CoffeeBreak 09 - maria.start(story);
その方の噂を初めて耳にしたのは、皇城内でお父様の政務をお手伝いしている時でした。海外の情勢を集めて整理し、その背後から周辺各国の動きや皇国への影響などをお父様にお見せするレポートとして作り上げるお仕事の最中だったのです。
曰く、革新的なマギサービスを発表した新興企業の技術的中核。ダイナ王国の軍事や軍政を大きく造り替える程の影響を与えた。不良議員の汚職を摘発した立役者。そして、国王が『マギハッカーの再来』と褒め称えるほどの腕前。
その方の名前が報告に上がる度に、私の中で「どのような人なのだろう」という疑問は大きくなっていきました。報告には詳しいプロフィールなども添付されていましたが、人の本質というものは実際に会って初めてわかるものです。もしその人が皇国の国民だったら皇城に招待するのに、と歯がゆく思った事もありました。
極めつけだったのが、これまでリンター教によって提供されていた治療マギサービスが、ダイナ王国の国営になったという報告でした。いえ、正確には全く新しい治療マギサービスを開発して、新・リンター教が王国に寄付したというのが事実だったようですが。
これまで皇国でも、リンター教は治療マギサービスを高額の利用料で提供していました。いくら国が値下げを要請したところで、彼らは国内の信者を背景にそれをつっぱねます。傲慢な貴族達がそれを面白いと思うはずがなく、リンター教にちょっかいを出そうとするのを止めるのが常だったのです。
それが、ダイナ王国での国営化。当然ながら貴族達はこの知らせに色めき立ち、我々も治療マギサービスを国営化すべきだと主張し始めます。お父様は何とか貴族達を止めようとしましたが、貴族達は聞く耳を持ちません。一時期は治療マギサービスの無償提供を求めてリンター教と一触即発の事態にまで発展し、非常に危険な状態だったのです。
ですが、それもすぐに鎮静化します。なぜなら、ダイナ王国が治療マギサービスのソースコードを全て無償で公開すると発表したからです。国王の言葉によれば、ソースコードを公開する事でより多くの人を救いたいというのが表向きの理由のようで、国王の人道的な行いを称える声が多く挙がったようです。お父様がうらやましがっていたのが、少し面白かったですね。
その裏にはマギエンジニア全体の技術力の底上げと、ひいては人類の進歩に貢献したいという狙いがあるようです。いずれにせよ、私は画期的で素晴らしい試みだと評価いたしました。皇国にとっても、その利益は計り知れません。なにより、貴族達が大人しくなったのが非常にありがたかったのです。
しかし、公開されたソースコードを皇国内のマギエンジニア達に調査させた報告内容に、私は絶句してしまいました。これまでとは全く異なる発想で作られたコード、究極までに追求された合理性、利便性。そのどれもが調査したマギエンジニア達をして再現不能と結論されていました。
これまでダイナ王国とスタティ皇国は、隣接しながらも交流を積極的には行なっていませんでしたが、マギに関してはもう何十年も進歩が止まっているため、技術力の差についてはそれほど重要視されていませんでした。ですがこの報告を読んでしまえば、マギに詳しくない私でも隣国の隔絶した技術力は理解できます。
私は国家間のパワーバランス崩壊に危惧を覚え、技術者達には公開されたコードをお手本に何としてでも隣国に追いつくこと、そして、治療マギサービスの開発者の徹底的な調査を命じました。
そして、再び私は、あの方の名前を目にする事になります。
バンペイ=シライシ。
さらに驚くべきことに、今回の王国による画期的な試みの裏には、彼が関わっているという事も判明しました。治療マギサービスの寄付の条件として国王に直訴したと書かれている報告書を読んだ時、私の中で、彼への興味がさらに強くなりました。
国王に直訴したからといって、重要な治療マギサービスを無償で公開するなど、普通は考えられない事です。きっとこのシライシという方が、保守的な議員達を説得し、国王を納得させるだけの功績と影響力を持っているに違いないのです。
国の在り方を変えるほどの力。その存在に、私は大きく惹きつけられました。
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「お初にお目にかかります。スタティ皇国の第一皇女、マリア=オラル=スタティと申します。噂に名高いマギハッカー様にお会いできて光栄ですわ。この良き出会いに感謝を」
私が挨拶してみせると、シライシさんは大きく口を開けて茫然としていらっしゃいました。
マギカンファレンスなる催しを通じて、私の弟であるジャワールがシライシさんと接触し、正式に国賓としてお招きする事ができたのです。ジャワールから知らせを受けた時は、思わず拳をギュッと握ってしまいました。滞在中に彼の興味を惹き、できれば皇国へと引き抜く。それこそ、国益に適うというものです。
初めて彼にお会いした時の印象は、正直に言えば『平凡な男性』というものでした。私が笑いかけてみせると、顔を真っ赤にして口ごもってしまいます。他の殿方と変わらない反応に、私は勝利を確信しておりました。きっとこの方は私の言う事を聞いて、皇国に来て下さるに違いない、と。
殿方の興味を惹く仕草は、幼い頃から自然と身についたものです。恵まれた美貌を生まれ持った私は、常に殿方達からの好奇の目に晒されながら生きてきたのですから。
そのせいか、私はあまり男性に興味がもてませんでした。初めて会った大貴族の後継ぎの男性が社交の場で私に愛を囁いても、それがどんなに素晴らしい容姿の持ち主であっても、それを嬉しいと感じる前に「この人も結局は私の外見と権力に興味があるだけなのだ」と思ってしまうのです。この方が、私の何を知っているというのでしょうか。
現実の殿方達に幻滅した私は、物語の世界に逃げ込みました。紙の上にいる殿方達は、私の事など知らずに物語を演じています。自分とは全く関係のない恋愛劇に、私は夢中になりました。それが虚構だとわかっていても、物語の中で繰り広げられる恋愛はどれも純粋で素晴らしいものばかりだったからです。
あまりに熱中してしまい、同好の士を見つけてはたびたび物語についてお話するようになりました。そういった方達から勧められ、殿方同士の恋愛物語にも夢中になってしまいましたが……。とにかく、私にとっては自分自身の恋愛よりも、他の方の恋愛事情ばかりが気になるようになっていたのです。
「こ、こちらこそお目に掛かれて光栄です。初めまして、バンペイ=シライシと申します。皇女様におかれましては、ご機嫌うるわしく……」
シライシさんは、まごまごとした口調で返礼をしてきましたが、その姿はやはりどこか垢抜けておらず、聞いていた『マギハッカーの再来』とは随分と印象が違うものでした。むしろ一緒にいた長身のエルフ族の殿方の方が、よほどマギハッカーらしいと感じたほどです。
頭の中でカップリングを繰り広げていると、続いて一緒についてきた方々も挨拶してきました。本来はシライシさんお一人を招待したかったのですが、どうしてもという事だったので許可を出したのです。目的である引き抜きの邪魔になるため、内心は忸怩たる思いでしたが仕方ありません。そんな思いを表に出さないように制御しながら、私は表面上はにこやかに挨拶しました。
それにしても、まさか本当に子供と犬を連れてくるなんて。
やはり、常人の常識は通用しないという事でしょうか?
//----
道中は、とにかく皇国の事情をお話して興味を惹く事に専念しました。私の見立てに間違いがなければ、この方は皇国の現状に義憤を感じてくださるはず。
それは正解だったようで、王国民であるにも関わらず皇国の現状を憂い、平民にマギサービスを使わせるべきだと提言までしてきたのです。お連れの方が内政干渉になると釘を刺していましたが、私は目論見が上手くいった事を内心で喜んでいました。
それにしても、お連れの女性であるレイルズさんは、どう見てもシライシさんに気があるようですね。シライシさんの方も、レイルズさんを意識されていらっしゃるようです。甘酸っぱいお二人の様子に、私の頭の中で様々な妄想が膨らみましたが、これではいけないと首を振ります。
私はレイルズさんからシライシさんを奪わなくてはいけないのです。いわば、略奪愛。二人の仲を引き裂くのは心が痛みますが、悲恋も物語の醍醐味というものですから、私はこれでパン3つはいけますね。
そんな事を考えつつ馬車はお城につき、途中で案内をジャワールを引き継いでシライシさん達とはお別れしました。シライシさんがお父様のご病気が治らない事を訝しみ、診察したいと申し出てくださったので、私は急ぎお父様に確認の上で調整する事にしたためです。
お父様がご病気で倒れて、早一年。当然ながら政務が滞るようになってしまい、その分の負担は私やジャワールといった皇族に重く伸し掛かってきます。
第一皇子であるデベスお兄様は、政務などには見向きもせず趣味の狩猟に勤しんでおりますし、第二皇子であるバーレイお兄様は、政務は政務でも軍政にしか興味がないご様子。これでは、お父様に万が一があった時に、皇国が危ういと感じてしまうのも仕方ないでしょう。一刻も早く、お父様には復帰してもらわなければなりません。
「はぁ……王国がうらやましいですわ……」
まだ若いにも関わらず有能な国王を頂点に、優秀な議員達。そして、シライシさんのような最高の人材。マギサービスの件がなくても、皇国との国力は日に日に離される一方です。移民政策や安い関税などの開放的な政策は、裏を返せば、それを受け止める土台があってこそのものなのです。
確固たる土台がなければ、移民による治安の低下が問題となったり、輸入の割合が大きくなり国内の産業が弱化してしまいます。我が皇国では、とてもではないですが真似できそうにありません。
バーレイお兄様がトップの軍はコントロールが難しく、治安維持を全面的に任せるのは不安が残りますし、技術力で劣っている現状で関税を安くしてしまえば、あっという間に国内産業は駆逐されてしまいます。
そんな事をつらつらと考えながら廊下を歩いていると、向こうから集団の兵士達がやってくるのが見えました。先頭に立っているのは、黒い甲虫のような鎧を身につけた男性。ビーンズ将軍のようです。実力は確かなものの荒々しい気性で知られており、私個人としては苦手な部類の殿方に入ります。
また、バーレイお兄様が城内で軍事演習でもしているのかしら。これまでも度々見られた光景だったので、さして不思議には思いませんでした。いつも通り、ビーンズ将軍は不敵な笑みを浮かべて、私に会釈をして道を開けてくれると思っていたのです。
しかし、この日はいつもと勝手が違っていました。
彼らは私と、さらに一緒に歩いていたお付き達を突然取り囲んで、マギデバイスを向けてきたのです。抵抗しようとした護衛兵は、ビーンズ将軍によってあっという間に切り伏せられてしまいました。廊下に、お付き達の悲鳴が響き渡ります。
「おっと、薔薇姫様。大人しくしてくださいよ?」
「……一体、何が目的ですか?」
私は震える身体を懸命に抑えながら、目的を問うのが精一杯でした。
「ハッ。いい度胸だな、姫様。あんたには人質になってもらうぜ」
「人質……ですって?」
「そうだ。寝込んじまってる皇王様にな、その座を退いてもらうためさ」
「……つまりこれは、デベスお兄様の……?」
「ハッハッハ! 冗談だろ。あんなボンクラに皇王が務まるかよ。俺達はな、軍を率いてくれるトップを求めてんだよ。戦いから逃げるような腰抜けじゃないトップをなぁ」
「……そんな……」
なんて事。まさかバーレイお兄様が、武力で軍事転覆を図るなんて。
確かに、バーレイお兄様は普段から野心を隠さない方でしたが、まさか私たち兄妹を廃してまでトップに立とうなどと考えるとは思っておりませんでした。腹違いとはいえ、兄妹の情だってあったつもりです。意見の相違があったとはいえ、家族なのですから話し合えばよいと思っていたのです。
「ふん。まっ、姫様は大人しくしてりゃあ、命までは取られねえさ。男じゃねーから、王位継承の邪魔にはならねーし、あんたの頭脳は惜しいからな」
「……!! で、ではっ! ジャワールはどうするのです!」
「ああ……。あいつは今頃、丸焦げになってるんじゃねーか? 腕利きを送っておいたしな」
「そ、そんな……!!」
私はあまりのショックに血の気が引き、立っていられずに座り込んでしまいました。ジャワールが、私の可愛い弟が、もうこの世にいないなんて。
目から溢れ出す涙を止める事もできず、私の視界は静かに暗転していきました
ジャワールと一緒にいるはずの彼の存在など、忘れたまま。
//----
茫然自失のまま、人質となった私は食堂へと連れられて監禁されました。
周囲の様子など一切目に入らず、私はジャワールの事を想って何度も涙を流しました。小さい頃から可愛がってきたジャワールは、私にとってお父様よりも身近な肉親だったのです。
姉上、姉上、と私の後をついて回ってきた幼いジャワールを思い出します。大人になって一人前の殿方になったというのに、相変わらず私の事を慕ってくれるジャワールを、私は家族として愛していました。
「ジャワール……」
また自然と涙が溢れだした、その時。
不意に視界が真っ白に彩られました。明るい視界に驚いて顔を上げると、私達を包み込むように白い光が輝いていたのです。どこか見覚えのある光でしたが、思い当たる前に「させるかぁ!」という怒号と共に黒い影が飛び込んできました。
次の瞬間、私達は食堂から、どこかの一室へと移動していたのです。先ほどの光、そしてこの現象から、私の頭は即座に答えを教えてくれました。転移マギ。
一体誰が、と思いながら周囲を見回してみると、そこには信じられない人物が立っていました。
ジャワールが、心配そうにこちらを見ていたのです。
生きていた。
心が暖かくなるのを感じながら、思わず声を掛けようとしましたが、私の前にビーンズ将軍が立ち、近寄ってこようとしたジャワールを牽制します。どうやら、ビーンズ将軍も一緒に転移してきてしまったようです。このままだとジャワールが危ないと思い、咄嗟に制止の声を掛けました。
それから、ビーンズ将軍とジャワールのやりとりが始まりました。やはり、ビーンズ将軍の目的は戦争だったのです。平和の尊さを理解できないビーンズ将軍に、私は思わず嘆きの言葉を掛けました。
「戦争になれば、軍人だけではなく無辜の民達も犠牲になるのですよ? あなたは己の欲望のために、他人を犠牲にするつもりですか!」
「ハッ。平民を何とも思ってねえ癖に何言ってやがる。薔薇姫よぉ、俺は知ってるんだぜ?」
「な、何を――」
「お前、平民にマギを使わせようとしてるけどよ、そんな事をしたらどうなるか、賢いお前ならとっくに気づいてるんだろ?」
「…………」
ビーンズ将軍の問いに、私は答える事ができませんでした。
それは肯定したのと同じ事です。
平民にマギを与えれば、これまでの貴族の横暴に反発して暴動が起こるのは必然。そんな事は言われなくてもわかっている事です。しかし、国を変えるには、ある程度の『痛み』は許容しなければならないのです。
正しい治世をしていれば、平民達だってむやみに反発などするはずがありません。反発を受けてしまうのは、ある意味で貴族達の自業自得ではないでしょうか。自浄作用のない政治など、腐敗する一方なのですから。
「そんな状況になって、一番得するのはどいつだ? 貴族は平民達に追い立てられて破滅。平民達が暴走すりゃあ皇王や皇族だってタダじゃ済まねえ。平民は平民で、国が荒れて治安は最悪。すぐに新しいリーダーは誰だって話になるだろうなぁ?」
「そ、それは……」
「そこで名前が挙がるのが、平民達から大人気の薔薇姫様ってわけだ。なにせ、今まで平民にも優しくしてくれた皇族様だからなぁ? アホな第一皇子なんか人気は最悪だ。あっという間に排除されて、後には皇王の椅子だけが残されるってわけだ。よくできた筋書きだよなぁ?」
「ち、違います。私はそんなつもりは……」
いいえ。平民達が理性を失えば、確かにそういった流れになりうる、と考えたのも事実です。ですが、それは私が王座に就くためではないのです。そもそも、これまでの皇国には女王などいなかったのですから、どうしたって反発は出てしまうでしょう。
だから私は、もし万が一そのような事態になれば、ジャワールを玉座に座らせるつもりでした。私に比べればジャワールも目立たないとはいえ、平民たちからの人気は十分に集めているのです。ジャワールを王として、私はその補佐をする心算でいました。
虚構の世界に逃げ込んだ私にとって、現実の世界はどこか空虚な人形劇のように感じていたのです。まるで盤上の駒を動かすように、冷静に平民達や貴族達の動きを考える私がいました。私にとって本当に大事なのは肉親達だけ。それ以外はどこか冷めた目で見ている私がいました。
ビーンズの言葉に、ジャワールは「姉上を侮辱するな」と激昂していますが、私はジャワールが考えているほど高潔な人間ではないのです。ジャワールにこのような醜い心を見せるわけにはいかないと、外面を取り繕っていたばかりなのですから。
思えば、私はいつからか己の外見を疎ましく感じていたのでしょう。周囲の男性達は、私の外見を見て「内面もきっと同じように美しいに違いない」と決めつけてくるのです。おかげで、私は日頃の不満を表に出すこともできず、ただただ醜い己を見せない事ばかりに心を砕くようになってしまったのです。それはまるで、物語の登場人物を演じているようなものでした。
物語の中の恋愛に憧れたのは、幸せな恋愛をする女性に自分を重ねていたのでしょう。本音を晒し合い、ぶつかり合っても、最後には結ばれる。そんな関係に憧れていたのです。現実の世界に私の内面を見てくれる相手なんていないと諦めていたのです。
気がつけば、私の前に一人の男性が立っていました。
私達を守るように背を向けて、あの恐ろしいビーンズ将軍と向き合っています。
その方は、すっかり忘却の彼方にいたバンペイさんでした。私が醜い心を隠しながら、打算的な態度で興味を惹こうとした相手です。
驚きながら様子を見ていると、ビーンズ将軍は手に持ったマギの剣でバンペイさんに斬りかかります。危ない、と悲鳴をあげそうになりましたが、その剣は不思議なことに空中で静止してしまい、バンペイさんに届く事はありませんでした。
それどころか、彼は見たこともないようなマギを駆使して、あっという間にビーンズ将軍を追い詰めていきます。光の球がどんどんと増えていき、徐々にビーンズ将軍に迫っていくのです。その幻想的な光景に、私は思わず見惚れていました。
「綺麗……」
敵に立ち向かうバンペイさんは、まるで物語に描かれる英雄のようでした。
光の中に立つバンペイさんは、まるで物語に描かれるマギ使いのようでした。
ふと、私の中に一つの疑問が湧いてきました。
もし私が醜い内面を晒していたら、彼は私を助けてくれたでしょうか。
彼の性格はこれまでの活動や直接対面して話した事で、おおよそ理解する事ができていました。気弱で頼りないようですが、その本質は善良で義理の人。お人好しといっても良いかもしれません。なにせ、見ず知らずの他国の平民のために憤る事ができるのです。まだ会ったばかりの私の事を、命を賭けて守ろうとしてくれるのです。
きっと彼は私の内面を知っても、苦笑いをするだけなのでしょう。いえ、もしかしたら、すでに私の内面に気がついているのかもしれません。それでも、彼は私を助ける事を躊躇わないのです。なぜなら彼は、困っている人がいれば放ってはおけないのだから。
私は胸が熱くなるのを感じました。まるで、私自身が本当に物語の主人公になったように思えたのです。思えば、人質になった私を助け出し悪に立ち向かうなど、物語の一節のようではありませんか。例えそれが義憤であり恋愛感情はないとわかっていても、それを切欠に恋に落ちる物語など枚挙に暇がありません。
もしかしたら、これから私の恋物語が始まるのかもしれない。
私は期待に大きく胸を膨らませました。
同時に、これまでのバンペイさんに対する態度を恥じていました。
あの程度では、ぜんぜん足りません。
もっと積極的にならなければ、略奪愛など成立しないのですから。
まずは名前を呼びあうところから始めようかしら。
ビーンズ将軍を打ち倒した彼の後姿を見ながら、私はそっと彼の名前をつぶやきました。
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