第21話 一面

 翌日の新聞各社、朝刊一面はフェニックスプロジェクトの内容で持ちきりであった。

『不死鳥の如く、フェニックスプロジェクト始動』

『フェニックスプロジェクト、それはオールジャパンの底力』

 カラーで刷られた一面にドドーンと載ったのは壇上に上がった8人の勇姿であった。そんな中、中京新聞だけはフェニックスプロジェクトを大々的には取り扱わず、他社とは異なる切り口で一面をまとめていた。

『フェニックスプロジェクトに至るまで…これが夢叶うまでのバトンリレー』

 そう銘打って、

『坂井慶一、松川啓介、八神英二』

 の3者の名前が顔写真と共に紹介されていた。

 そして、松川啓介に至ってはフェニックスプロジェクトの発起人でありながら、その夢を後者へと託し、自らは命の恩人となる少年の夢を追うため、同日午後にセントレアからモロッコへ向けて出発した、との記事が掲載されたのだった。

 他社の紙面に「坂井慶一、松川啓介、八神英二」、この3者の名前はみじんも掲載されていなかった。これは新島篤志が桐嶋一樹を追ってセントレアへ向かったことにより知り得た、中京新聞だけのスクープとなった。

 そのスクープの反応であろうか、午前9時過ぎくらいから中京新聞本社にあるお客様相談室の電話は鳴りっぱなしとなった。内容はと言えば、上々の反応が届いていた。その中のひとつ、お客様から直接、新島宛にかかった一本の電話があった。篤志はたまたま席に不在で、お客様相談室から新島宛に電話レポートが届けられた。

『本当に松川さんはモロッコに向かったのですか?教えて下さい』

 電話レポートにはそう書かれていた。

 フェニックスプロジェクトと3者の関係性を問う反応がほとんどである中、このレポートは松川啓介の動向について問うものであった。レポートの上欄にはお客様名と電話番号が書かれていた。

「遊佐千恵」

 半信半疑で受話器を取る篤志。書かれていた番号へ電話をかけた。すると、すぐに女性の声が出た。それは遊佐千恵であった。

 篤志は昨日、セントレアで遭遇した事実に加えて、八神英二から聞いたこれまでの経緯、その全てをありのまま、千恵に話した。

初めは平常心で篤志の話を聞いていた千恵であったが、込み上げてくる熱いものを抑えることが出来ず、仕舞には泣き出してしまった。

「あの、大丈夫ですか?」

「はい。ありがとうございました」

 千恵はそう言って電話を切ってしまった。

 そして、その場にそのまま座り込んだ。

 紙面に載った松川啓介顔写真。

 遊佐 学の「百か日法要」、あの日、霊園ですれ違った男性。

間違いない、その人であった。

 誰もいないリビング。その場に座り込み、千恵は思いっきり泣いた。

「あぁーーーーーー」

 そして、思いっきり喜んだ。

「ありがとう、松川さん。学は生きてるよ。ありがとう」


 中京新聞の朝刊一面を通じて、

 遊佐 学の夢は大空へ向けて羽ばたこうとしていた。


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