第72話 説得
あの後、アイリたちと合流した。
2人はルナのことを心配していたが、アイリの方は何となくルナの状態から何があったかを察していたようだった。そのためか、アイリからの視線は痛かった。
家に着いてもルナは目を覚まさなかった。ルナはベッドに寝かせるとシン以外はその場から離れた。
シンはルキの言葉が心配で、ルナの近くから離れることができなかった。目を覚ましてすぐルキを襲いに行くなんてことも考えられ、ルナから目を離すことができなかった。
ロゼたちメイド組はシンがルナから離れないことを違う意味で捉えていたため、シンを暖かい目で見守っていた。
どのくらい経ったかはわからないが、外が暗くなってきたところでルナは目を覚ました。
「ん?シンくん?」
ルナは寝ぼけているらしく、声が弱々しく小さかった。
「そ、そうだよ」
ただシンはまだキスのことを引きずっていたため、顔を合わせることはできず、声は変に上ずっていた。ルナが寝ているときは全く意識していなかったが、ルナの声を聞いたらキスした時のことが鮮明に思い出された。
ルナも少しずつ目が覚めてきて、何があったのか思い出したようだった。
ルナはルキのことを思い出し、どこか冷たい雰囲気になったかと思えば、シンの顔を見て急に顔を赤らめ、慌て出したりと忙しかった。ただ、キスの衝撃が大きく、ルナはすぐにシンの前から離れたかった。
ルナがベッドから起き上がり、急いでどこかへ行くように見えたのでシンは慌ててルナを後ろから羽交い締めにした。
「シンくん離して!」
「離せるわけないだろ!」
と、お互いに微妙に噛み合っていない会話になってしまっていた。
とはいえ、お互いにキスのことを意識しているため、顔は赤くなっていた。シンはルナを人殺しにさせないため、恥ずかしさを我慢して必死に離さないようにした。
「シンくん!なんで離してくれないの?!」
ルナは頭が回らなくなりつつあり、すぐにでもシンから離れたくて、そう言った。
「なんでって、ルナをルキのところへ行かせないようにするためだよ!」
頭が回らなくなりつつあったルナはルキという言葉を聞き、一気に頭が冷えた。そこでルナはキスされる前のことを完全に思い出した。
「シンくん?離して?」
ルナのその声はシンを震え上がらせる程怖かった。一瞬怯んでしまい、拘束が緩んだがシンは何とかルナを逃さずに済んだ。
「そ、それはできない」
シンは何とかそう答えた。
「どうして?私はただルキが許せないだけなんだけど?」
「どうして許せないんだよ?」
「どうしてって、シンくんを誑かしたからに決まっているでしょ?」
「別に僕が誰かと一緒にいてもルナには関係ないだろっ」
シンはルナにそこまで拘束されたくないと思い、ムキになってそう言ってしまった。
「うん、関係ないよ?シンくんが誰といようと私は気にしないよ?」
「へ?そうなの?」
シンはルナのへの言葉に困惑してしまった。てっきりルナは嫉妬でルキを襲おうとしているとばかり思っていた。しかし、ルナの言葉からは嫉妬ではないように聞こえた。
「そうだよ?私はシンくんに幸せになって欲しいだけだからね。別に…私がシンくんの隣でシンくんを幸せにできなくても良いのよ」
ルナは私と言うことに躊躇い、少し間があいた。
でもルナの言葉で益々ルナがルキを襲おうとしている理由がわからなくなった。
「じゃあ、なんで?」
「なんでって、そんなのルキがシンくんを困らせているからに決まっているでしょ?シンくんもルキがいなくなれば、不安事がなくなるでしょ?」
確かにルナの言っていることは理解できたし、ルキがいなければと思ったが、消そうとまでは思ってはいなかった。
「だからってそこまでする必要はないだろ」
シンは呆れながら、そう言った。
「そんなことはない!シンくんが幸せになるなら、私はなんでもする!シンくんを不幸にするものは私が全て取り除くって決めたんだから!」
それはルナがシンに再開してからの1年で思ったことだった。この1年、ルナは自分勝手にシンに付きまとっていた。でもルナはシンに自分以外に大切にしている人がいることを知ってしまった。それはシンの近くにいれば、嫌にでも気づいてしまった。だから、自分の存在が必要ではないのかと思い始めていた。それからはシンに幸せになってもらうことがルナにとってのやるべきことになっていた。それでもルナはシンのことを諦めきれず、今でも付きまとっていた。シンがその気持ちに気づくまでは、シンの1番でありたかった。
シンはルナの覚悟にたじろいでしまった。しかし、シンにも伝えなければならないことがあった。
「ルナ、僕はルナにずっとそばにいて欲しいんだけど」
シンにとってはルナがそばにいて欲しかった。ルナがヨゴレず、ただキレイでいて欲しかった。それがシンの願いでもあった。
「え?それって結——」
しかしルナにはその「ずっとそばに」という言葉がプロポーズの言葉に聞こえ、思考が許容範囲を超え、再びルナは気を失ってしまった。
「ルナ?!」
腕の中で脱力するルナを見て、シンは大声で叫んでしまった。
そんなシンの叫びで家にいた人が全員集まってきた。
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