第55話 2年生

僕はどこか腑に落ちない状態で学園へと来ていた。僕はまだスミレが今年で10歳ということに納得していなかった。


スミレとは教室が違うので、すでに別れ、ここにはいない。


「シン君、大丈夫?」


「ん?ああ、大丈夫、だよ」


僕は納得いってないことを顔に出してはいなかったが、ルナには僕が普段とは違うように見えたのか、そう声をかけてくれた。明らかに心ここにあらずといった浮ついた状態だったが、心配はかけたくなかったので、そう答えた。


ただ、その一言で僕の意識は現実へと引き戻された。改めてSクラスということを考えたら、嫌なことを思い出してしまった。


今まではスミレのことがあり、忘れていたが、家を出る前に考えていたことを思い出したら、また不安になってきてしまった。


とはいえ、もう学園まで来てしまったので、引き返すことはできない。いい加減覚悟を決めて行くべきなのだが、教室に着くまではなんとか穏便に目立たないような方法がないか考えておきたいのだ。何もないなら、それで良いのだ。何かあった時が嫌だから、何でも良いからやっておきたいのだ。そうすれば、気持ちに余裕を持てるはずだから。


今の僕はそんな余裕なんてないけどね。


最悪の場合を考えると、おそらくSクラスの人全員から敵対されていると思われる。最善の場合は、何もなく、ただ歓迎されるだけで終わると思う。


そのため、敵対されていたとき、どうすれば良いかを考えおくべきなのだ。


でもそうなってたら無理じゃね?


全員敵対しているとか、どう目立たないようにすれば、良いんだ?むしろルナとリリーの方を考えた方が良い気がしてきた。


もし敵対してれば、ルナとリリーが何をしでかすかわからない。特にルナが何をするかわからない。


そっちの方を止めた方が良いのか?


と、違う心配まで出てきて、僕だけの考えではどうすることもできないことがわかった。


「着きましたよ」


僕たちを先導していたアイリが、目的の教室に着き、そう声をかけてきた。


結局、答えが出ないまま教室に着いてしまった。


「ちょっとだけ待って」


僕は最後の悪あがきをしたくて、アイリに時間を求めた。


「ここまで来て何を言ってるんですか。そんなこと言ってないで行きますよ」


ただアイリは僕の言葉を無視してドアを開けた。ルナとリリーはアイリの後をついて行くように歩き出した。その2人に挟まれている僕はそのまま教室に連れて行かれた。


教室は、僕たちが今までいたところと構造は同じだった。


教室にいた何人かが僕たちに気づき近づいてきた。


僕は何かされると思い、身構えた。


僕たちの目の前まで来ると、立ち止まった。


「「おはようっ」」


と、僕の予想とは違い、挨拶をされてしまった。


「へ?」


僕は、すぐに挨拶を返せず、変な声が出てしまった。


「「おはよう」」


アイリとルナは自然にそう挨拶を返していた。


「「おはようございます」」


それをみて僕とリリーが遅れて挨拶を返した。

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