高校ラブコメから始める社長育成計画。

すずろ

第一章

『百瀬ゆうま、コネを作る』

01.キス!Ⅰ

『世の中ね、顔かお金かなのよ』

 逆から読んでも、

『よのなかね、かおかおかねかなのよ』


 嗚呼、なんて秀逸な言葉なんだろう。

 この世の道理を物語っていながら、回文という面白さを兼ね備えちゃってからに。


 顔は普通。

 いや、目つき悪いから中の下ぐらいかもしれん。

 そんなモテない高校生である俺が、世の中で楽しく生きるなら……


 社長にでもなるしかないの。




「やあ諸君。君たちは選ばれし者だ! 俺の手となり足となり、その命尽きるまで、ともに戦おうではないか!」

「……帰る」


 反動もつけずにすくっと立ち上がり、疾風の如く立ち去ろうとするエリカを、俺は腕で遮りドンする。

 その振動で五月のカレンダーが揺れた。


「待ちたまえ。最後まで聞いてくださいなエリカさんや」

「なんなの!? あたしはバカに付き合ってるほど暇じゃないわ」


 今度はドンしてこようとするエリカを手で遮る。

 スカートごしに柔らかい太ももの感触。


「ごめんなさい俺が悪かったですどうか聞いてくださいお願いします」



 今日は日曜日。

 悪友である箕面みのおの家で企画会議。


「それでは改めまして、第一回、百瀬ももせゆうまを社長にしようの会、企画会議をはじめます」

「いえーい」


 箕面が楽しそうに拍手する。

 エリカは呆れた顔で、といったポーズをとっていた。



  §



 二週間前――



 俺は今、進路指導室にいる。

 進路希望調査にはもちろん『独立開業』

 机を挟んで目の前には俺の担任。

 後藤ちゃん。

 丸メガネのちっこいおっさんだ。


「ほほう、それで何の会社を?」


 進路希望をチラ見した後、俺のほうを見る後藤。

 少しイラっとさせる顔で俺に尋ねてきた。

 この目。

 他の生徒と話している時となんか違う感じ。

 はなっから見下してる感じ。

 まあいい。

 いつものことですよ。


「それはもちろん、楽に儲かるなら業種問わず!」


 俺はおもいっきりのグーサインをしてやった。

 案の定、後藤は鼻で笑う。

 ばかかお前、って顔に書いて。

 わかってる。

 どうせこいつも俺には期待してない的な雰囲気マックス。


「百瀬なあ……こっちは真剣に聞いてやろうってのに。そんなんで社会に通用するか」

「異世界に転生して魔王になるとかでもいいぜ」


 皮肉ってみた。

 あっちの世界に。

 だって読みたいの探すの大変なんだもん。


 こうして俺は、後藤にポイっと転移させられた。

 異世界ではなく、廊下にね。



 少し肌寒い今は四月。

 俺は百瀬ゆうま。

 高校二年生。

 将来お金持ちになりたいの。

 他人に言わせると絶賛の中らしい。


 帰るか。


 俺は教室に戻りカバンを背負った。

 窓をみると運動部の奴らがキラキラ青春を謳歌おうかしている。

 月曜から精が出ますね。

 てか、顧問っぽいチビハゲの先生に怒鳴られてるのか。

 大人が一人いるだけで青春の絵面が台無しですね。

 グーサインをした俺のほうが青春よ!

 子供ですよ!

 中二病ばんざい!

 あー、『チートは付けといて』ってゆうの忘れた。


 さて。


 教室に残ってる同胞たちに別れを告げ、俺は教室から出る。

 進路希望の決まってない同胞たちよ、少年の心を持ち続けようぜ。

 ふっ。


「ゆうまー!」


 二組の廊下を通り過ぎるとき、俺の名を呼ぶ奴がいた。

 ちなみに俺は一組。


「ゆうま、面談終わったんだね。ボクももうすぐだから一緒に帰ろうよ」


 出た、爽やか美少年。

 爽やかさ百パーセントのカゼ……じゃなかった箕面みのお君。

 爽やかさパーセントぐらいな俺も答える。


「これは箕面くんではないですか」

「ちょ、くん付けとかヤメテ。気持ち悪い」


 こいつは一年で同じクラスだった連れ。

 腐れ縁。

 ちなみに今はじめて君付くんづけで呼んでみただけ。

 気持ち悪いとはなんだ箕面君。

 よくみると別に美少年ではない。


 箕面。

 なんつーか、真面目な奴。

 風で飛ばされた他人のガムの包み紙を、わざわざ拾いに行ってゴミ箱に捨てにいくような奴。

 やりすぎると嫌味にしか見えないぞ。


 俺は真面目ではない。

 ヤンキーではないが不良かもしれません。

 ご存知の通り皮肉いし、見た目と違って結構ぐだぐだ考えるほうだ。

 心の友も多くはない。


 いやごめん、ほぼいない。


 ただ箕面とは仲が良い。

 学校で一番。

 ちなみに高校からこの街へ引っ越してきた俺には同中おなちゅうの奴がいない。

 学校以外に友達と呼べるような奴もいない俺は、持ち前の面倒臭めんどくさがり屋とにんマンで、万年反抗期な問題児だ。

 まあ、ちょっと別世界って感じで見られているのは知ってるのさ。

 すなわちこいつが一番の友人か。


 そこへ二組の奴が箕面に話しかける。


「次、お前の番だぜ」


 どうやら箕面、進路面談の番が来たらしい。


「うん、ありがとう!  ね、ゆーま、絶対待っててよ!」

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