勘違い連鎖



付いてきて欲しいと頼んだのはユトリからであったが、断られてもどうにかして玄武の後継者を連れ出そうと目論んでいたユトリだったが、まさかこんなにあっさり行くとは思ってもいなかった。


亀の甲羅を着た少年、タワシは、拳を合わせたそのときからもう仕事を請け負ったようだった。「一回宿に帰って、荷物を持って帰ってくる」ユトリがそう言うと、


「あ、じゃあぼくもお供しますよ」


とあっさり言ってのけたのだ。


「持ち物なんて特にありませんし、愛着があると言ったらこの場所や、ここから見える景色だけです。それは持ち出すことはできませんし、もうたっぷり堪能しましたから。4年かそこらで薄れることはありません」


ユトリに嘘を見抜く心眼はないが、その言葉に嘘はないように思えた。


「タワシが、ここで祀られてる、なんてことはないの?」


「ぼくは玄武さんに連れられてここにいるだけなんで、土地神みたいに場所に縛られることはありません。それに、もしそうならユトリさんの提案も受けるはずないじゃないですか」


「……キミを連れてって、村の人は怒ったりしないかな?」


なにを今更と呆れられるかもしれないが、ここまですんなり話が進んだことがそれほど予想外だった、ということだ。神に等しいものが側にいる。それがどれだけ安心もたらすものか、ユトリも十分理解できているはずだ。


だから、反対されると思っていた。


それほど敬られているのだから、簡単に着いてくるはずないと思っていたのだ。未熟とはいえ神なのだから、そうやすやすとこの場を離れるなんて決断ができるとは思えない。自らを慕い、敬ってくれるのに、それを捨てて、あまつさえ恨まれることを進んでしたがるとは到底思えなかったからだ。


当初の目的では、後継者に反対されたあと、村の人から説得を試みるつもりでいた。信仰してくれる人がそう願えば、神がここにいる理由もなくなるからだ。


もちろん、それにも相応の問題が発生することは言わずもがななのだが。


「大丈夫ですよ。ぼくはこれまで一度も姿を見せたことがないので、誰に見つかってもどうってことありません。たまたま出会って意気投合した、これから一緒に旅をすることになったとでも言えばなんも疑いはもたれませんよ」


「声は? それは聞かれてるんでしょ?」


タワシは、かもしれません、と告げる。


「ですが、声が唯一無二の物であったら、声真似なんて誰もできませんよ。それに、神と思っている声がいきなり目の前から聞こえても、『ああ、似ているな』ぐらいにしか思いません。そもそも気付くかどうかすら、怪しいですね。長年そばで聞いていたならまだしも、『たまに聞こえる変な声』程度でしたら、気がつくほうがすごいと思います」


「……まあ、声っていうのは体調がちょっと変わるだけでも変化するからね」


「ぼくがここから離れて、天の声が聞こえなくなっても、大した問題ではないでしょう。祀られる形にはなっていますが、それはあくまで玄武さんのこと。ぼくたちじゃありません。声がぱったり途絶えたとしても、どこからか見守ってくれているとか、悪魔を倒しにいったとか、適当な理由を付けて感謝されるだけでしょうから」


タワシの発言は実に冷めているが、それも正しいのかとユトリは思った。神が目に見えてなにかしてくれることはなく、ただ奇跡の種を蒔いてくれるだけだからだ。


「なら、私が連れ出しても、特に問題はないのね?」


「強いていうなら、”ぼくの声”というここの名物が無くなってしまうのが一番の問題ですね」


バカなのかナルシストなのか。どちらにしてもため息しか出ない。


「なら、問題ないわね。さっさと戻りましょうか」










宿に戻ると、隣にいた変わった少年に人だかりが出来たが、それもやがてすぐに収まってしまった。この子があそこにいた神だと気付く人もいない。声が似ていると言ったら人もいなかった。まさか、こんな子どもじゃ、しかも甲羅があるなんて思わないからだろう。


しかし、珍しい出で立ちはそれなりに話の種になる。「お、竜宮城にでも行ってきたか」と囃し立てられることも少なくなかった。


「行ってきたわよ。でもダメね、あそこ。仲間は殺せないとか行って、出てくるご馳走といえば海藻だけなんだもん。肉が恋しくて帰ってきちゃった」


「ははは。乙姫様はどうだった、えらい美人だときくが?」


「この世のものとは思えないほど綺麗だったわ。だから嫉妬のあまり、玉手箱の煙を浴びせかけてきちゃった」


そんな冗談を言い合っていると、隣から小声で「玉手箱は、竜宮城にいた時間が詰まっているんですよ。すぐに帰ってきたのなら、乙姫様はお綺麗なままなはずでは?」と亀が冷靜に返す。小声だったのは、ユトリの間違いをひっそりと訂正するためだろうか。


なんにせよ、竜宮城への道案内役に覚えがないのに、どうして竜宮城へ行ったと信じられるのだろうか。


ひとしきり騒いで飲み食いし、ようやく部屋に戻ったときには、もう夜もいいところであった。今から出発、というのは夜逃げみたいでよろしくない。タワシもそこを理解しているようで、部屋をぐるりと見渡して眠れそうな場所を探していた。ベットで一緒にと言わないだけ、そこそこ礼儀はあるらしい。


寝具ひとつにタンスひとつ。それに一人用のテーブルに椅子1脚。それしかない簡素な部屋だが、タワシは椅子を寝床に決めたらしい。一枚の布を三枚におろしたような、薄い毛布を手に取ると。椅子に腰掛けて体にかけた。


「明日の予定だけど」


「はい」


ベットに座り、ユトリが言う。


「ここから東にある、ユーキョクって街に行ってみようと思ってる」


その街に聞き覚えがないらしく、タワシは首を傾げる。


「それなりに大きな街よ。生きている街。まだ仕事をしてる人も大勢いるって、きいたことあるわ」


「……それは、すごいんですか?」きょとん、と訊いてくる。ここ以外の場所を知らないというのは本当なのだろう。


「このご時世、仕事なんかして意味があると思ってる?」


「ああ」と、タワシが納得する。ヒントを与えただけでわかるとは、以外と聡いのかもしれない。


「こういう農村なら仕事はあるんだけどね。生きるために食べ物が必要だから、畑を耕して作物を収穫しなきゃいけない。でも、都会的な街はそうもいかない。みんな世界が終わるって思ってるんだもん。車なんか作っても誰も買わないし。そんなお金あったらいいもの食べてるわ。だから、ちゃんと機能してる街っていうのは、本当に珍しいのよ」


特に大きいのはね、と念を押す。実のところ、ユトリもこの街に行くのを楽しみにしていた。ユトリも都会で育ったのでわかる。そういう街は娯楽施設も充実しているのだ。


「そこに行くってことは、情報集めですか?」


「ええ」


悪魔がいるんですか? と言わないだけ、やっぱり賢いのもしれない。


「この辺りの中心基地になってるような場所だからね、手掛かりにならないまでも、なにかわかるかもしれない」


「ちなみに、後継者の位置っていうのは、どのくらいわかっているですか?」


「玄武様のあとは朱雀様だけ。その途中にユーキョクがあるからね、最初にそこに行ってみることにしたの」


「へえー。おこぼれがあるといいですね」


おこぼれ、という単語を使うところを見るといよいよバカではないらしい。


玄武の後継者と朱雀の後継者。それが近くにいるのだから、ユーキョクに行っても『後継者の居場所は』と聞けばほとんどの話題はそれになるだろう。だが、人は中途半端な情報を嫌うものだ。四獣の内の2人の所在がわかっている。ではあと2人は? となってもなんら不思議ではない。


その意味でのおこぼれ。あとの2人に繋がるなにかさえ見つかれば、収穫は大きい。そして、その期待値も、それなりに高いとユトリは踏んでいる。


「大きい街にいくとなると、その甲羅はやっぱり目立つわね。なにかで隠せないかしら」


ひとりごとのつもりだったのだが、タワシの耳には届いていたらしい。タワシは「はて?」と言った面持ちで首を傾げた。


「隠す必要はないですよ。無理に隠すと、その分だけ見てみたいっていう欲求に変わります。堂々としてれば一瞬です。このぼくが言うんだから、間違いありません」


甲羅を背負った人間。その珍しさから、それだけ好機の目に晒されたことだろうか。となると、先ほどの言葉も重さを持ってくる。


が、


「キミ、ここから出たことはないんじゃなかったかしら?」


「ははは。ばれました」ちろりと舌を出す。「でも、玄武さんの言葉なんで間違いありません。あの人、甲羅こそありませんが、もっと違ったもので注目を浴びてましたから」


それはおそらく、玄武の能力のことだろう。なるほど、それなら確かに見物客も多いかもしれない。神に等しい者の力を見たいというのは、ユトリにも理解できる感情だ。それをいちいち出し渋っていたら、後ろをついてくる人が絶えることはないだろう。だったら、さっっさとお客様を満足させて、という結論にたどり着くのは当然かもしれない。


「なら、そのままでいいわね。服は? ずっとスーツじゃ休まらないでしょ」


「男なら常に紳士であれ。玄武さんにそう言われ続けましたからね。女性の前で紳士服を脱ぐわけにはいきません」


「街中で紳士服の子どもと一緒に歩くなんて、どこかのご令嬢と間違われそうね」


その少年がドアを開けて「どうぞ」なんてレディーファーストを身につけた日には、いよいよドレスを見に纏わなくてはいけないかもれない。


「高貴に見られるのは嫌いですか?」


「しょうもない見栄はすぐに剥がれ落ちるのよ。その中身が宝石であろうとも、見栄の衣ほど価値を下げるものはないわ」


わざとらしく輝いたあとでは、本当の輝きが薄れてしまう。そしていくら綺麗に輝いていても、一度偽の輝きを放っている分、卑しく見えてしまうのだ。


「見栄なんて思う必要はないですよ」


だって、とタワシは少年らしく無邪気に笑う。


「神に愛された子どもを連れているんです。十分高貴な方ですよ、貴女は」








朝。冷えた空気の中で目を覚ますと、タワシはすでに起きていた。窓の外を眺めながら、呑気に鼻歌なんぞを歌っている。その歌はユトリにも聞き覚えがあった。四獣を讃えるものだ。


「……ちょっと、寒いじゃない」


昨晩飲みすぎたかただろうか、声が枯れている。タワシはいつ取ってきたのだろう、水差しをユトリに渡した。


「おはようございます。気分が良くなる朝ですよ」


確かに、と思ったのは、窓から差し込む光が幻想的だったからかもしれない。ここのところ雨続きで、青空なんて額の中でしか見れなかった。けれどすぐに、なぜだろう、機嫌が悪くなっていく自分がいた。


二日酔いだろうか。タワシがくれた水を飲み、ようやく頭が起き始める。目覚めは悪いほうではない。時間はわからないが、いつも自分が起きる頃だろう。となれば、寝不足、と単純な理由でもなさそうだ。


では、この感情は?


まだ力を開けないと完全には開かない瞼を擦り、ベットから足をだす。そこで、ようやく合点いった。


んふふ、と笑う彼。気分が良くなる朝、とは本当らしく、これが子どもなら寝巻きであることもおかまいなしに手を引っ張って外へ連れ出していきそうな顔だ。


けれど、彼はユトリの子ではない。昨日知り合った、他人だ。そんな彼に無防備な寝顔を見られていたとなれば、それなりに口を尖らせたくもなってくる。


「起きたんなら、起こしてくれればよかったのに」


「起こそうと思って、窓を開けたんですよ。目覚ましに小鳥のさえずりなんて、どこかの小説の1ページみたいじゃないですか」


本気なのか冗談なのか。窓を指差す少年は本当に楽しそうだ。けれど、まともに取り合っていられるほど、まだ頭は起きていない。


「そうなると次に描写されるシーンは私の美麗な寝顔でしょうね。どう? キミならなんて表現する?」


一瞬頭にハテナが浮かんだタワシだったが、すぐに言わんとしていることがわかったようだ。「そうですね」と一拍置いてから。


「ぼくだって小さいけれど男性です。ユトリさんの寝顔に引き寄せられて、うっかりキスでもしてしまっては大変ですからね。お天道様の強い光で目を眩ませていたので、あまり見ていないのですよ 。それでも良いのなら、綺麗だった、の一言でしょうか。言葉なんて不完全なものでユトリさんの寝顔を表現できません。あえて簡素な表現を用いることで、読者の想像を煽ります」


なかなか洒落の効いた言葉だが、釈然としないのはなぜだろう。寝顔を見たのに、興味がないと言われたからだろうか。それはそれで、少し悔しい気がしてくるから不思議なものだ。


「あっそ。で、朝食は? もう食べたの?」


「まだです。あ、でも先にシャワーはいただきました」


と言うが、衣服は昨日と同じものだ。まさかこの短時間で洗濯、乾燥を終わらせたわけでもあるまい。


「スーツは同じものを何着も持っていますので」と、タワシは笑顔で返す。「この甲羅、中に収納できるようになってるんです。便利でしょう? 旅の支度が必要ないもの、普段から全て持ち歩いているからなんですよね」


確かに便利だが、それでは名前を甲羅ではなく旅行鞄とすべきでははないか。ことごとく亀から外れた存在である。


「一応腕と足までは収納することができます。まあ、防御体勢です」


「頭は?」


一番守る必要がある箇所ではないか。


「子どもの頭は、体に対して大きいものなのですよ。なんで小さな子どもがよく転ぶか知っていますか? それに、ぼくはほかの亀より特別脳が大きいですからね。甲羅に仕舞うより、もっと確実に守る方法を取れます」


要は頭がいいので策を練って危険を回避する、ということなのだろうが、もっと話を簡単にすればこうだ。


頭が大きすぎて引っ込ますことができない。


確かに、頭がすっぽり入ってしまう姿は想像できない。人の姿をしているのだから、なおさらだ。首だけしまったタワシを見たら、どうしたって首切り死体にしか見えない。いや、手足を仕舞っても同じことが言えるのだが。


それでも頭が守れないのは、亀としては致命的ではないだろうか。


「それに、ぼくには『キーワード』がありますからね」


窓を閉め、部屋を出るタワシ。なるほど、ぬかりはないらしい。






朝食をすませ、チェックアウトもすませる。それなりに友好を築けた村人と別れるのは後ろ髪を引かれたが、致し方ない。悪魔を倒したあとで、また会いにくればいいのだ。一番長く別れの挨拶を言ったのは、ここまでの道案内をしてくれたガイドだ。しっかりと握手を交わし、タワシの手も握って、旅立ちを祝福してくれた。


「協会でもあれば、祈りを捧げてくところだけどね」


旅立ち、といえばやはりそれだ。見ず知らずの神といえ、やっておけばそれだけ心に余裕が生まれる。やっておけば『ちくしょう』と言える相手ができるが、しなかったら自分を恨むしかないからだ。


この村に協会がないことを知っているタワシは残念でしたね、と言ってから、胸の前に手を当てた。


「でもぼくは玄武さん以外に神を崇拝しませんので」


だが、守護の要である玄武の祝福を受けているのだ。これほど心強いこともない。形だけとはいえ、ボディーガードの役割もある。それを考えると、この先お布施の必要はないかと思えるほどだ。


「ここから今行くところ……えーと」


「ユーキョク?」


「はい、そこまでは歩いて?」


ユトリは首を横に振る。「馬よ」


「馬……ですか」


タワシの顔が途端に曇る。乗馬を想像しているのがすぐにわかった。だが、趣味で乗るならまだしも、移動のために馬と聞けば普通は荷馬車を想像するものだ。旅をするとなれば真っ先にそう思いそうなものだが、生憎経験がないからだろう。そこをあえてつつくほど、ユトリは子どもではない。


「行商人がユーキョクに行くっていうから、ついでに乗せてもらうことにしたの」


ほう、とタワシが息を吐く音が聞こえた。


「向こうにつくのはお昼過ぎね。こっちでなにか作ってもらってもよかったんだけど、向こうで食べたほうがいいでしょう」


それは主にユトリの意見だった。ここの料理も決して劣っているわけではないが、やはり都会と比べると少し上品すぎる。油たっぷりで人口調味料にドブ漬けしたような料理も、食べていなければ懐かしく思うものだ。すこし前は健康に悪いだの早死にするだの言われていたが、そんなことをいちいち気にしてたら美味しいものを食べずに死んでしまうことになる。それはあまりにももったいない。


商人と待ち合わせをしている場所につくと、まだそこには誰もいなかった。「騙されましたか?」とタワシが聞くが、なんてことない、まだ待ち合わせの時刻より10分ほど早いだけだ。時間になれば、予定通りに荷馬車がユトリたちの前に現れた。


「お願いします」と言って、二人は乗り込む。荷馬車の主人は壮年の男性だった、それなりに歳を重ねてきているのだろうが、タワシのような少年を見たのは初めてだったのだろう。自然と「ほお」と音が漏れていた。


「ぼくを売り飛ばしたりしないでくださいね?」


先制とばかりにタワシが言うと、屈託なく男性は笑った。そんなこと言われるとは思っていなかったのだろう。確かに、世の中には物好きがいるものだ。その中の一人や二人知っていてもおかしくない。それを含ませるように男性は「さてねえ」と言った。


ここまでくれば悪意がないのはわかったも同然だが、せっかく出方を伺ってくれているのだ。タワシは目一杯の笑顔を返す。


「紙の上でも言葉の中でも、ぼくは負ける気はしませんから」


神々の争い、というのは主に物語として本の中や、親から子に歌などに混ざって伝えられる。そして商人が戦うときに使うのは、やはり書面や言葉なのだ。そうなれば、どちらが強いかは考えるまでもない。商人はさらに気をよくしたようで、後ろに乗れと指で指示してきた。


口が上手いのが商人なら、好かれるのも口が上手い人らしい。もちろん、商人でない、という条件付きの話ではあるが。


ゴトゴトとなる荷台の上で、荷台に寄りかかるように腰を下ろすユトリ。これが柔らかいものなら良かったが、だとしたら寄りかかることをゆるしてくれないだろう。ユトリの背にあったのは丁度いい高さの木箱だ。


「さらりと、自分を神と宣言しちゃったけど、いいの?」


先ほどの例えの話だろう。タワシも腰を落ち着かせながら返す。「大丈夫でしょう。冗談のひとつと捉えられることは目に見えてます」


「でも、玄武様の後継者なんでしょう?」


ん? とタワシの眉根が寄る。そしてすぐになにか合点がいったようにポンと手を打った。


「全く問題ないですね。もしぼくが玄武さんの後継者だとしたら、この甲羅はあまりに狙いすぎでしょう。『キーワード』を使って壁を出したほうが説得力があります。玄武さんは、甲羅なんてなかったので」


「あの商人が村に戻ったときに、あの丘の上から神様の声が聞こえなくなったことと、丁度そのころに出て行った亀っぽい少年のことを結びつけられるのが嫌なのよ」


きっとそうなれば、ユトリは神様を誘拐した犯人とされるかもしれない。タワシがあそこを出れたのは神様とばれなかったからと言えなかったからだ。


「そのときは、ぼくがユトリさんをお守りしますよ。大丈夫です、だって、玄武さんの後継者なんですから」


なにがおかしいのか、クスクスと笑みを浮かべるタワシ。先ほどとは違って、子どもっぽさが増したような気がするが、ユトリはなぜ彼がそんなに愉快なのかわからなかった。


そして、ひとしきり笑い終えた彼の顔に、少しだけ申し訳なさが残っていた理由も、ユトリは推測することができなかった。


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る