第31話「穏やかな一時」
コケティッシュシスターズの二人を休ませるために部屋へと案内してから俺はスクイッドエスタムと一緒に更衣室にいた。
ちみ改太「スクイッドエスタム。お前がそんなにボロボロになってるなんて………。苦労をかけたみたいだな。」
スクイッドエスタム「ううん。………ボクもあの時は頭が真っ白になって冷静な判断が出来てなかったから。本当ならこんなに壊す必要なかったのに壊しちゃってごめんね。」
悠は着ぐるみを脱ごうとしながらそんなことを言った。
ちみ改太「ばっか!着ぐるみなんて壊してもいいんだよ!お前が無事ならそれでいいんだ。」
悠「………改太君。」
スクイッドエスタムの着ぐるみの背中を開いて頭だけ出している悠が赤い顔でウルウルしながら俺を見つめる。………なんだこれ。可愛いじゃないか………。
いやいやいや!待て待て!落ち着け俺!悠は男だ。悠は男だ。大事なことだから二回言った。
その時更衣室の扉が開いた。そこに居たのは………。
聖香「九条君何してるの!」
静流「そんな体になったからって女の子の着替えを堂々と覗くなんて!」
聖香と静流は悠を庇うように俺と悠の間に立ち俺を威圧するのだった………。
ちみ改太「………あのな。悠は男だぞ………。ここ男子更衣室だし………。」
聖香・静流「「………え?」」
二人は間の抜けた声を出して呆然としている。そりゃそうだ。俺だって悠が男だって言われても信じられないくらいだ。目の前にいるし何度も裸を見たことがあるのにな。それでも信じられないくらいなんだから二人が信じられないのもわかる。
何しろ聖香や静流や麗さんより可愛いくらいなんだから………。もちろん見た目は四人とも同じくらい可愛い。いや、男が美女や美少女と同レベルってだけでも異常事態なんだけど…。とにかく見た目は四人とも大差はなくて好みの違いくらいしかない。
だけど中身は悠が一番可愛い………。男なのに………。いや、男だからこそなのか?他の三人は何か少し女の怖さのようなものがある時があるけど悠は着ぐるみを脱いでいるとなよなよしててつい守ってあげたくなってしまう。
ちみ改太「着ぐるみを脱いでいる時の悠は可愛いけど正真正銘男だからな。」
悠「改太君…。可愛いだなんて………。」
悠はますます頬を赤く染めてクネクネしながら照れている。いや、可愛いけどね…。可愛いけど男が可愛いとか言われて照れるんじゃねぇよ!そして俺の心を弄ぶな!お前にドキドキしてしまう俺の純情を返せ!
聖香「男………。私より可愛いのに男………。私は男以下………。烏賊男だけに男以下?はははっ。」
聖香は虚ろな表情でぶつぶつ呟きながら乾いた笑いを上げている………。ちょっと怖い…。
静流「九条君はこういう方が好みなのですか………。私も手術であれをつければ九条君と………。」
待て静流!何かおかしなことを口走ってるぞ!俺は別に男色の気はない!ただちょっと悠ならいいかなって………違う!思ってない!そんなことは断じて思ったことはないぞ!たぶん………。
その後暫くの間は更衣室はカオスと化していたのだった。
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ようやく皆落ち着いてきたようなので話を進める。
ちみ改太「何で二人はこんなところに?休むように言っただろう?休むことも仕事のうちだぞ。」
聖香「えっと…。ごめんなさい。ただ少し気が昂ぶって眠れそうになかったからちょっとお風呂に入ろうと思ったの。」
静流「聖香がこっちだって言うのでついてきたんです…。」
ちみ改太「いやいやいや!お風呂って。休憩室にも備え付けてあったでしょ?キラーレディが案内した時に説明してくれたんじゃないの?」
聖香「ええ。確かに聞いたんだけど…。」
静流「何でも大浴場というものもあるそうで聖香がそちらに入りたいと…。」
なるほど…。確かにこっちの先に大浴場がある。そつなく仕事をこなすキラーレディのことだから秘密基地で教えても大丈夫な施設案内まで全てしたのだろう。
だけどこの秘密基地は初めて来た者には広すぎる。いきなりあれこれ全ての施設を説明されても覚えきれるものでも理解できるものでもない。
キラーレディは完璧に仕事をこなしただけだ。聖香は説明で聞いた利用しても良い施設を利用しようと思っただけだ。ただ広すぎて初めて入った者では道案内がいなければ迷うだろうという考えが足りなかっただけのこと………。
そしてそれは一発で全て完璧に覚えてこなしてしまうキラーレディにはわからず、この基地の広さを知らず侮った聖香もキラーレディが簡単に説明するのでそう難しくないだろうと思ってしまったのだろう。
誰も悪くはない。ただ二人は迷子になり道に迷うという不幸な結果が待っていただけだ………。
ちみ改太「まぁ俺達がいる部屋に辿り着いてよかったな。下手したら迷子になったままタイムオーバーで全滅だったかもしれないぞ………。」
その気になればすぐに二人を探し出すくらい簡単ではあるけど一応軽く脅す意味も込めてそう言っておいた。
聖香「お婆ちゃんになるまでこんなところで迷子になってたら………。」
聖香はあり得ないような馬鹿なことを本気で心配しながらぶるぶると身震いしていた。
静流「それより私はそちらの方のことが気になるのですけれど?」
静流は迷子になったことについてはあまり気にしていないようだ。聖香の心配の仕方も馬鹿げてはいるがあまりにあっけらかんとしている静流もこれはこれでどうかと思う。
悠「………ボク?」
静流「はい。九条君とはどういったご関係でしょうか?」
静流は怖い笑顔で悠に詰め寄っていた。何だろう………。ほんと静流はちょっと怖い。見た目があんなに可愛くて俺好みのグラマラスな体型をしているのに本当に惜しい………。
悠「ボクは改太君に命を救われてから改太君のために尽くしているだけだよ。ボクの生き甲斐は改太君の役に立つこと。ただそれだけなんだ。」
悠は赤い顔をしてチラチラ俺の方を見ながらそんなことを言う。まるで愛の告白でもされている気分だ………。でも悠は男だから!そっちの道へ行っちゃらめぇ~!!!
静流「なるほど………。それで九条君はこの方のことをどう思っておいでなのでしょうか?」
悠の話を聞いて頷いている静流の矛先が俺に向く。怖い………。
ちみ改太「気心の知れた相手で同世代でほぼ唯一と言っても過言ではない友人………かな。」
悠「唯一の友人…。唯一の………。」
チラリと悠の方を見てみるとうっとりとした顔で俺の言った言葉を反芻していた。まるで夢見る乙女みたいな感じだ。
静流「つまり私達は九条君のお友達ではないと?」
静流が悲しそうな表情をして顔を伏せる。
ちみ改太「いやいやいや!違うよ!そういう意味じゃないよ!ただ同性の友達と異性では違うから!それに聖香も静流ももう友達っていうか女の子として意識しすぎて普通の友達とは思えなくなってるっていうか!………あっ。何言ってんだ俺。」
俺は混乱して本音までボロボロとこぼしてしまった。恥ずかしいことまで言ってしまった俺は空中で失意体前屈をする………。
静流「まぁ…。女の子として見てもらえていたのですね。」
静流は頬を赤くして両手を頬にあててクネクネしだした。
聖香「えっ!私も?私は静流やこの人みたいに女の子っぽくないのに?!」
聖香も赤い顔をして驚いている。っていうかこの人みたいって悠は男だって言ってるだろ!
悠「………やっぱりボクじゃ駄目なのかな。」
悠は悲しそうな顔でウルウルしだした。………やばい。俺が生身だったら肩を抱いてたかもしれない。それくらい可愛い。けど悠は男だって言ってるだろ!そういうのやめろ!お前はそっちの気があるかもしれないけど俺はノーマルなんだよ!そっちへ引き摺りこもうとするな!
ちみ改太「………とにかく大浴場に案内するからさっさと移動して休もう。」
俺の提案で皆動き出したのだった。
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俺の案内で聖香と静流を大浴場へと連れて行く。
ちみ改太「ここが大浴場だ。帰りもまた迷うだろうから俺がここで待ってるから聖香と静流は入ってこいよ。悠は作戦開始まで休んでおけ。」
悠「………絶対だめ。」
悠はむくれた顔をしてそう言った。
ちみ改太「何が?何で?」
俺は悠がなぜ反対しているのかわからない。俺は意識だけだから肉体的に疲れることもないし物理的に干渉できないからクポとの決戦では直接戦うことはできない。
だから悠は休んで俺が二人の入浴が終わるのを待って部屋まで案内するのがベストだ。それを反対するだけの理由が何かあるだろうか?
悠「………だって改太君。その姿なのをいいことに女湯を覗くんでしょう?」
悠は悲しそうに目を伏せる。
ちみ改太「………ってちょっと待て!お前俺のことどんな奴だと思ってるわけ?壁とかすり抜けられるから覗きとか余裕だなって確かにちょっとは考えたけどそんなことしねぇよ!」
聖香「ふぅん?考えたんだ?」
静流「九条君がそんな人だったなんて………。」
三人にジト目で睨まれる…。何で?覗きなんてしないって言ったのに何でこんなに俺が悪いみたいな空気なの?
ちみ改太「一つだけ言っておく。俺は覗きとかはしないからな。見たかったら堂々と乗り込む。覗きなんて姑息な手段は使わない。」
だから俺は胸を張って堂々と宣言した。
三人「「「………。」」」
それなのに三人は呆れた顔で俺を見つめるだけだった。何で?何かおかしいか?
キラーレディ「流石改太様でございます。」
その時廊下の向こうからキラーレディがやってきた。
ちみ改太「キラーレディもまだ休んでなかったのか?決戦が始まったらキラーレディのサポートが重要になる。きちんと休まないと駄目だぞ?」
キラーレディ「はい。ですがそちらの二人が迷子とあっては探さないわけにもいきませんので…。」
なるほど………。確かに俺がキラーレディにこの二人を任せたのだ。キラーレディの立場からすれば勝手に二人が部屋から出て行って迷子になったのだから知りませんとは言えない。
キラーレディ「ですので私がその二人と一緒に大浴場に入りましょう。部屋にも案内しますので改太様はお休みください。」
ちみ改太「う~ん………。俺には休憩は必要ないけど…。まぁキラーレディがついてるなら任せようかな。二人も今度は勝手にウロウロしてまた迷子にならないようにな。」
聖香「うっ…。それは…、ごめんなさい。」
静流「次は気をつけますね。」
これで恐らく二人のことは大丈夫だろう。何度も同じ失敗をするほど二人も馬鹿じゃない。………ただ違う失敗は何度もしているから馬鹿っぽく見えるだけだ。
女性三人組のことは向こうに任せて俺は悠と一緒に女性用大浴場の前から移動したのだった。
~~~~~コケティッシュシスターズ~~~~~
聖香と静流はキラーレディと一緒に大浴場に入ることになった。三人は脱衣所で並んで服を脱ぐ。
聖香「私の方があるわね………。」
聖香はキラーレディの方を見ながらぼそりと呟いた。
キラーレディ「………一体何のことでしょうか?」
キラーレディも本当は気付いている。聖香の視線はキラーレディの胸に注がれていたから………。
キラーレディのスタイルは非常に良い。ただしそれは線が細いということであってグラマラスではない。聖香も同じタイプではあるがバストサイズは聖香の方が上であった。
静流「ふっ………。」
そんな二人のレベルの低い争いを鼻で笑う者がいた。静流はその巨大な塊を惜し気もなく見せつけながら余裕の笑みを浮かべている。
キラーレディ「今の『ふっ』と言うのは一体どういう意味でしょうか?」
聖香「………そうね。そこのところを説明してもらいたいわ。」
静流の余裕を受けてひんにゅ………、慎ましい胸の二人はアイコンタクトで共闘することを決めて静流に抗議する。
静流「ご存知ですか?九条君は大きな胸が好きなのですよ。ふふふっ。」
キラーレディ「ぐっ!」
聖香「そんな気はしてたけどやっぱりそうなんだ………。」
キラーレディは長年改太と一緒にいるので改太が巨乳好きというのはよく知っていることだった。聖香も改太がチラチラと静流の胸をよく見ていることに気付いていた。そこからもしかして改太は巨乳好きなのだろうかとは考えていたのだ。
静流「お二人よりも私の方が一歩リードしているようですね。ふふふっ。」
聖香「………そういうところが怖いって九条君も言ってたじゃない。いくら見た目や体が好みでも内面が受け付けられないならそういう関係にはなれないんじゃないかな?」
聖香は思いつく限りの精一杯の反撃を試みた。
静流「そっ、それは………。そうでしたか…。こういうところが怖いと言っておられたのですね…。」
よろよろとよろめいた静流は衝撃を受けたようだった。聖香の思いつきの反論は思いのほか静流にダメージを与えていた。
麗「………それはもういいでしょう。早くお風呂に入って休みましょう。」
キラーレディはスーツと仮面を脱ぎ麗へと戻って二人を急かした。胸のことでこれ以上話しても自分が一番ダメージがあると判断してのことだった。
聖香「やっぱり………。九条君がデスフラッシュ大佐だってわかった時からそうじゃないかとは思ってたけど…。」
静流「ですね。やはり貴女でしたか。三条麗さん。」
初めてキラーレディの中身を認識した二人は麗を見てそう応えた。
麗「ただの知り合いのお姉さんではなく改太様の秘書をしております。」
聖香「………それじゃ昔からの知り合いっていうのは嘘?」
麗「いえ。あの時お話したことも全て本当のことです。ただ私が改太様の秘書であるということは伏せていただけのこと。」
静流「………ずるいです。九条君とそんなに長い時を一緒に過ごしてこられてその上秘書までなさっているなんて………。」
麗「ふふっ。それでは今度改太様の幼い頃の写真などでも見ながら昔の話をして差し上げましょうか?」
麗は優越感と挑発のつもりもあってそう言ったのだが二人の反応は思ったものとは違っていた。
聖香「九条君の子供の頃の写真?!見たい見たい!この戦いが終わったら是非見せてください!」
聖香は勢い込んで麗に迫った。その反応に麗の方が面食らいカクカクと首を縦に振るしか出来なかった。
静流「九条君の子供の頃………。さぞ…、さぞ可愛かったのでしょうねぇ………。」
静流は静流で一人うっとりした表情でどこか遠くの世界へとトリップしていたのだった。
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何とか現実へと帰還した三人はようやく大浴場へと入って行った。
聖香「すごーい!広ーい!」
そこはスーパー銭湯や温泉のように入浴のサービスを生業としているような施設を超えるかと思えるほど広く豪華な浴場だった。
静流「我が家のお風呂よりも広いですね………。」
静流の家も大豪邸なのでお風呂場も普通の家のそれとは規模の違うものが備え付けられてはいたがそれでもここの広さと豪華さには驚かされるばかりだった。
麗「当然です。ここの設計は私が改太様に事細かに注文をつけたのですから!」
自分が考えた大浴場の評判がよかったので麗は良い気分になって薄い………、慎ましい胸を逸らしてふんぞり返っていた。
掛け湯をしてから湯船に浸かる。ある一人の胸だけが湯船にプカプカと浮いていた。
聖香「………いつも思うけどどうなってるのよそれ。」
何度か静流と一緒にお風呂に入ったことのある聖香は湯船に浮かぶ静流の巨乳を見ながら呟いた。
麗「そっ、そんなものただの脂肪の塊です!動き難いだけです!」
湯船に浮かぶ巨乳を初めてみた麗は錯乱して自爆する言葉を吐き続けていた。二人は静流の巨乳に釘付けになりながらも三人はこの豪華で広い大浴場を堪能したのだった。
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大浴場から出た二人はキラーレディに道案内されて最初に案内された休憩室へと戻ってきていた。
キラーレディ「改太様も言っておられた通り休むことも仕事です。この後の決戦を万全の状態で迎えられるようにしっかり休んでおきなさい。」
聖香「………そうね。これ以上は九条君に迷惑をかけられないもんね。」
静流「ご心配には及びません。ベストの状態で向かいます。」
二人の言葉を聞いてキラーレディは満足気に頷くと休憩室を後にした。キラーレディも自分に与えられているプライベートスペースで休むのだった。
聖香「今度こそちゃんとしないとね………。」
静流「そうですね…。私達のことを庇ってくださった九条君のためにも………。」
二人はお互いに声をかけて頷きあい休憩室のカプセルに入って横になった。
このカプセルは短時間の休憩でも最大限に回復出来るように魔法科学によって作られている。脳も体も強制的にぐっすりと休むことで途中で起きるのが難しい代わりにその時間の間はしっかり休めるのだ。
二人は休憩時間のタイマーを集合時間の少し前である二時間後にセットして装置に誘われ深い眠りへと落ちていったのだった。
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