第71話 取引
どれくらいキスをしていたかはわからないが、気づいたときにはルナは気を失っていた。そこで僕はキスをやめた。
「ひゅー」
ルキは僕がキスしたのを見て、そう茶化してきた。
「帰る」
文句の1つでも言いたかったが、それ以上に恥ずかしく、この場から早く離れたかったため、短くそう言った。
「ちょ、ちょって待って!」
「なんだよ」
僕は、早く離れたいという気持ちが強く、ルキを睨んだ。
「ま、まだ話は終わってないんだから!」
僕が睨んだことにルキは一瞬怯んだが、話が重要なのか僕をすぐに帰す気はないらしい。
「僕は帰りたいんだけど」
「帰りたいなら帰っても良いけど、シンくんが異世界人って言うこともバラすからね?」
よほどその話が重要なのか、僕のことを脅してきた。
「わかったよ。それで話ってなんだよ」
ここで逆らっても良いことがないことはわかったので、素直に話を聞くことにした。
この時シンは、恥ずかしさで頭が回っていなかった。そのため深く考えることをしなかった。
「まずは、ルティーナをどうにかしてほしいってこと」
「どうにかってなんだよ」
僕はこのルキの言葉のせいでこんな恥ずかしい思いをする羽目になっていた。そのため、今度はそうならないためにしっかり何をすれば良いかを聞いておこうと思った。
「簡単に言ってしまえば、ルティーナに私を殺さないようにしてほしいのよ。たぶん目が覚めたら、また襲われるだろうから」
「?ああ、わかった」
僕はルナが嫉妬からあんな行動をしたと思っているから、これ以上はあんな行動をするとは思っていなかった。でも、僕はルナが人を殺して欲しくないので、一応そのことも意識しておこうと思った。
「ありがと。それと、ここからが今日あなたを呼び出した理由になるんだけど、あなたがリンスなどをこの世界で作っている人よね?」
「あー、そうだな」
僕は一瞬考えたが、これ以上隠したところで意味がないと思い、肯定した。それに何か根拠もあるみたいだったので、隠しても無駄な気がした。
「やっぱりそうなのね。それで!」
そう言うとルキはシンの方に近づいてきた。
「は、はい」
ルキが今まで以上に真剣な表情をして、迫ってきていたため、僕は言葉を詰まらせてしまった。
「私に直接そのリンスなどを売ってほしいのよ!」
「はい?」
僕はルキの言葉の意味を理解することができなかった。
リンスなど十分な量を毎日作っていたため、足りなくなるとは思えなかった。それにルナの親友ってことは家の身分も高いことはわかった。だから買えないなんてこともないはずだ。
そのため僕は、ルキがなんでそんな要求をするのかがわからなかった。
「だから!リンスなどを私に売ってほしいのよ!」
「いや、それはわかっているから。そうじゃなくて、なんでそんなこと言うんだよ。買えてないことはないだろ?」
「ええ、毎日買っているわ」
「それじゃあ、なんでだよ」
「そんなの、1日1本じゃ足りないからよ」
「足りないって、おかしいだろ」
僕は、1日でボトル1本を使い切るということが理解できなかった。
「そんなの私の家には女性の使用人が50人以上もいるんだから当然でしょ?」
僕は50人って言葉を聞いてなんとなく1日で使い切るっていうのも嘘じゃないと思えた。
「でも使用人も使っているんだな」
勝手ではあるんだけど、身分の高い人は使用人に厳しいイメージがあった。それに使用人も遠慮して使わないとも思っていたため、意外であった。
「そんなの当たり前でしょ?私たちのために働いてくれているんだし、女性は綺麗であるべきだし、それに私たちだけで使うなんて酷いことはしたくなかったからね」
その言葉でなんとなく理解できた。
「それじゃあ、何本くらい欲しいんだ?」
早く帰りたかった僕はすぐにそう聞き返した。
「もう一つ聞きたいことがあるんだけど良い?」
「うん?なんだ?」
「その、もしかしてなんだけど、違う種類のリンスとかも作れたりする?」
「まあ、作れないことはないけど」
「ほんとに?!」
「は、はい」
僕はまたルキの勢いに押され、言葉に詰まってしまった。
「良かった。あ、そうだった。まだ確認したいことがあったんだ」
「今度はなんだよ」
「そのリンスとかってすぐ作れるの?」
「まあ、この通りだ」
僕はルキに言われた後すぐに作って見せた。
「え?!そんな簡単に?!」
ルキはそういうと、僕からリンスを奪い取り、中身を確認し始めた。
「嘘でしょ」
ルキは一通り確認し終わると、そう言葉を漏らしていた。
ルキはこちらを振り返り、こう言った。
「今すぐに作ってほしいけど、シンくんはかなり疲れているみたいだし、また明日にしようと思うんだけど、良いかな?」
それは僕にとってはありがたいことだった。
「ほんとに明日で良いの?」
「うん、明日で良いよ。私もいろいろと整理したいから」
「ありがとう。それじゃあ」
僕はそう言って、帰ることにした。
「うん、また明日ね」
そうルキに見送られて僕はその場から離れた。
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