第二話永久という存在
「ようやく着いた…」
着ていた服や靴には水が染み込み重くなっていた。俺はそんなことを気にしないで彼女の家のチャイムを鳴らした。
「え…なんで…なんで来てるの…?」
家のドアを開けたのは彼女だった。彼女は別人格が出てきた時の記憶が無いのか俺がいきなり家に来たことに驚いた様子だった。
「はぁ…はぁ…バカ」
俺は彼女の頭を叩いた。
「なんで…それよりも服とか乾かさなきゃ…タオル…」
「そんなん後でいいわ、それよりも話が先だ」
「よくなっ…」
俺は彼女の言葉を遮り彼女の腕を引っ張って彼女の家族がいない部屋に向かった。
「ねぇ、ここ一時間近くの俺と会話した記憶ある?」
「ない…けど…なんで…?」
「じゃぁこの会話に見覚えは?」
俺はそう言い彼女にトーク歴を見せた。
「ない…なんで…」
「お前が多重人格かもしれない、っていう可能性があるってことだ…」
「そんなこと…あるわけないじゃん…」
彼女がそういったその瞬間俺は彼女の表情や雰囲気が変わったのを感じた。
「えっと…なんて呼んだらいいんだ?」
「へぇ、よく気付いたね、呼び方なんてなんでもいいよ、どうせこの体もうすぐ俺の物になるんだからさ」
そいつは笑ってそう言ってきた。俺はまずそいつに名前を付けようと考えた。一人の人間として扱おうと思ったからだ。俺は考えるとふとある単語が出てきた。
「じゃぁ…
「別になんでもいいよ、それにしても変わってるね、君」
「は?何が?」
「どうせ人格なんだから消えろとか言わないんだな。」
「なんでそんなこと言わないといけないんだよ。こいつが今まで生きてこれている理由は永久、お前が多少なりともこいつを守ってくれていたからだろ?だから…ありがとな」
俺が笑ってそう言いながら頭を撫でると永久は大人しく撫でられながら「うぜぇ…」っといった。
「でも俺はこいつの体すぐ奪えるんだぞ?それでもいいのか?」
「んー…ならなんで俺が来た瞬間にすぐに奪わなかったんだ?それにもっと前から奪うことも出来たはずなのになんで奪わなかったんだ?」
「ッチ…あー…お前うぜぇ…」
永久は鬱陶しそうに布団に倒れてこっちを見た。
「アハハ、ウザいか、間違いないわ、俺だって自分がウザいって思えるからな」
俺は笑いながらそう答えた。
「でも…一発ぐらいは許せよ?」
俺はそう言って今まで一度もしたことのないビンタをした。
「へぇ…体は彼女のなのによくできるね…。」
永久は少し笑いながら俺にそう言った。
「うるせーよ…」
「まぁ、でも今の君の顔を彼女が見たらどう思うだろうね?今君酷い顔してるよ?」
「だろうなー自分でも分かるわ」
俺は思い切り笑いながらそう返した。
「変わってあげようかー?もしかしたら嫌われちゃうかもしれないけどねー」
永久は笑いながら、だけど何処か冷めたような目でこっちを見た。
「あー…まぁ、嫌われたらそれまでだろ。」
「あ…そ」
永久がそう言うとまた雰囲気が変わった。
「なん…で…こんなの…いつもの…彼方じゃないよ…」
彼女はそう言うと少しずつ泣き出した。そしてまた再び雰囲気が変わった。
「アハハ、今どんな気持ち?」
「んー?自業自得だけど…最悪だ…」
そう言った俺を永久は面白そうに見てくる。
「なぁ…永久、面白いか?」
「あぁ、面白いね、家族を騙すよりも何倍も面白い。」
「そうかよ…ったく…こんなことで面白いって思えるなんて、お前つまらないな。」
「は?」
永久は俺のことをめんどくさいやつを見る目でこっちを見てくる。
「まぁ、人を騙すのは楽しいわな、それは同意できる。でもな、俺正直そんな事よりも面白いって思えることあるんだけど…興味ある?」
「まぁ…あるけど…」
「…なぁ、永久、お前いつから遥香の中にいるんだ?」
「は?んー…こいつが小さい頃からかな…」
「なるほどなー…永久お前今まで面白いと思えることしたことねぇだろ」
俺がニヤニヤしながら永久にそう言った。
「うるせぇよ…なんだよ…というかニヤニヤしてんじゃねぇよ!」
「やだなーニヤニヤなんてしてないよー?」
「してるわ!つーか面白いって思えること教えやがれ!」
「はいはい、わかったわかった…だからその微妙に振りかぶった腕を下ろそうか!?」
俺は永久の微妙に本気の目を見て少し焦った。
「ったく…ゲームやら読書やらなんやらかんやら色々あるだろうが…」
「…外で遊ぶってことはないんだな」
「いや、俺、第一外に出るの嫌いだし、今の時期だと寒いし、夏だと暑いし、年がら年中人がたくさんいるじゃん。正直人がたくさんいる場所大嫌いなんだよな。仲良しごっこしてて何が楽しいんだよって思うしな。」
「わかったわかった、わかったからウザい。」
俺が言い出した愚痴を永久はめんどくさそうに受け流した。
「はぁ…まぁいいや、とりあえず、明日ネカフェにでも行ってみるか?多分お前の興味を引くものが沢山あると思うぞ?どうする?」
「…行く…けど金ないぞ?」
「別に2人分の金額で3人行けるって考えたらお得だし、別にいいぞ?」
「…あー…ったく…わかったよ」
「よし、じゃぁ俺そろそろ帰るわ。」
「…明日まで俺のままでいようか?」
「は?どうして?」
「もしかしたらこいつ明日行かないかもしれないから?」
俺は永久の気遣いに驚いた。
「…頼むわ」
「おう、つかお前帰りどうするんだ?雨具とか全部雨で使えなくなってるだろ」
「…よし、どうせ濡れてんだ、ならもうこれ以上濡れても変わりないだろ!」
俺がやけくそのように叫ぶと永久に思い切り叩かれた。
「バカじゃねぇの?バカなの?バカなんだな、よくわかった」
俺はそう言われながら叩かれたところを抑えた。
「いや…だってバカは風邪ひかないって言うから問題なくね⁉」
「お前がバカ認めたらダメだろうが!それにお前が無理するとこいつが悲しむだろうが!」
「お前…いいやつだな」
「あーわかった俺が悪かった。だからそのウザい目で見るのやめろ」
「アハハ、まぁ、雨も来る時より弱まってるから何とかなるわ。」
「そうかよ、ならまた明日、いつもの公園でいいよな?」
「おう、いいぞ?また明日」
俺は永久にそう言って再び雨に濡れながら家に帰った。
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