第32話「発進ダムナティオ」
時は少し遡りコケティッシュシスターズの二人がまだ装置の中で特訓している時のことだ。
キラーレディ「………外で動きがあったようです。こちらのモニターに映像とデータをまわします。」
ちみ改太「ああ。頼む。」
そこに映し出されたのは内側の結界に取り付き攻撃を続けていた合体した拠点群がついに結界を破り中にいたクポがその拠点群へと取り込まれて変形していく姿だった。
合体した拠点群とクポの姿はまるで巨大な二足歩行型ロボットのようだった。
ちみ改太「ちっ…。予想以上のパワーアップだな。結界を破られる時間に影響はないけどあれと戦う二人は苦戦するかもしれないな。」
その内蔵するエネルギー量やこちらが捉えている範囲内だけでも装備している武装はかなりのものだった。それにまだ表面からはわからない武装や奥の手がある可能性もある。
今初めて特訓しているような魔法科学に慣れていない二人じゃこれの相手は辛いだろう。何より俺の奥の手であるあれはまだ完成していない。
こんなものを使う時なんていつあるのかと思ってゆっくりしか開発していなかった。まさか本当に侵略者がやってくるとは思いもしなかったからな………。
もっと早くちゃんと開発しておけばよかったという後悔の念が沸いてくるが今はそんなことを言ってる場合じゃない。
俺が乗り込み設計通りの性能がきちんと出ればこの程度の相手は敵じゃないはずだったのに………。現時点での開発状況と魔法科学に不慣れな二人が乗り込むことを考えればとても楽観はしていられない状況になってしまった。
ちみ改太「くそっ!こんな大事な時にこんな様とはな………。」
俺は何のためにコンクエスタムを作ってこんな準備をしてきたんだ?ようやく役に立てるその時に俺が一番役に立てなくてどうするんだ………。
スクイッドエスタム「改太君…。今ボク達コンクエスタムがあるのもあの敵に対抗する手段があるのも全て改太君のお陰だよ………。でもね。何でも全て改太君が背負い込むことはないだ。今まで散々改太君に頼ってきたボク達が言うことじゃないんだけど改太君にただ頼るだけじゃ駄目なんだよ。」
ちみ改太「悠…。いや、スクイッドエスタム………。ありがとう。」
スクイッドエスタムの言葉で少しは気が楽になった。そうだ。人にはそれぞれ得手不得手がある。一人で全てのことをする必要なんてないんだ。
仲間がそれぞれ自分のするべきことをすればいい。俺一人で何もかもを背負って守ろうとすれば失敗するだろう。だからこそ俺は信頼できる仲間達を集めていたんじゃないか。今更そんな当たり前のことを思い出さされるとはな………。
ちみ改太「でもスクイッドエスタム。」
スクイッドエスタム「うん?」
俺に呼ばれて不思議そうな顔をしている。まぁ烏賊の着ぐるみだから表情はわからないんだけど…。雰囲気の問題だ。
ちみ改太「お前スーツ着てるのに悠の状態になってるな?」
スクイッドエスタム「え…?あっ!いや…、これは…、その…。」
スクイッドエスタムは俺の言葉であたふたしだした。
スクイッドエスタム「ああ!そうそう。着ぐるみが壊れかけてるからだよ!」
別にそんなことを言い訳しなくてもいいのにスクイッドエスタムは必死になって言い訳していたのだった。
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コケティッシュシスターズの二人が大浴場に入ろうとして迷子になるというアクシデントはあったものの決戦で主要な役目のある者達は皆カプセルで休憩に入ったようだ。
今は整備班だけが忙しく動き回っている。俺は自分の体が横たえられているベッドの上で浮かんでいた。
あまりにもどかしい…。俺はこの姿では何も出来ない。皆が大変な思いをしているのがわかるのにただ見ていることしか出来ない自分が許せない。こんなことならいっそ意識不明のまま何も知らないほうがずっと楽だっただろう。
こうして一人でいるとネガティブな思考に流されていく。どうせここに居ても研究も何も出来ない。パソコンすら触れないんだから脳内で思考する以外に出来ることはない。
気分転換にハンガーへと向かった俺は整備班の仕事を眺める。
懸命の作業を行っている整備班には失礼かもしれないけど皆が必死に作業をしている姿を見ると落ち着いてくる。
別に俺の性格が悪くて忙しそうな奴を眺めて喜んでるってわけじゃない。俺は昔から爺ちゃんの研究や作業を見てきたからこういう場が落ち着くんだ。
気持ちが落ち着いてきた俺はその作業を眺めながらまた一人で思考に没頭していった。
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クポが結界を破るまであと三十分。そして作戦開始二十分前。主要な者達は作戦指揮所に集まっていた。
ちみ改太「ミーティングを行う。」
聖香・静流「「うん…。」」
キラーレディ「敵のデータを出します。」
キラーレディがスクリーンに敵のデータを出してくれた。拠点と合体したクポは今もまだ外側の結界を破ろうと暴れている。
武装にもよるけどこの二足歩行型ロボット形態のクポなら地球の陸地全てを一時間以内に焼き払えるだろう。もちろん地表部分だけを焼き払えばいいだけならば地球人類の持つ全ての核兵器を使えば何度でも焼き払えるだけの火力があると言われている。
だけどそれは地球上に存在する最大の火力の兵器を全て投入してようやく出来るというだけのことにすぎない。
俺の予想ではクポはただの威力偵察部隊だ。もしその予想が正しいとすればたかが一威力偵察部隊が単機で地球を滅ぼせるだけの力を持っているということになる。
宇宙を越えてやってきた異星人か次元を越えてやってきた異次元人かは知らないがそれだけでも地球の技術力よりも遥かに優れた技術を持っていることがわかる。
万が一にも俺達が負けるようなことがあれば地球の戦力ではまるで歯が立たないだろう。地球の平和を守るためなんて綺麗事を言うつもりはない。
俺は麗さんも聖香も静流も悠もコンクエスタムの皆も学院の皆もこの町の人達も皆好きだ。
ちみ改太「俺は大好きな人達を守りたい…。大好きなこの町を守りたい…。だから絶対に勝つ!」
聖香「………うん。」
静流「はい。」
全員が俺の呟きに頷いて応えてくれた。
ちみ改太「よし…。それじゃ作戦会議だ。」
気合を入れた俺達はクポを倒すための最後の打ち合わせに入ったのだった。
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聖香と静流はそれぞれ自分の乗るマキナへと乗り込んだ。
聖香「………九条君。この服は何とかならないの?」
静流「恥ずかしいです………。」
今の二人の姿はいつものコケティッシュシスターズの衣装じゃない。俺の特製マキナに乗り込むために専用スーツを着ている。
ちみ改太「贅沢言うなよ。それしか間に合わなかったんだ。」
元々俺専用機として開発していて途中からパイロットの負担軽減と操作性向上のためにスクイッドエスタムと二人で乗り込むことになったために俺とスクイッドエスタム用のスーツしか用意されていなかった。
たった十時間少々の間になんとか聖香と静流用のスーツを用意してくれた開発班にお礼こそ言えど文句を言うのは筋違いだ。
聖香「でも………。」
聖香は自らの体を抱くようにして体を隠そうとした。
静流「こんな服である必要はあるのですか?」
静流は余裕があるようだな。
二人が着ているスーツ………。それは薄いハイレグレオタードのようなものにニーハイソックス。手には手甲のようなものをつけて頭にはうさ耳のようなものを被っている。
ちみ改太「別に俺が二人のえっちぃ姿が見たいからそんなスーツにしたわけじゃないからな。それぞれきちんと意味のある装備だ。」
体を覆っているレオタードやニーハイはパイロットの保護と機体とのリンクの補助機能がある。手甲部分は機体と接続するためのものでこれで機体を自由自在に操作するものだから必須だ。
そして頭の上にあるうさ耳のような物はパイロットの生体情報を調べこちらに送るのと機体とパイロットの脳波をシンクロさせる機能もある。
全て機能がついているものであってただのレオタードではない。
聖香「それはそうかもしれないけど………。こんなレオタードタイプやうさ耳の形じゃなくてもよかったんじゃないの?」
ちみ改太「そんなことはない。全身を覆うスーツはパイロットの機動性を損なわず動きやすく蒸れにくいように出来ている。手甲や頭のパーツには魔法科学によって作り出された装置が詰め込まれていてそれ以上小さくするのは現状では不可能なんだ。」
静流「それだけが理由でしょうか?九条君はこういうのはお嫌いですか?」
静流は両腕を胸の横に持ってきてぐっと寄せる。静流の巨乳が寄せられてさらに強調されて………。
ちみ改太「ぶっ!」
俺の鼻から血が噴出した。そうだ。一言で言えば鼻血だ。
ちみ改太「ええぇぇ?!今の俺って精神体みたいなもんなのに鼻血とか出るの?!」
静流「ふふふっ。気に入っていただけたようですね?」
静流が悪戯っぽく笑う。うん。可愛いよ。それにその体もえっちぃよ。性格さえもう少し何とかなってくれたら俺のドストライクかもしれない………。
聖香「ちょっと静流!そういうのは卑怯よ!そんなのは無し!」
静流「あら?どうしてですか?私の魅力をアピールしているだけですよ?自分の体を使ってどこが卑怯なのでしょうか?」
聖香・麗「「ぐぬぬっ!」」
なぜか作戦指揮所でオペレーターをしている麗さんも聖香と一緒になって歯噛みしている………。
聖香「でっ、でもいいのかしら?大勢の男の人が見ている前で体を見せるなんてどうなの?」
聖香は思いつく限りの精一杯の反撃を試みる。
静流「そっ、それは………。」
………どうやら思いのほか静流に大ダメージを与えたようだ。でも別に体は見せてないと思うぞ。ただ腕で胸を寄せてポーズをとっただけだ。グラビアアイドルなんかはしょっちゅうしているポーズだからいちいちそんなことを気にしていたら生活出来ないだろう。
スクイッドエスタム「そんなことはいいからさっさと出撃準備をしろ。間に合わなくなったらどうするつもりだ?」
着ぐるみが修理されたことでいつもの性格に変わっているスクイッドエスタムが二人を注意する。
聖香「はい…。」
静流「ごめんなさい。」
麗「それでは発進準備を開始いたします。」
麗さんがコンソールを操作して準備が始まる。いよいよ俺の奥の手が日の目を見ることになった。
ちみ改太「マキナ発進準備開始!」
九条製薬の隣にある俺がいつも出入りしているマンションが横にスライドする。その下にはまるで発射台のようなものがありスライドしたマンションの側面からも発射台の続きのレールが出てくる。
マンションの下にあった発射台のレールとマンションの側面に現れたレールが繋がり天高くまでレールが延びる。
麗「システムオールグリーン。発進準備完了いたしました。」
ちみ改太「聖香。静流。覚悟はいいか?」
聖香・静流「「はいっ!」」
ちみ改太「………。地球の未来は二人の肩にかかってる。でも無茶しないでくれ。絶対生きて帰ってこい!マキナ発進!」
聖香「マキナ・ウーヌム発進!」
静流「マキナ・ドゥオ発進!」
俺の奥の手のマキナが発進していく。例え負けても生きてさえいればまたチャンスはある。だから…、だから死なないでくれ二人共。
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発射口から二機のマキナが飛び出す。先に飛び出したのはマキナ・ウーヌム。その機影は無尾翼の全翼機でありまるで某国の戦略爆撃機のような姿をしている。
その後から飛び出したのがマキナ・ドゥオ。ずんぐりとした太い胴体にダブルデルタ翼がついたまるでスペースシャトルのような姿をしている。
麗「両機の発進を確認。」
ちみ改太「よし!合体だ!」
聖香・静流「「了解!」」
空高くへと飛び上がった両機が変形する。
マキナ・ウーヌムは中央部分から二つに割れるように開き左右に分かれた翼は縦に真っ直ぐになり腕のような形へと変形した。
その開いた真ん中にマキナ・ドゥオが滑り込み合体する。真ん中に嵌ったマキナ・ドゥオの噴射口のあった後ろ側が左右に分かれそれぞれ足のような形へと変形していく。
マキナ・ウーヌムの真ん中を突き抜けて上へと飛び出していたマキナ・ドゥオの先端部分が開くと中からまるで頭部のようなものが現れる。
聖香と静流が乗っていたコックピットは機体の内部を移動して左右の胸にそれぞれ収納された。
聖香・静流「「デウス・エクス・マキナ『ダムナティオ』降臨!!!」」
麗「システムオールグリーン。合体完了いたしました。」
ちみ改太「おおっ!」
そこに現れたのは黒を基調としたカラーリングを施された巨大な二足歩行型ロボットだった。
これこそが俺の奥の手。機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)『ダムナティオ』だ。二機のマキナが合体し二足歩行型の巨大ロボットに変形する。
よく現実には人型ロボットにするメリットがないだとか実現が困難だとかロマンのないことを言う奴も多いがそんなことは知ったことじゃない。
これはあくまで俺の趣味の結晶だ!そして魔法科学ならば現代科学では不可能なことが出来る。重力制御、慣性制御、空気抵抗無視など様々な技術によってこの巨大なデウスエクスマキナは大気圏内においても何の制約も受けずに自由自在に動くことが出来る。
ダムナティオはクポを捕えている結界の前に降り立つ。
ちみ改太「よしっ!結界システム発動!」
麗「結界システム発動いたします。」
俺の指揮を合図に秘密基地の機能の一つが働きこの町全体に結界が張られる。俺達はこれまでも結界を張っていたが今張った結界はまた意味の違うものだ。
これまで俺達は二種類の結界を張っていた。一つ目はもちろんクポを捕えていた二重の結界だ。これは中のものを隔離する結界であり外からも普通に中が見える。
そしてもう一つ張っていたのがこの町全体を外部から見えなくする結界だ。町の人達は全て外に避難させている。生体反応を見て確かめているので確実に誰も残っていない。その上でこの遮断の結界を張ったので今この町に残っている俺達以外にはこの中での出来事はまるで見えなくなっている。
目視も監視衛星も望遠カメラもどんな方法をもってしてもこの結界の中の情報を見ることは出来ない。俺達の存在と技術力を秘匿することが出来る。
ここで敵に、そしてもちろん地球人類にも俺達の力と技術を見せるわけにはいかない。情報とは生死を分ける最重要な要素だ。ここで安易に敵に俺達の情報を持ち帰らせるわけにはいかない。
そして今発動させたのは簡単に言えばクポを捕えていた結界の強化版だ。ダムナティオと拠点と合体したクポが地球の大気圏内で戦えば人類が滅んでしまう。
本来はこの町と秘密基地を守るための結界として配備してあったものだけどこれを逆向きに使うことでダムナティオとクポの戦いの衝撃を結界の外に出さないようにしている。
俺達に出来ることは全てやった。後はこの戦いの結果を見届けるだけだ。
聖香「地球の平和を守るため!」
静流「愛する彼を守るため!」
聖香「人の造りし神に乗り!」
静流「平和を乱す悪を断つ!」
聖香・静流「「デウス・エクス・マキナ『ダムナティオ』が成敗します!!!」」
ダムナティオが今まさに結界を破らんとしているクポを指差し叫ぶ。
クポ「クゥポォーーー!!!」
クポはダムナティオを見据えて雄たけびを上げる。ダムナティオに乗っているのが聖香と静流だとわからないのか。それとももうすでにクポは狂っていて正常に判断するだけの知能も残っていないのかただダムナティオに向かって吠え続けるだけだった。
ついに結界を破ったクポはダムナティオの前に立つ。地球をかけたクポとの最後の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
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