第2話


 放課後になり、周りは部活なり委員会なりで忙しそうにしている。

 しかし、私はそのどちらにも所属していないので帰る支度をしていた。所謂、帰宅部だ。


 支度が終わり、帰ろうとしていた所を葉那に止められた。


「チーちゃん! なに帰ろうとしてんのさっ!」

「葉那か。どーした」

「どーした、じゃないよ⁉︎ 昼休みに約束したじゃんっ。買い物行こうって」

「ん? んー…すまんな。私は寝ると前の記憶を忘れる病気なんだ」

「えっ⁉︎ 頭はだいじょぶなの⁉︎」

「………お前に頭を心配されるとイラっとするな」

「うぇえっ⁉︎ ちょっと待っていひゃいいひゃいっ!!」


 おぉ〜、頬が餅のように伸びるぞ。

 それがあまりに楽しいもんで、いろんな方向に伸ばして遊んでしまった。


「ぶふっ! っっっっ…………!!」

「笑ったなっ⁉︎ 人の顔見て笑ったなぁっ⁉︎」

「そ、そんなことは、ない……っっ」

「うぬぬぬ…こうなったら…仕返しだぁー!」


 葉那が両手を上げて飛びかかってくるが、もちろんスルー。飛びかかって来た所を横に避け、そのまま教室を出る。


「あっ! ちょ、ちょっとっ、待って待ってっ! おいてかないでー!」


 後ろが騒がしいが気にしない。


 まあ、廊下で待っておいてやるか。






「そうそうチーちゃん! 結局放課後は空いてるの?」

「ああ、今のところは……ん」


 昇降口で靴を履いていると、絶妙なタイミングで着信音が鳴る。すぐにポケットからケータイを取り出し、確認して苦笑する。


 タイミングが悪いというか、何というか…。


「すまん。仕事だ」

「うぅ〜明日も誘うからねっ。またねチーちゃんっ!」

「おーう」


 そう言って葉那は走っていった。そのまま、校門でクラスの奴らと合流して、ショッピングとやらに行くのだろう。

 私は応答ボタンを押して、相手の話を聞くことにしよう。


『遅いよ』

「かけてくるのが唐突すぎんだよ。こっちにも生活があるんだ」

『それは奴らに言って』

「はぁぁ…で、その奴らは?」

『場所はF-17、数は2、小型黑子』

「F-17? 遠くね?」

転移者ポーター

「…休みはいつだろうな」

『知らない。いつもの場所だから。よろしく刀剣ブレーダー

「了解。………はぁ」


 通話を切ってため息をつく。最近は転移者ポーターが活動している。つまり奴らが多く発生しているってことだ。しばらくの間ではあるが、過労死しないか本気で心配になってくる。


 さ、平和な明日を迎えるために今日も今日とて頑張ろう。


 ☆★☆


 クラスのみんなと話しながら歩く。今日は私も含めて5人で買い物をしに行く予定だ。


「ねぇねぇミカ。なんで川斬…だっけ。毎回誘ってんの?」

「あっ、私も気になってた。誘っても断られるじゃん。用事があるとか言って」

「んー…別に理由とかはないよ。やっぱたくさん人がいた方が楽しいでしょ?」

「そー…かもしんないけどさ。用事とか嘘かもしんないじゃん」

「いつも一人だしねー」


 どうやらみんなは、チーちゃんをあんまりよく思ってないらしい。

 確かに話しかけなきゃ誰とも話さないし、いつも眠たそうに外を見てたりするけど。


「なんでそんなに詳しいのさ、ミカ」

「別に詳しいわけじゃないよ。見たまんまを言っただけ。みんなだって……」

「わぁああ! 恥ずかしいからいいって!」


 変かなぁ。

 本当、見たまんまを感じ取っただけなんだけど。


「それにほら、退屈そうにしてたから少しでも楽しそうにしてくれたらなぁ、って」

「うーん…わからなくもないけど」

「でも本人がねぇ…」


 確かに今回は、というか今回もだけどいつか絶対チーちゃんとも遊ぶんだからっ!


 だから今日も楽しもー!


 ☆★☆


 時刻は十時を回っていた。

 いつもならここら辺で終わらせて帰るのだが、その気配は全くない。


「はぁっ……」


 目の前にいるのは一体の異形。

 ヴァリアと呼ばれる未知の生命体。黒く硬質な表皮。二本足で立つ姿は人のようだが、腕は地面に届くほど長く、太い。トカゲを思わせるような頭、そして尻尾。そしてその体躯は二階建ての一軒家を、ゆうに超えていた。

 これで小型だってんだから笑えない。

 小型黑子。

 これがそいつの名称だ。まあ、名称と言っても、小さくて黒ければ大体これになる。

 で、私はそれに対峙しているわけだ。

 なぜか。

 私が魔法少女だから。

 それが〈仕事〉だから。


刀剣ブレーダー。早めに片付けてね。次行くから」

「へいへい……っ!」


 初めの小型黑子を倒してから十件目。私は日本中を飛び回っていた。転移者ポーターがいなけりゃ近場——と言っても数十km圏内だが——を車輪ライダーなんかに走ってもらったりするのだが。ヴァリアが多く発生するんだから仕方ない。

 だが、転移者ポーターも暇ではない。私が戦っている間に他の魔法少女も送っているのだ。転移魔法は希少だから、こうゆう時に思いっきり飛び回るのだ。


 いや、目の前のことに集中しよう。

 相手は7~8メートルの巨体、そしてその剛腕から繰り出される一撃は常人ならもちろん即死、魔法少女なら死にはしないが痛いことには変わりない。

 なにより、私は攻撃一辺倒なのだ、防御力は紙に等しい。

 なので、一撃必殺でいかせてもらう。

 と言っても、私の魔法は一撃必殺が基本なのだが。


 斬刻キリキザミの魔法。


 ザンコク、と呼んでもいい。

 その名の通り、斬って刻んで発動する、とてつもなくめんどくさく難しい魔法だ。詠唱の代わりに剣で斬り、魔法陣の代わりに刃で刻む。

 めんどくさいだろ?

 完全対ヴァリア用である。

 人相手には使うまでもないし、魔法少女だったら大体のやつは倒せる、イカレ魔法だ。多彩な魔法ではあるのだが。


 で、今回の相手は硬そうなので大剣で刻んでいく。

 何もない空間から突然現れた身の丈を越える漆黒の大剣。何の装飾もされていないが、黒く鈍く光るその刀身は底知れぬ不気味さを感じさせた。


「ふっ……!」


 次の瞬間相手の懐に飛び込み、本来なら持ち上げることすら難しい大剣を、走りながら縦横無尽に振りまわす。両腕、両脚、胴、腹、背中、尻尾、頭、相手の表皮に深くはないが確実に傷を刻んでいく。

 深く斬ると修復し出すので仕方ないといえば仕方ないが。


「ギィヤァァァアアアアッッ!!!」


 痛みか、怒りか。定かではないがこの世のものとは思えない絶叫を上げ、走りまわる私を捉えようと、腕を振りまわす。


 ま、その程度じゃ当たらないし、もう終わるのだが。


 終ぞ相手の攻撃は当たることはなく、最後に足に一撃入れて離れる。

 奴はチャンスだとでも思ったのか、此方に向かって走り出す、が……


「終わりだ」


【大剣破砕陣・杭窩】


 直後傷が光り、白く煌々と輝く杭が、奴を中心に数十本と現れる。杭は同時に放たれ、ヴァリアの硬い表皮をものともせず打ち破り、粉々に砕け散く。そして、後に残されたのは十センチ立方のキューブだけだった。


「はぁ…」

「終わりましたか。次飛びますよ」

「ちったぁ休ませろよ……!」

「貴女ならそんなに疲れてないでしょう? あっ、キューブは頂戴ね」

「……はいはい…はぁぁ…」


 私の夜はまだまだ続くらしい。

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