第五話 別れ

「ん…うー…あー…」

俺は少し寝苦しくなって少しだけ伸びをした。

「ん?起きたか。じゃぁ俺も少しだけ寝る。お休み。」

そう言って永久はこっちの返事も聞かないですぐに寝息をたて始めた。

「えー、ちょっと寝るの早すぎない?まぁ、遥香も結構早いけどさ…」

俺はパソコンにで最近のお気に入りのアーティストの音楽を聴き始めた。

「~~~♪」

音楽を聴いているといつの間にか鼻歌を歌っていた。

(あー…またなんか眠くなってきた…もう少し寝よ…)

俺は机に突っ伏して再び寝始めた。


「おい、バカ彼方、起きろ。」

「んー…なんだよ…」

俺は永久に頭をバシバシ叩かれながら起きた。

「彼方、俺はもう消える。」

永久がいきなりそんなことを言い出して俺は永久が何を言っているのかわからなかった。

「…は?なんでだよ…なんで消えちゃうんだよ…」

俺は何故かわからないがもう泣かないと決めてから流れることのなかった涙が流れ始めた。

「泣くなよ、泣き虫彼方、俺は昨日からこうするつもりだったんだよ。」

永久は俺の目元を拭きながらそう言った。

「別に…泣いて…なん…かっ…」

俺はこれ以上涙を流さないように、強く歯を食いしばった。

「永久…俺…まだ…お前に楽しいこと…教えられてない…面白いこと…教えれてない…それに…まだそんなに話せてないじゃん…だから…消えないでよ…」

「ったく…泣き虫彼方、俺は今まで誰とも話すことが出来なかった。今まで誰も俺のことを見つけることは出来なかった。だけどお前は俺を見つけてくれた。俺はお前と話せて嬉しかった。面白かった。…それに…俺は完全に消えちゃうわけじゃない。お前が呼べば…また出てこれるよ。だから…少しの間のお別れだ。」

永久は少し泣きながら笑ってそう言った。

(あ…多分俺…永久とくだらない事で笑いあえたりした初めて親友っていう関係になれたかもしれない奴を…失うのが…怖いんだ…)

俺はそう実感してさらに涙が溢れてきた。

「永久…俺とお前…親友…だよ…」

俺はボロボロと涙を流しながらも出来る限り笑ってそう言った。

「あぁ…親友だ…俺とお前は…親友だ…」

「…ありがとな」。

(人に馬鹿にされるかもしれない。笑われるかもしれない…でも…それでも永久はここにいる…。)

俺がそう思っていると永久が俺の頭を撫でてきた。

「ったく…そうだ、泣き虫彼方、お前遥香のこと泣かせたりしたら遥香のこと今度こそ完全に奪いに来るからな?」

永久が悪戯っぽい笑顔をしてそう言うと俺は収まりかけてた涙が再びボロボロと溢れてきた。

「泣くんじゃねぇよ、泣き虫彼方、このままだとなんか心配で消えれねぇよ。」

「だって…俺…永久に何もしてやれてない…」

「だったらさ…お前たまに小説書いてこいつに見せてただろ?俺にも一つ書いて読ませてくれないか?」

俺は永久が言ってきたその言葉が意外だった。俺は確かに小説を趣味の範囲で書いていた。あまり上手ではない文章ではないことは自分で自覚していた。だから永久がそういってきたことが意外だった。

「俺…そこまで面白い話書けないぞ…?」

俺がそう言うと永久は軽く笑った。

「俺はお前の書く話が好きなんだよ。だから…読ませてくれよ。」

「…わかった」

俺はそう言うとパソコンに向かって文章を打ち始めた。

(この話のタイトル…何にしよう…)

俺はその物語のタイトルは決めていた。ただ一話目のタイトルが決まらなかった。

「なぁ、永久…この話読んでさ、タイトル決めてくれよ。」

俺は永久に決めてほしいと思いそう言った。永久は俺が書いた話を読んで少し笑った。そしてタイトルを打ち始めた。俺は画面を見てみる。俺が決めたその物語のタイトルは(永久)そして永久が決めたその話のタイトルは…(永遠だアホ)だった。

「彼方、ありがとうな、そして…じゃあな」

「じゃあな、じゃないだろ?俺が呼べばまた出てくることできるんだろ?なら…またな、だろ?」

俺は出来る限りの笑顔をしてそういった。

「あぁ…。あ、そうだ少し携帯のメモ帳貸してくれないか?」

俺は永久がなんでそんなことを言ってきたのか分からなかったが携帯のメモ帳を開いて渡した。

「…ん、ありがとな。そして、またな」

永久は俺に携帯を返して笑ってそう言って意識を失いこちらに倒れてきた。

「…永久…」

俺はいつの間にか収まっていた涙が再び溢れだした。

「ん…彼方…あの子が…永久が…いなくなっちゃった…」

彼女が泣き出しながらそう言った。

「うん…知ってる…ねぇ…お前にとってさ永久ってどんなやつだった…?」

「…いつも暗い部屋でね…誰かがいるのを感じてたの…昔は誰かわからなかった…でもね…多分それが永久だったんだと思う…」

彼女が泣きながら話し始めた。

「私が辛いときにね…いつも誰かが助けてくれてた…永久はね…私にとってはヒーローだったよ…。」

ヒーロー…子供の頃に凄く憧れていた。だけどそれは無理だといつの間にか諦めていた。

(…永久は確かにヒーローみたいなもんだよな…)

俺はそう思いながら涙を流しながらも軽く笑った。

「さて…時間も時間だからそろそろ帰るか、途中まで送ってくよ。」

「うん、ありがとう。」

俺と彼女はお互い涙を拭いてネカフェをでた。


「じゃぁ…また明日、学校でな?」

「うん、また明日」

俺は彼女を途中まで送っていって見送ってから自宅に向かった。

「永久…」

俺はそう呟きながら携帯のメモ帳を開いた。

(彼方…お前といて楽しかった。できることなら一人の人間として出会いたかった…)

俺は永久が最後に遺した言葉を読んで再び大粒の涙が流れ始めた。俺はその涙が収まるまで家に帰らなかった。

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