寄ると、顔を横に背けたまま私を見ない。
名前を呼ぶまで話さないらしい。何とも面倒な皇子だ。
『雪~名前で呼んでやってよ。
えっ?……まさかの寂しがり屋?この皇子が?意外すぎる。
「わ、わかったわよ……それで、私の試験はどうなったの?
迷ったけど、渋々、名を呼ぶと、風が照れたように、はにかむ。
なんだ……この反応は。前、呼んだ時は普通だったのに。
『ほー意外な反応ね。こっちが、にやにやしちゃう』
リィリィは、にやにやと居心地の悪い笑顔を向けてくるが、そこは華麗に見ないふりをした。
「それで、風……試験は?」
「あ、ああ…………宮女試験な。雪は、落ちた」
驚きすぎてなにも言葉が出なかった。
…………落ちた?私が……落ちた。最悪だ……これで、暁雨様に近づく手立てを絶たれた。
宮女見習いのまま貴妃様に会うことは不可能に近い。母様に会いたくて会いたくて、しかたがなかったのに……これで、夢が絶たれてしまった。
我慢していても、想いが溢れ、ジワリと涙が溢れる。
「おい、泣くなよ。言い方が悪かったな。雪は、暗殺容疑がかかったから失格に近い保留だ。試験官の
「えっ?
意外だった。まさか、あの娜娘娘が助けてくれたなんて。
「女官長は、すぐに失格と言ったらしいが、李娜が止めたらしい。李娜がまさか雪を庇うとはな……知り会いか?」
風も私と同じで不思議に思ったらしい。でも、良かった。保留ということは、まだ望みはあると言うことだ。
「ううん。私は娜娘娘を試験官として現れた時に初めて見たわ。あ、私の相方の
望みを込めて風を伺うが、風は渋い顔だ。
嫌な予感がした。
「雪の相方の情報は聞いていない。と、言うか、宮女試験自体も、今回の事件のせいで、今は行われていない。それに、雪が宮女試験を、また受けるには侍女殺しの犯人を捕まえなければならない。それが条件だそうだ。皇帝陛下も犯人が見つかれば許して下さると仰せだ」
「犯人を私が探すの?」
今まで真面目に、人に迷惑をかけずに生きてきたのに、まさかの暗殺犯にされ、そして真犯人を見つけ出さなくてはならないなんて……。
「俺も手を貸すから、そんなに落ち込むな。
江……ヤバい。絶対にリィリィの硯箱を聞かれる。あの切れ長の黒い瞳に射抜かれると寒気がする。
『雪!硯箱を江に渡したら、私は雪に一生付き纏うわよ!』
背後から恐ろしい声がした。
嫌だ……一生、リィリィと暮らすなんて。
「わ、わかってるよ」
しどろもどろになりながら、リィリィに返事をすると、風が首を傾げる。それを見て、慌てて話を続けた。
「それで、暗殺された暁雨様の侍女はどんな人なの?」
そう言えば、亡くなった侍女の名前すら聞いていない。犯人を見つけるには、まず情報だ。そして、見つけ出し宮女試験に戻る。
――絶対に。
『そうね、そうね。私も知りたいわ』
風が椅子に座り直すと、私も椅子に腰を下ろした。リィリィもふわふわと浮きながら、なぜか行儀悪く八仙卓の上に陣どる。
「そうだな。もしかしたら、雪が知っているかも知れないから、俺が仕入れた情報を話そう。何か気が付いたら言ってくれ――暗殺されたのは、暁雨が侍女、
……
「私は知らない人よ。名前も聞き覚えがないから」
「そうか。もしかしたらと思ったが、やはり、朱明殿で倒れていたのは偶然のようだな。それと、兵部や武官の調べによると、
「……女?」
てっきり犯人は男性だと思っていたけど、確かに内宮は女性ばかり。女性が犯人の確立が高い。
「恨みかな……内宮は
思っていることを、そのまま口に出すと、風が不愉快そうな顔を見せた。
「……なんだよ、その例え。まあ……否定は出来ないけどな。その女は手に短剣を持ち、神美を、じっくりと見下ろしていたそうだ」
……死体を見ていたなんて。怖い!
「そ、それで、その傍にいた女性の、着ていた衣とか容姿とかは?」
「それは、今、
えっ?……侍女、一人のために皇帝の私兵である暗部が動いているの?そこまで大事に?
思わず考え込む。
「やっぱり変だと思ったか?……」
しばらく考えていたら、緊張している面持ちの風の言葉に顔を上げる。
うるさいリィリィも、今は静かに聞いていて、暗部の話に怪訝そうだ。
「やっぱりって……何かあるの?」
「それは……来たようだ。――――」
皇子が口を開こうとした時、微かに鈴の音が聞こえ、皇子の合図と共に戸が開いた。
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