第三章:嵐の前触れ
第一節:奉公
沖田さんと祇園祭に行って数日後、後に禁門の変と呼ばれる京都を追放されていた長州藩が、会津藩主・京都守護職松平容保らの排除を目指して挙兵した事件が起こった。新選組の皆さんが守ってきた京の街は戦火となり、約3万軒が焼失してしまった。
そんな事件から約2ヶ月。少しずつ街も復旧し、以前のような生活を取り戻しつつあった。新選組の皆さんは、今まで以上に多忙となってしまったようで、あれ以来会っていたない。先日、近藤さんが深雪さんのお見舞いに来た時に、沖田さん達の無事を聞いたし沖田さん達も私達の無事を知らせると言っていた。だけど、元気な姿を見ていない私は本当に無事なのか不安を拭えないでいた。
「いつになったら会いに来てくれるんだろう?」
「今、目の前にいるけど?」
「きゃ!? お、沖田さん!? それに、斎藤さんも!?」
花を摘みながら空を見上げて黄昏れていると、沖田さんが顔を覗き込んできた。
「沖田、そんなに顔を近づけるな。驚くだろ?」
「だって、何度呼んでも気付かないんだから仕方がないんじゃない?」
呆れた様子でそう言う斎藤さんに沖田さんはそう言った。
「えっ? 何度も呼ばれてたんですか?」
「うん。でも、君はボッーとしてて気付かなかったみたいだったよ」
「も、申し訳ありません!」
「気にするな。長い間、こちらに顔を出せず悪かったな」
斎藤さんがそう言うと私達はお互いの近況報告をしあった。
*
「えぇ~!? じゃあ、沖田さんも藤堂さんも禁門の変に参戦したんですか!?」
「もちろん。当然でしょ? だって、僕は新選組の一番組隊長なんだから」
「で、でも・・・・・・あの時はまだ病み上がりでしたよね?」
祇園祭に一緒に行ったとはいえ、まだ完治とまではいっていなくて無理をしてはいけないはずだった。
「沖田が大人しく床に臥してるわけがない。土方副長の制止を押し切って戦に赴いたんだからな。まったく、万全の体調でないのに戦に出るなんて。もし、長州の奴らに斬られでもしたらどうするつもりだったんだ?」
「大丈夫だよ。この子のお守りを持って参戦したんだから」
「えっ? 沖田さん、お守りを持っていて下さったんですか!?」
『手作りだから御利益があるかどうか期待はできない』と言っていた。だから、私は沖田さんがお守りを禁門の変の時に持っていてくれたことに驚いた。
「御利益があるかどうか確かめるためにね。もし、僕が斬られてしまったらそれは御利益じゃなく厄災があるってことだから、即刻近藤さんには君のお守りを捨ててもらわないといけないからね。でも、危険なことは何もなかったから一応、御利益はあるみたいだよ」
沖田さんは嫌味っぽくそう言うと懐から私が渡したお守りを取り出した。でも、沖田さんのその言い方からは優しさも滲み出ているような気がした。
「あら? 話し声が聞こえると思ったら沖田君達が来ていたのね」
「深雪さん! 起きてて大丈夫なんですか!?」
縁側からこちらに微笑みかけている深雪さんの元に私は走った。
「えぇ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう。あら? 綺麗ね。鶏頭ね」
「はい、私の好きな花なんです。深雪さんにと思って。すぐに飾りますね。でも、まだ体調は良くないんですから、横になってて下さい!」
「分かったわ。沖田君達も立ち話もなんだから家に上がってちょうだい」
「ごめんなさい。玄関からいつもの部屋で待っていて下さい」
沖田さん達にそう言うと私は深雪さんを支えながら部屋まで連れて行った。
*
「深雪さんの容態はどうなんだ?」
「・・・・・・・・・あまり、良く、ないです」
「そうか・・・・・・・・」
斎藤君は彼女が出したお茶に手を置いたままそう呟いた。
「私、深雪さんに優しくしていただいてるのに何もできなくて、役に立てなくて・・・・・・・・・」
「大丈夫だよ。近藤さん、平助が江戸で集めた隊士達の面談の後に有名な医者の所に行って深雪さんのこと聞いてみるって言ってたから」
「本当ですか、沖田さん!?」
余程、深雪さんのことが心配だったんだろう。僕がそう言うと、彼女はパッと明るい顔をしてそう言った。
「でも、江戸って遠いんですよね? 藤堂さん、病み上がりなのに大丈夫なんですか?」
「あぁ、あいつなら問題ない」
「そうそう。平助ってああ見えて体力馬鹿なところあるからさ」
僕達がそう言うと彼女は安心した様子を浮かべた。その彼女の表情を見て何故か僕はチクリと心が痛んだ。
しばらく僕達は色々と話し合い、また少し落ち着いたら記憶探しのために出かけることを約束して屯所に帰ることにした。
「今日は、ありがとうございました」
「いや。俺達も気になってたからな。会えて良かった」
僕達を送るため玄関先まで彼女が出てくれた。斎藤君と彼女が挨拶してる間、ふと玄関先に目をやると鶏頭の花が可愛らしく咲いていた。
「・・・・・・・・・そういえば、鶏頭の花が好きなの?」
「えっ、あ、はい」
「何かそういう記憶でも戻ったの?」
僕がそう聞くと彼女は首を横に振った。
「いいえ、特には。鶏頭の花も前から好きだったかどうかも分からないんです。でも、庭で咲いてる鶏頭の花を見て新選組の皆さんのことを思い出したんです」
「僕達のこと?」
予想もしていなかったその言葉に僕と斎藤君は首を傾げた。
「はい。この花って皆さんの刀に見えませんか?」
彼女にそう言われ、先に行くにつれ細くなっている鶏頭の花を見た。まぁ、言われてみればそう見えなくもない。だけど、刀なら別に僕達新選組でなくても武士なら誰でも持っている。それを僕達に重ね合わせるのには少し合点がいかなかった。
「それに、炎にも見えるんです。刀にも炎にも見えるなんて不思議だなぁって思ったら新選組の皆さんのことを思い出したんです。不逞浪士と違って皆さんは、志を持って刀を握ります。だから、この花の形が志を持った皆さんの熱い思いの炎にも見えるんです。だから、私はこの花が好きです。この花を見てると皆さんがいつも側にいて守って下さってる気がするんで」
満面の笑みで僕達にそう話す彼女の姿を見て、僕達は何も言葉を返せなかった。彼女がそんな理由でこの花を愛おしく思ってくれた。その想いが何故だか僕はすごく嬉しかった。
*
「先ほどは、弟子が失礼致しました」
「いえ、お気になさらずに」
「この江戸でも貴方方新選組の名は広く知れ渡っています。そんな有名な新選組の局長である近藤さんがいらっしゃるとは思わなかったんでしょうね」
「そんな我々は当然のことをしたまでです」
「それで、私に一体どのようなご用件で? 雰囲気から察するに診察ではなさそうですが?」
俺がそう言うと目の前の恰幅の良い男はそう聞いた。彼の名は松本良順。俺はその彼の医学所を訪れていた。
「はは。先生には叶いませんな。確かに俺は、診察をしていただきたくて此処を訪れた訳ではありません。先生にお尋ねしたいことがありまして此処に来ました」
俺がそう言うと、先生は背筋をスッと伸ばして先を促した。
「先生は上様の典医ですが、貴方は東洋医学ではなく蘭方医学を身につけていらっしゃる。典医の立場でありながら、何故『開国』を意味する蘭方医学を学んでいらっしゃるんですか?」
「なるほど。近藤さんの立場であれば、疑問に思うのも当然かもしれませんね」
俺のぶしつけな質問に対し、気を悪くした素振りも見せず朗らかにそう言った。
「井伊大老が何故、開国に踏み切ったのかは分かりません。しかし、今世界との交わりを断ってしまっては日本に将来はないと私は思っています」
松本先生はそう言うと、西洋で使われているという見たこともない医術道具を見せてくれた。
「私は、一人でも多くの人の命を救いたいと思い医者になりました。ここにあるものは、全て外国から持ち込まれたものです。西洋医学の知識や技術は東洋のものとは比べものにならないぐらい進んでいます。だから、私は東洋医学ではなく西洋である蘭方医学を学んだんです。これは、医学だけではなく他の分野でも同じことが言えます」
「他の分野でもですか?」
「えぇ。もっと簡単に言いましょう。近藤さんは、池田屋の時も刀で戦いましたよね?」
「はい」
「もちろん、相手も刀で皆さんの攻撃を応戦したと思います。しかし、仮に相手が刀ではなく大砲で応戦したとしたらどうでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「新選組の皆さんの剣技は素晴らしいものだと聞き及んでいます。刀同士での戦であれば、軍配は新選組にあると思います。しかし、大砲と刀ではどうでしょう?」
「そ、それは・・・・・・・・・・・」
答えるまでもない。それは、大砲だ。大砲は遠くからでも多くの敵を倒すことができる。いくら腕に覚えのあるものが束になって集まっても大砲に敵うことはできない。
「つまりは、そういうことです。近藤さんは攘夷派だと聞いています。ですが、いたずらに攘夷を唱えるよりも、国の将来のために開国をした方が私は有益なことが多いと思いますよ」
俺は、物怖じせず率直にそう言ってくれた先生に感服した。そして俺はその3日後、再び松本先生の医学所に訪れると、あるお願いをして京に戻った。
*
―――― あれから1ヶ月。
「どうして此処に!?」
近藤さんの隣に立っていたのは、土方さんだった。いつも此処に訪れるのは、近藤さんや沖田さん達。土方さんは、あの日屯所で会って以来だった。思わず思っていることを口に出してしまった私は、土方さんにジロリと睨まれてしまった。
「あぁ、実は和流君に会わせたい人がいてな。それで、トシもその人の話を聞きたいと言って連れて来たんだ」
「私に会わせたい人?」
近藤さんと土方さんの後ろ見ると、恰幅が良く剃髪で優しそうな男性が立っていた。
「あ、貴方は・・・・・・・・・!」
「おや? 君はあの時の! そうか、君だったんだね。近藤さんが私に会わせたいと言っていた人は」
「松本先生、彼女とお知り合いなんですか?」
私達の様子を見ていた近藤さんが不思議そうにそう聞いた。松本先生と呼ばれた男の人は以前、街で私とぶつかってしまった時のことを近藤さんに説明をした。
「そうでしたか。和流君とは偶然、街で出会っただけでしたか」
「えぇ、ですから昔からの知り合いというわけではないんですよ。お役に立てず申し訳ないです」
二人共残念そうにそう話し合っていると、土方さんが咳払いをした。
「近藤さん、こんな所で立ち話もなんだ。中に入って用事を済ませよう」
「あぁ、そうだったな。和流君、上がらせてもらうよ。深雪は部屋かな?」
「はい」
私は近藤さんと松本先生を深雪さんの部屋に案内した。土方さんは、診察の邪魔になってはいけないと言って簡単に深雪さんに挨拶を済ませると客間に引っ込んでしまった。
松本先生が深雪さんの診察を終えると、近藤さんと一緒に客間にやって来た。
「それで、深雪の容体はどうでしょうか?」
松本先生は私が用意したお茶を一口すすると、心配そうにそう尋ねた近藤さんに言った。
「かなり悪いようですね。栄養価のあるものを和流さんが作って彼女に食べさせているようですが、近頃は布団から起き上がれないようですし・・・・・・・・・・・」
「何か良くなる方法はないんでしょうか?」
「・・・・・・・・・今のように安静にして栄養価の高いものは取り続けて下さい。あとは、足の筋肉が固まらないように筋肉を解すことでしょうかね」
「そうですか・・・・・・・・」
近藤さんは松本先生の診断を聞き、残念そうな顔をした。
「近藤さん」
すると、今まで口を閉じていた土方さんが近藤さんの名前を呼んで、顎で私を指した。
「ああ、そうだったな! 和流君、待たせて悪かったな。改めて、紹介しよう。こちらの方は、典医である松本良順先生だ。上様の治療もされてる優秀な先生なんだよ」
「申し遅れたね。改めまして、私は松本良順と言います。以後、お見知りおきを」
「はじめまして。私は和流華と言います」
私は正座したまま頭を垂れた。
「実は、松本先生に深雪だけじゃなくて君の診察をしてもらおうと思って来ていただいたんだ」
「私を、ですか?」
「あぁ。総司達に頼んで京の街をまわってもらっているがコレといった手がかりが掴めてないだろ? 君の家族もきっと君を探して心配しているはずだ。だから、医術に明るい先生なら何か俺達が気付かないことでも専門的知識で気付いたり、治療方法が分かるんじゃないかと思ってね」
「近藤さん・・・・・・・・ありがとうございます」
近藤さんは江戸で隊士募集をしている間も深雪さんだけじゃなくて私のことも気にかけてくれてたんだと思うと嬉しくて感謝の言葉しかなかった。近藤さんや深雪さん。それに沖田さん達新選組の皆さんも私のために色々尽力をしてくれる。私もこの人達のために何かできることはないかと改め思った。
「それじゃ、詳しく話を聞かせてもらおうか」
松本先生は微笑んでそう言うと私はこれまでの出来事を詳しく説明した。
*
これまでの経緯を説明した後、松本先生のいくつかの質問に答えた。しばらく、松本先生は考えた後、結論を出した。
「君が記憶をなくしてしまった原因は、間違いなく何処かで頭を打ってしまったことが原因だろう。名前以外覚えてなかったのは、頭を打った時に強い衝撃を受けたことが原因か頭を打った際に何か怖い思いをして、その時の記憶を消したいと心の奥底で思ったことが原因かもしれないね」
「怖い思いですか・・・・・・・・・・」
松本先生にそう言われ考えてみたけど、一向に思い出せそうにない。
「どうすれば思い出せるんですか?」
今まで口を閉ざしていた土方さんが松本先生にそう質問した。
「無理に思い出させるのは得策ではない。こういったことは、自然に思い出させるのが一番だ。それに、君が屯所で言ってたことがそれもないよ。この子は本当のことを言っている。それは、医者である私が保証しよう」
「・・・・・・・・・っっ」
「???」
私は、一体何のことなのか分からなかった。だけど、松本先生が鋭い視線でそう言うと土方さんは黙り込んでしまった。
「君の記憶を取り戻すには長期的な時間を要すると思う。記憶が戻らず、不安になったり焦ったりするかもしれない。でも、自分を責めたりしてはいけないよ」
「で、でも・・・・・・・・・!」
「先生もこう仰ってるんだ。和流君、焦らず思い出してくれ。俺達、新選組はこれからも変わらず君の記憶が戻るよう助力するよ」
記憶を取り戻すのに長期的な期間が必要と知り、まだまだ近藤さんや新選組の皆さんにご迷惑をかけてしまうと思うと辛かった。でも、そんな私の気持ちを悟ってか近藤さんは変わらないいつもの明るい笑顔で私にそう言ってくれた。
「私も京に来た時やいる間は定期的に君のことを診察しよう。何か小さなことでもいい分かったことや気になることがあったら私や近藤さん、街を案内してくれる新選組の隊士さん達に言いなさい」
「・・・・・・・・・・・分かり、ました。でも、一つお願いがあります」
私がそう言うと松本先生は「何かな?」と問い返した。
「私を松本先生の弟子にしていただけませんか?」
「!?!?」
私がそう言うと松本先生だけでなく、近藤さんや土方さんも驚いた顔をした。
「私は、この京の街に来てから深雪さんや新選組の皆さんにお世話になっています。だから、何か皆さんのお役に立ちたいといつも思っていました」
「役に立ちたいと言うなら、他の方法でも良いはずだ。それに、君は今でも十分深雪さんのためにやってると思うよ」
松本先生はそう言ってくれたけど、私は首を横に振った。
「そんなことありません。本当に役に立ってるなら、深雪さんが歩けなくなるまでいかなかったと思います。それに、新選組の皆さんにはご迷惑ばかりかけて何一つ役に立っていません」
「だからといって、どうして医術を学びたいんだい? 医術を学びたいと思うその姿勢は素晴らしい。立派なことだと思う。だけど、君は女性だ。女性なら自分の幸せを考えた方が良いんじゃないかい?」
「これは昨日今日で決めたことじゃありません。前から思っていたことです。こうして、松本先生にお会いできたのも何かの巡り合わせだと思っています」
私はそう言うと、松本先生に思いの丈をぶつけた。
「以前、新選組の皆さんが池田屋事件で怪我をされた時、私は何もできませんでした。いつも私の記憶探しを仕事の合間を縫って手伝っていただいて、守って下さってるに私は怪我の心配しかできませんでした。私、・・・・・・・・・記憶がなくて曖昧だけど、・・・・・・・・・それでも、皆さんの役に立ちたいって思ったんです! 守られてばかりじゃなくて私も皆さんの役に立って助けたい! 何かあったら、少しでも早く助かる治療をしたいって思ったんです! お願いします、松本先生! 私をどうか弟子にして下さい! お願いします!」
私は深々と松本先生に頭を下げた。
「・・・・・・・・・・・・顔を上げなさい、和流君」
しばらくの沈黙の後、松本先生にそう言われ私はゆっくりと顔を上げた。すると、松本先生は少し困ったような顔をしながら微笑んで言った。
「君の熱意はすごく伝わった。君がどれだけ新選組の人達や深雪さんを大切にしているのかよく分かったよ。――――― 私は、ずっと京にいるわけじゃない。それに、京にいても新選組専属とはいかない。他の患者さんもいるからね。私で良ければ、君の師匠になろう。その代わり、今の気持ちを決して忘れてはいけないよ?」
「・・・・・は、はい! ありがとうございます!」
私は再び深々と松本先生に頭を下げた。
*
松本先生と玄関先で別れ、俺は近藤さんと一緒に屯所に向かって歩いていた。俺は屯所に向かいながら祇園祭の夜を思い出していた。
斎藤から総司が誘って和流と祇園祭に行くと聞き俺は驚いた。近藤さん以外には心を許さず警戒心が強い総司が簡単に警戒を解いたからだ。和流は記憶をなくして得体の知れない人間だ。アイツらだけじゃなく山崎にも和流のことは調べさせているが、一向に正体を掴めないでいた。そんな人物と二人きりということは、いつ危険が生じてもおかしくないということだ。もし、和流の記憶喪失がウソでどこかの藩と手を組んでいたら、いくら剣の腕があるとはいえ危険だ。疑り深い総司が自ら身の危険を冒すことが不思議で仕方がなかった。
だから、俺が和流を祭りに誘った理由を聞くとアイツは
「なんとなく、ですかね?」
「何にもないのにお前が連れて行くわけがないだろ? なんか理由があるんじゃないか?」
「―――― お礼、ですかね?」
総司は少し考えた後、俺の質問にそう答えた。
「礼、ね? お前にしては礼なんて珍しいんじゃないか? あのお守りか?」
「酷いですね、土方さんは。僕は近藤さんの教え子ですよ。礼は重んじていますよ」
「だが、お前は誰よりも和流のことを警戒していただろ? 一体、どういった心境の変化なんだ?」
「・・・・・・・・・・・自分でもよく分からないんですけど、一緒に祭りを見たいって思ったんです。ただ、それだけですよ」
総司はそう言うと俺の前を通って自分の部屋に戻ろうとした。
「お前ら、警戒解くのが早過ぎるだろ? まだアイツの素性は掴めていないんだ。気を付けろ!」
俺がそう注意をすると総司は適当な返事をして部屋に続く角を曲がって行った。藤堂はともかく斎藤、沖田の警戒を解いた和流は一体、どんな手練手管を使ってるんだと思ったが、
―――――― まったく、和流って奴は意志の強い女だな。
俺は、初めてアイツと記憶探しに行った斎藤の言葉を思い出していた。普通の女なら、男に楯を突くことなんてしない。だが、和流は違った。確かに、アイツは武士みたいにきちんと自分の意志を持っていた。
―――――― 案外、ミツさんと似て気の強い女が好きなのかもしれないな、総司は。
そんなことを思っていると気付いたら屯所に着いていた。
「トシも松本先先に診ていただいて納得したろ。和流君はウソなんて付いてないって」
「あぁ、そうだな」
「トシは心配しすぎだ。もう少し肩の力を抜いた方が良いと思うぞ」
近藤さんは俺の肩にポンと手を置いてそう言うと中に入って行った。
確かに、和流の記憶喪失の件は医学的にウソではないと立証された。深雪さんの所に行く前に松本先生が屯所を訪ねた時にウソを付いてないかどうか確認して欲しいと願い出た。松本先生は、見分ける方法は仕草と目の動きだと言って了承してくれた。松本先生が直接会ってそう言ったのだから間違いないだろう。
だったら、何故ここまで和流の情報が一つも入らないのだろうか? 何か和流には大きな秘密が隠されてるような気がして俺は仕方がなかった。
「記憶が戻らない限り本人から手がかりを聞き出すのは難しいよな」
俺はひとつ溜息をつくと俺も屯所の中に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます