12.地球・ジ・エンドⅠ

「箕面は良い奴だ。すごくね。こいつといると優しくなれる」

「えっえっ、えー!?」


 今朝は箕面が迎えに来てくれた。

 怪我してるからカバンを持ってくれるんだと。

 昨日はいろいろあった。

 ドラゴムボールを貰ったり、上原にグーパン貰ったり、院長センセーに脅されたり。

 やはり日常に刺激があるのは気持ち良いなあ。


「俺さ、社長になるために、思ったことをそのまま口に出さないといけなくなってよ、できないと院長にはずかしめられるんだわ」


 正確には褒め言葉だけだが。


「思ったことって! や、や、ボクはそんな、優しくするのはゆーまだけってゆーか……別に良い奴じゃないし。ってか何!? られるって!」


 箕面がドギマギしてやがる。

 何が社長に繋がるのかよくわかんねーが、いい感触だ。

 上原に言うときよりドキドキしねーし。

 これは男にも使えるんだな。

 ひゃっほ。


「あひゃひゃひゃひゃひゃ、俺は裏口から社長になるぜ」


 定番のグーサインだ。


「ゆーまが、変……」


 ジト目で俺を見る箕面は無視しておいて。

 今日は中だるみの水曜日、一日がんばるべと意気込む。



 春先のまだひんやりとした朝、いつもの坂道を箕面と登る――

 早い時間だが、ちらほらと登校中の学生もいて、スロースピードで歩いてる俺たちを抜き去っていく。

 今のは一年生かな。

 制服に縫い付けられている学章が緑だ。

 ちなみに俺たちの学年はピンクの刺繍である。

 そこへ神風が吹き、女子生徒のスカートがめくれた。


「きゃっ」


 おおお!

 朝からラッキーデイ。

 上原に比べると地味な感じの女子だが、それがまたレアでいい。

 最近ピンクの女神が俺に降臨しているようだ。

 しましまのパンツか。

 パンチラのテンプレだが似合ってるぜ。


「しましま、似合ってるぜ!」


 ふっ、俺は褒めキングになる男だ。


「……キモ」

「サイテー! 早く行こ!」


 二人はZ○Nに感染した屍を見るような軽蔑眼で、逃げるように去っていく。


「俺は社長に――」

「ゆーま、それはただの変態さんだからね……」


 いいんだもん。

 TPOなんて糞くらえだってゆってたもん。

 がんばれ俺!

 豆腐にヒビが入ったことは気にするな俺!


「くじけない俺は偉い!」


 自分も褒めとこ。

 嗚呼、泣けてくる。


 そんな途中でのアクシデントで更にスローペースになり、ぎりぎりの登校になった。


 それからも今日一日は、褒めキングに徹した。

 話しの途中であろうが、であろうが、であろうが、であろうが。

 箕面いわく、見てて冷や冷やだったとのこと。


 だが反応は意外にも良かった。

 大半の奴が『お前実は良い奴なんだな』『百瀬くんて人を見る目あるんだね』『ありがとう、困ったことあったらなんでもいいなよコケコッコー』だと。

 現金な奴らだ。

 こんなことで人を判断しやがって。

 俺の何を知ってるってんだ。




 そして放課後、いつもの接骨院へと向かった――


 受付には、上原エリカ。


「こんにちは!!!」


 ちゃんと俺にも挨拶するよう、院長に言われたのか。

 顔が笑ってないぞ。


「お、おう」


 やっぱり上原は可愛いな。

 ナース服もよく似合ってる。

 天使だ。


「上原、な、なーすふく……」

「何よ!」

「て……」

「て?」

「てん、天下のツンデレうぶしぇ!」


 グーパン。


「しゃべんな」


 イモった。

 昨日はスッと出たのに。

 意識しすぎた。

 好きな子に使えねーでとうすんだ俺。

 はあぁ――



「先生あのね」


 俺は院長に今日の成果を報告した。

 今朝のパンツの件も含めて。


「あはは、君は変態ですね! 死んだらいいのに! あはは」

「……」


 ここの医療人としてあるまじき奴らはなんなんだ。

 ドSどもめ!


「早く二個目の裏技くださいよ」


 俺はふてくされながらも、腹を抱えて笑っている院長センセーに続きをねだる。

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