第54話 登校

僕は2年生になり、Sクラスに進級した。


ただ、僕はこの進級が不安だった。僕に決闘を挑んできているやつの中には確かSクラスのやつもいたはずだ。そのため、この進級は歓迎されていないのではないか?と思っているのだ。おそらく全員が歓迎していないことはないだろう。まあ、それらは僕の勝手な想像なので、実際のところはわからなかった。


そんなことを考えるだけで僕は学園に行きたくなくなっていた。それに今までSクラスの生徒とはほとんど接点がなく、会ったことがなかった。正体がバレたくなかったので、できるだけ避けていたということもある。


だから、Sクラスに入ることで正体がバレるのではないかとも心配している。考え過ぎかもしれないが、バレるよりはマシと思って、最悪のことをまず考えるようにしているのだ。


「「「いってらっしゃいませ」」」


考えながら行く準備をしていたため、気がつけば、ちょうど家を出るところだった。準備はいつもと同じなので、考え事をしながらでも問題なくできていた。


『いってきます』


僕は考え事をしていたが、その時だけは何とか「いってきます」と言うことができた。何か普段と違和感はあったが、考え事をしていたため、細かいことまで気はまわらなかった。


僕たちは全員学園に行くため、行くときは同じ時間に出ている。


今日はいつもように両サイドからルナとリリーから挟まれている状態で僕は歩いていた。その後ろからは、アイリとスミレがついて来ているという形だ。


(ん?スミレ?)


僕は何気なく確認しただけだったが、おかしいことがあった。僕の勘違いかもしれないと思い、後ろを振り返った。


そこには僕の見間違いではなく、スミレがいた。


「え?!なんでスミレがいるの?!」


いつもなら、ロゼ、アリス、ミミと一緒に見送っているはずなのに、今日はなぜかついて来ていた。


このことで、僕がさっきまで考えていたこと全て、吹き飛んだ。


「シン様、急に大声を出さないでください」


僕の横にいたリリーがそう言ってきた。リリーと同じように横にいるはずのルナからは何も言われなかった。


「お兄様、どうかしましたか?」


「シン様、私が何かしてしまいましたか?」


「いやいや、逆に何でそんなに冷静なんだよ?!何でスミレがついて来てるんだよ!?おかしいだろ!?」


いきなりのことで冷静に考える余裕がなく、語調が強くなってしまった。


そのことで、少しスミレが縮こまってしまった。ただスミレをフォローする余裕はこのときはなかった。


「むしろなんで、お兄様はそう思うんですか?」


「なんでって、今まではついて来なかっただろ?なんで今日だけついて来るんだよ」


「お兄様こそ、おかしいじゃないですか」


「え?」


僕はその妙に冷静なアイリの対応に、少しだけ状況が見えるようになった。まわりを確認すると僕だけが、この状況を飲み込めていないようだった。ルナはどうでも良いのか、僕の近くにはいるが、聞いているようには見えなかった。


でも、そんないつも通りのルナを見てこんなに慌てていること僕が変なのかと思い、冷静になることができた。


「お兄様、今日がいつかわかりますか?」


「へ?」


僕はその質問の意図がわからなかった。それにいきなりの質問だったので、すぐに答えることはできなかった。


「はあ、今日から新学期ですよね?」


「ああ、たしかにそうだな」


質問で何を聞きたかったかはわかったが、やっぱり質問の意図はわからなかった。


「だから、今日からスミレも一緒に行くんでしょ!」


おそらく言いたいことは全て言ったっぽいが、それでもイマイチ理解することができなかった。むしろわからなくなってしまった。


「ん?なんで新学期だとスミレも一緒に行くことになるんだ?」


「なんでってスミレが今年で10歳だからよ!」


アイリもいい加減答えることが嫌になってきたのか、語調が強くなってきた。


「なるほど——って、は、えぇぇぇ!?10歳?!」


スミレの年齢は知らなかったが、僕より年下ということが驚きだった。スミレは僕より身長が少しだけ高かったので、年上だと思っていた。学園にも僕たちを見送った後来ているのか、行っていないのかだと思っていた。


そのため、スミレが僕より年下ということが受け止められず、しばらくの間混乱していた。


僕の慌てっぷりを見ていたリリーは「何を当たり前のことを」と呆れていた。


一方、ルナはいつもと変わらなかったので、そのことを知っていた思う。まあ、興味がないから、どうでも良いと考えているかもしれないけど。


そういうことで、僕だけがそのことを知らなかったようだった。

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