02.キス!Ⅱ

 箕面は良い奴だ。

 すごくね。

 なぜかわからないが、こいつといると優しくなれる。

 女子にもモテる奴。

 でも、妬みの感情は産まれないんだよな。

 たぶん周りの奴みんなそう思ってる。

 ココロとやらが真っ直ぐすぎて見てられないときもあるが。


 正義感ってのが箕面のスキルかな。

 ちなみに俺にもスキルがある。


『好奇心スキルー!!!』


 目の前の欲望に忠実なの。

 熱しやすく冷めやすいのは自覚している。

 でもだいたいやれば出来るほうだと思うよ。

 勉強すれば平均のやや上ぐらい。

 苦手なものもあるが、わりと器用なほうだと思う。

 めんどくさいのは嫌い。

 簡単にいえば、テスト勉強してると漫画読み出したりしちゃう感じ。

 俺も努力している主人公には憧れるんだぜ。

 ある漫画を読んではネンの修行をしてみたり。

 ある漫画を読んではダンクの練習をしてみたり。

 かっこいいなーとは思うんだけど、俺の『好奇心』スキルが頭の中でこう連呼しやがる。

 飽きた、そろそろ違うことやってみよー、と。

 全て俺の天性スキルが悪いのだ。


「なあ、百瀬って、進路決まってん?」


 二組の奴が話しかけてきた。

 箕面の友達だ。

 俺の友達かって言われると違う気がするけど、ちょい知り合いってところか。

 いわゆる系ヤンキーだな。

 湘南○風の曲と共に登場しそうな感じ。

 だが、こいつのいい噂は聞かない。

 チャラチャラしてるし、喧嘩っぱやいそうな。

 それでも友達になってる箕面はやはり出来た奴だよな。


「あったりまえだろ。俺は社長になるぜ」


 いつものようにグーサインを見せ付けてやった。


「でかいことゆーじゃねーかぁ! で、なんの会社だよ?」


 ふむり、こいつは後藤の手先か。

 そのやりとり、もうやったからいらないの。


「どうせお前らにはわからんよ」


 そう言って俺は二組の廊下を後にした。


 二組すぐ横に一階へ続く階段がある。

 てくてく降りて踊場おどりばに差し掛かろうとしたとき、ふと思い出す。


 箕面忘れた。

 ま、いっか。


 少し立ち止まったが、ま、いっかである。

 なんだろう、進路迷子なのを自覚しているからか。

 でかい大人に憧れるのも事実。

 中途半端な自分から逃避したいのも事実。

 はよ帰ってアニメの続きでも見て考えよう。

 やれば出来るがやらない天才の俺なのだぞ。

 自堕落にも程があるのだが、今は気にするな俺。


「おい、まてや百瀬」


 さっきの奴。


「は?」


 なんか怒ってます?


「俺のことバカにしてんのか?」


 どうやら、さっきの『お前らにはわからんよ』が気に障ったようだね。

 ノリじゃねーかノリ。

 とんだ勘違い野郎に絡まれたもんだ。


「馬鹿、ちげーよ。そうゆう意味j」


 馬鹿に馬鹿って言っちまった。

 ヤンキーくんの目が、くわっと見開かれる。


「あ?」


 ヤンキーくんが俺にガンたれながら階段を降りてくる。

 喧嘩は負けたらしばらくグジグジ引きずるから嫌い。


「まてよ、俺はそんなつもりじゃ」


 その時だった。

 階段を上がってくる女子。


 腰まである茶色がかった艶やかな長髪は天使の輪を纏い、制服からのぞく細くて長い手足、色素の薄い白い肌。

 麗しいパッチリ瞳に長いまつげ。

 まぶしい。

 俺が絶賛片思い中の上原エリカだ。

 喋ったこともないけどね。

 憧れの人を眩しいと感じるのは科学的に本当らしい。

 興奮して交感神経が優位になるせいで、瞳孔が開き眩しく感じるんだとか。

 眺めるだけでこの胸キューンとなる感じがあるから学校はやめられねえ。


 なんて一人でトキメいていると、ヤンキーくんが俺に向かって言う。


「聞いてんのかコラ!!」


 一瞬トリップしてた俺は我に返り、後ずさりをするも体勢を崩してしまった。

 階段から落ちかける俺。


「わわわっ」


 その瞬間なんと、咄嗟とっさに彼女が支えてくれたのだ。

 が、その甲斐もむなしく俺は足を踏み外し、二人して踊場おどりばに転倒した。


「きゃっ!」


 彼女が下にならないよう抱くように体を捻った俺は、地面に背中を叩きつけられた。


「ん……」


 なんだこの唇に当たっている柔らかい感触は。


「んんっ……」


 ゆっくりまぶたを開けてみると、上原と俺は……



 ちゅっ。



 キスをしていた。

 それは俺のファーストキスだった――



「わわっ、すまんっ……!」


 がはっと体を翻し、上原を横に倒す。


 あいつが俺で俺があいつ……


 なんて展開になってるはずもなく。


「ちょっ……!」

「……えっ?」


 さらに悪いことに、彼女の胸を掴む形になっているではありませんか。


「なにすんのよーっ!!」


 いやいや、エロいことなんて考えてる余裕ないよ!

 彼女は真っ赤な顔で起き上がり、俺の股間を容赦なく


「ふぬわぁぁぁりぃぃぃ!!!」


 激痛が全身を駆け巡る。

 ヤンキーくんがで上原を見ている。

 そりゃ禁術だろと言わんばかりに。

 男の子同士わかりあえた瞬間といいますか。

 だずげでー。

 麦わらがいるならすがりたい。

 頭の中が真っ白になっていくまま俺はうずくまり、彼女を下から見上げる。


「ああ、上原のパンツも真っ白だ……」

「しねっ!!!」


 そうして俺は、意識が飛んだ――




 episode 『キス!』end...

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