第73話 売る
ルナが気を失ってから、次に目を覚ました時は、ルナが変になっていた。
まともに顔を合わせてはくれず、合ってもすぐに顔を逸らされ、逃げられてしまっていた。ただ、完全に逃げるのではなく、近くの物陰に隠れているようで、嫌われたわけではないと思う。というかそう思いたい。
それともうルキを襲う気はないっぽいので、そこはひとまず安心だ。でもルナはシンのことで頭がいっぱいで他のことは頭に入ってきてないように見えるので、少し不安だった。
翌日の学校に行く時もルナはシンから少し離れて着いてきていた。こんなルナは初めてのためシンはどう接すれば良いか悩んでいた。
学校でもルナはいつもと違っていた。いつもならシンの後を着いてくることは少なかった。でも今日のルナは、シンが何処かへ行く度、その後を追って着いて行った。
それと今日はもう一つシンを悩ませるものがあった。
それは今日も再び手紙がロッカーに入っていたことだ。内容は昨日と同じ時間に同じ場所に来て欲しいと言うものだった。差出人の名前はなかったが、おそらくルキであることは間違いなかった。昨日「また明日」みたいなことを言っていたので、それの続きだと思う。
ただ、手紙で伝えるようなことでもないと思った。
授業などはあまり集中できず、ほとんど聞き流して1日が終わった。放課後となり、昨日と同じように指定されて場所へ向かった。今日は昨日みたいなやましい気持ちがあるわけではないため、自然と誤魔化すことができた。
ただ、ルナは無言で着いてきていた。それを帰すこともできそうになかったため、そのまま連れて行くことにした。
昨日の場所へ行くとそこにはすでにルキが待っていた。
「シンくん、今日は早いね」
ルキはシンに気づくとそう声をかけてきた。
「昨日来てるし、何をするかはわかっているからね」
「それもそうか……であそこにいるのは?」
ルキとそう軽く会話をした。そんな会話をしているとルキは、離れたところにいるルナを見つけたようで、怯えたように少しだけ体を震わせていた。
「僕もよくわからないんだよ。今日一日あんな感じで、遠くから見ているだけで全然近づいて来ないんだよ。まあ、何か危害を加えることはないだろうから大丈夫だよ……たぶん」
シンは最後にそう小声で付け加えた。
「今、なんか不安になるようなこと言わなかった?」
「き、気のせいじゃないかな」
ルキはシンの小声もしっかり聞き取っていたようだ。
「まあ、大丈夫そうだから良いけど。それより時間はあまりかけられないし、早速始めようか」
「そうだね」
そう言って、昨日のできなかったことをやり始めた。
「まずは——」
ルキはそう言うといくつかのメーカー名と商品名を挙げていった。
今まではリンスのことなどほとんど知識がなかったためネットで評判の良さそうなものを選び作っていた。そのため、メーカー名や商品名を言われても全然名前が頭に入ってこなかった。そのため何度か言ってもらい、ようやく覚えることができた。
(ユキ今言われたものって作れるか?)
シンはルキに聞こえないよう声に出さないでユキにそう聞いた。
『少し待って下さい——調べましたが、作れませんね』
(え?どうして?)
『それは、それ自体が見つからないからですね。ものがわからなければ私も作れません』
「そうか」
シンはそう言い、ため息をついた。
「どうかしたの?もしかして作れないの?」
ルキはシンのため息を聞き、何か察したようだった。
「え、いや、それは」
シンはルキの言葉にどう返せば良いかわからなかった。もし、作れないと答えればシンの秘密をバラされそうだと思い、迂闊にそう言えなかった。
『言われた商品が見つからないだけで、そのメーカーの他の商品なら見つけたので作れますよ?』
この時シンはやっぱりユキがいて良かったと心からそう思った。
「いや、そのメーカーの他の商品なら作れるよ?」
「ってことは、それは作れないんだね?」
「うぐっ」
「まあ、それは仕方ないので、その作れるのを見せてください」
「わかりました」
そう言って作って見せた。
それから言われたものを作り続けていた。ルキは見たことないものもあるようで真剣な表情で見ていた。それといつの間にかルナが近づいて来ていて、一緒にそれを見ていた。
「うわっ!ルナ、どうした?」
シンがそう聞いても最初は何も言わなかったが、しばらくして。
「あれが欲しい」
と1つのリンスを指すしてそう言った。
シンはルナのお願いを叶えるため、そのリンスを手に取り、増殖で増やしてルナに1本を渡した。
「どうぞ」
「ありがと」
シンとルナそう短く会話をした。
ルナはシンからもらったそのリンスを大切そうに抱え、シンと遠ざかるように離れた。
シンはそんなルナを見て少し悲しくなった。
ルキの方は色々吟味した結果、知っているリンスを数本ずつと知らないリンス1をつずつ買うことにしたようでその代金をシンに支払った。
この日はこれだけで終わった。
しかし別の日、シンはまた同じように呼び出され、今度はいろんな美容品を作らされる羽目になるのであった。
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