13.地球・ジ・エンドⅡ


「そうですねえ。君は一個目を使ってみて、どうでしたか? 未成年相手には特に効果あると思うんですけど」


 俺の足を処置しながらそう尋ねてきた。


「ん、なんかされて気分は良いっす」

「まさかの成功? それは良かった! 目つきの悪い君でもいけるんですね、良かった良かった」


 おいおい、なんでびっくりしてんだよ。

 あんたが言い出したことじゃねーか。


「うまく褒められるようにというスキル本は沢山ありますが、そうゆうスキルの前に、褒め慣れることのほうが大事なんですよ。語彙ごいがなくても。『凄いね』とか『かっこいいね』とかでもいいんですよ。褒めることに抵抗をなくすというか」


 褒めることに抵抗か……めちゃめちゃあるな俺。

 そして褒め言葉なんてほとんど持ってない。


「でもそればっかじゃ、安っぽく見られるんじゃないっすか?」


 凄いねの連呼じゃ、ガキ扱いされそうだ。


「いいんです。考えて褒める暇があったら、褒め慣れて、それから本でも読んで技術を上げてください。だから結局、褒め慣れていない人がスキル本を読んでも、みんな実践できていないんですよ」


 確かになあ。

 今、褒め言葉教えてもらったところで、スッとは出てこねーだろーな。

 とりあえず、続けてみっか。


「で、次は何をすればいいんすか」

「二つ目は、『相槌あいづちを駆使する』、です。相槌あいづちの技術には、調など色々ありますが、百瀬君はアホだから座学で教えても無理なんでしたよね?」

「アホじゃないけど、無理です。飽きます」

「なので、僕が教える裏技としては、とにかく頭を上下に動かして『うなづく』ことと、『そうですよね』を連呼すること。それだけでいいです」

「はあ」


 それだけ?


「『そうですね』ではなく『そうなんですね』でもなく。『そ・う・で・す・よ・ね』ですからね。一字一句間違えないでくださいよ」

「はいはい、そうですよねー。てか、こんなんで社長になれるんすか?」


 俺がしたいのは開業ですよ。

 金持ちになりたいのですよ。


「もちろんです。理由は聞かないって約束だったのに破りましたね……」


 院長は魔王の目つきで俺を睨む。


「ま、まってくれよ! もう聞かねーから!」


 上原のことバラされたら学校行けなくなる。


「まあいいでしょう。実はこの七つのテンプレはですね、一つの目的のためにやることなのです」


 目的?


「裏口社長に必要な?」

「はい」


 一体なにをさせたいんだ?

 まったく関係ないような気がするんだが。


「それは……『人を使う』ためです。詳しくは七つ目のときに言いますが、簡単に言うと――」


 院長は続ける。


「カリスマ性やアイデア力がない? なら、持ってる人を雇えばいい。知識や技術がないなら、持ってる人にさせればいい。自分は楽することを考えてればいいんです。それが近道であり、完璧人間を目指して失敗する社長の足りないところですよ」


 さらに院長は続ける。


「しかし、やとうお金がない。ですよね? だから、無償で使役できる配下を作るんですよ、ひひひっ」


 不敵な笑みを浮かべながら肩で笑う院長。

 俺の尊敬した院長を返してくれ。


「まあ、七つのテンプレはつまり、『てっとり早く信頼を得る方法』ですね。嘘や催眠をかけるわけではなく。ありのままの君へのね」


 ありのままの俺か。

 どうなんだろう。

 例えば、箕面は信頼を寄せられる人間だ。

 だが、それは他人にはマネできない正義を突き通すが魅力だからだ。

 正義が魅力なのではなく、がだ。

 俺が思うに、上に立つ人間ってのは、正しいか正しくないかは関係ないと思う。

 魅力があるかないか、それだけで鬼が出ようが蛇が出ようが付いていく人間は付いていくのだろう。

 俺だって見ててわくわくするような奴と一緒にいたい。

 院長も脱臼を治したりできる魅力があるじゃないか。

 俺は信頼を得てもそんな魅力はあるのだろうか。

 純粋さの欠片もない俺に。


 と……考えても仕方ないか。

 とにかく今は好奇心の続くうちに楽しんでやってみよう。


「よし。固定完了。経過は順調なので次は二日後に来てください。それまで二つの裏技、しっかりやっといてくださいね。また笑える報告待ってます。……ぷくくっ、あっははは!」

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