15.地球・ジ・エンドⅣ

 りぃの夢はアーティスト。


 週に2回、路上ライブをやってるので、俺はボディガードみたいな役で付いていく。

 とはいえ別に有名なわけでもなく、ギターもまだまだ。

 これをきっかけに妹がに馴染めるようになればという兄心があるのだが。

 おにいちゃんは心配なのだよ。


「兄ぃ、今日……行ってもいい?」

「ああ、行こう」

「足、だいじょぶ?」

「ああ、こないだはごめんな、今日はもう大丈夫だから」

「兄ぃ、大好き」

「ああ、俺もだよ」


 そういって俺はりぃの頭を撫でる。

 いっとくが、妹ルートは無い。

 かっこ二度目。



 そして俺たちは駅前の広場へ向かう。

 いつもはギターを持ってやるんだが、今日は足を怪我しているので譜面や小道具の入ったリュックを背負う。

 うんしょ、うんしょ、と両手で一生懸命ギターを持って歩く妹と、猫ちゃんリュックを背負って付いていく俺。

 痛い絵面だよな、傍から見れば俺なんかキモオタだよ。

 まあ完全には否定できないところもあるのだが。




 広場の定位置に着いた俺たち――

 りぃはさっそく譜面台にコード譜をセットする。


「あれ? 今日はいつもの曲じゃねーの?」


 こくこくと頷く妹。

 譜面台には手書きのノートが開かれている。

 いつものコピー曲をまとめたファイルではないようだ。


「オリジナル、作ったの」


 オリジナル?

 自分で作ったってこと?

 作曲?

 まじかよ!


「すげーじゃねえか!! 兄ちゃんビックリだ!」


 俺は妹の頭を、わしゃわしゃと撫でる。


「もう。髪型が崩れるの」

「ああそうだよな、すまんつい嬉しくてよ」

「なでなではお家でしてほしいの」


 屈託のない笑顔でそう言い放つ妹を見て、彼氏でも連れて来ようもんなら殴り飛ばす自信がある、とつくづく感じる俺。


「早く聴かせてくれよ。りぃが作詞作曲かあ」

「ううん、詩はまだないの。聴く?」


 俺はもちろんだと言いながら、りぃの正面に座り直す。

 そして、りぃは鼻歌とラララだけでギターに合わせて歌った。



「……」



 なんつーか……悲しい曲だ。

 切ないというかダークな雰囲気というか。

 だが、引き込まれる曲である。

 違う世界にトリップできそうなはかない歌。


「す、すげぇな……」


 りぃの声は魅力的だ。

 見た目はロリだが、透明感のある綺麗なウィスパーボイス。

 俺が声フェチになったのも、こいつと育ってきたからとも言える。

 身近にこんな魅力的な声があると敏感にもなるさ。


「地球なくなれ」

「へ?」

「この曲の名前なの」

「まじか」


 地球なくなっちゃうと兄ちゃん悲しいんだけど。

 しかしこれは、オルタネイティブな重低音のロックにしたら異世界アニメのオープニングにでも使ってもらえそうな曲だ。

 いっそエレキギター持たせるか。

 いや、こいつ社交性ないからバンドとか無理だよな。


「りぃは夢があって偉いな」

「兄ぃも。社長になるの」

「ああ、そうなんだが、ふわーっとしてるからな、よくわからんわ」

「兄ぃはなんでも出来るからきっと叶うの。自慢の兄ぃなの」


 地球なくなったら社長になれないではないかと思いながらも、りぃの頭を優しく撫でる俺。


 その後もりぃは、いつものダークな曲ばっかりを弾き語り、俺は傍らで見守った。

 マニアックな曲ばかりじゃなければ、人も集まってくるだろうに。

 りぃはネガティブな曲といっても阿部○央みたいなのではなく、Aim○rみたいな高校生がテロでも起こしそうな曲を好む。

 身内贔屓びいきを抜きにしても、図書室で本を破く天才少女のような喋り方にマッチしている良い声なんだからさ。



 夕日が沈み――

 辺りが暗くなってくると、若者が増えてくるこの広場。


 ストリートダンスを始めたり、ただ集まってくっちゃっべって暇つぶし、という奴らだ。

 子供には教育上よくないな。


「そろそろ、帰るか」

「うん」


 妹も一通り歌い終えて満足している。

 兄として、何かしてやれることは他にないかなと、物思いにふけりながら帰路につく……




 episode『地球・ジ・エンド』 end...

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