第27話「狂いだす計画」


 強襲部隊は時空震によって空間を繋げてクポの本拠地へと乗り込んでいた。


ウツボカズラン「まず基本的には敵に見つからずにこっそり奪取することを目指すっすよ。」


スコーピオンエスタム「お前に言われなくても会議で聞いてる。」


ウツボカズラン「ちょっと待つっすよ。その態度はいただけないっす。作戦行動中は上官の命令に絶対服従っす。」


 ウツボカズランは他の隊員達を振り返ってからさらに言い募る。


ウツボカズラン「普段俺のことを馬鹿だと思っててもいいっす。でも今だけは何があっても俺の指示に従ってもらうっす。そして作戦実行時にはきちんと全員で確認を行う。こんなもの当然っすよね?」


 ウツボカズランの言ってることは正しい。だから誰も反論できない。


スコーピオンエスタム「…悪かった。それじゃきちっと行こうか。」


ウツボカズラン「それじゃ戦闘制圧班は俺っちと一緒に行くっすよ。電脳制圧班はスクイッドエスタムさんと一緒に行くっす。それじゃ…ゴーっす!」


 強襲部隊は二手に分かれてクポの本拠地制圧を進めるのだった。



  =======



 スクイッドエスタムのダミーと数体の怪人達はこの拠点のコントロールを奪うべく中枢を目指していた。


スクイッドエスタム『この先は罠がある。慎重に行くぞ。』


チワワエスタム「クゥ~ン。」


 チワワエスタムの声で気が抜けそうになるがなんとか持ち堪えて先へ急ぐ。すでにキラーレディ達観測班のお陰でこの拠点の構造から敵の配置まで全て把握済みであった。


スクイッドエスタム『ここだ…。俺は作業に入る。周囲の警戒は任せるぞ。』


ヒトデンダー「了解。」


 普段は足が二本に腕が左右三本ずつしか露出していないスクイッドエスタムの腕の付け根が開き二本の腕が新たに出てきた。


 その腕を拠点の装置に接続するとスクイッドエスタムの瞳にチカチカと光が流れる。


スクイッドエスタム『正常に接続完了…。第一防壁と接触…。突破。続いて第二防壁と接触………。』


ヒトデンダー「敵の哨戒部隊が接近中。あと三分でこちらまでやってきます。どうしますか?」


 ヒトデンダーの言葉でこの場にいる全員に緊張が走った。


スクイッドエスタム『このまま続行する。………掌握完了まで推定残り時間二分四十一秒。』


 電脳制圧班の隊員達は固唾を呑んで見守る。もし奪取が間に合わず警報を鳴らされたら予定が大きく狂ってしまう。


ヒトデンダー「あと一分で哨戒部隊と接触…。」


 全員が万が一間に合わない場合も想定して備える………。


ヒトデンダー「あと十秒…。五秒…。三…二………。」


スクイッドエスタム『掌握完了。この拠点は現在俺の管理下にある。』


 ぎりぎりでスクイッドエスタムが声を上げた。


ヒトデンダー「………敵哨戒部隊沈黙を確認。ふぅ~………。あまり焦らさないでくださいよ。」


スクイッドエスタム『予定通りだ。』


 相変わらずのスクイッドエスタムの言葉に全員が苦笑いを浮かべる。


 現在この拠点にはメインコンピューターによって制御されている警備ロボットしかいない。所詮は機械でしかないものの眼を誤魔化すのは簡単だ。


 まずクポが発している識別信号と同じものを全員が発している。そのためほとんどのセキュリティは働かずフリーパス状態だった。


 今スクイッドエスタム達がいる中枢部などの重要区画は識別信号を発していても入り込めないようにはなっているがそれをすり抜けるくらいはコンクエスタムの技術力をもってすれば難しいことではなかった。


 ただしいくら侵入自体は出来たとしても哨戒している敵と鉢合わせればすぐに敵の警報が働いてしまう。今まさにギリギリのところでスクイッドエスタムによるメインコンピューターの掌握が間に合わなければ端末とメインコンピューターは遮断されて警備ロボットが押し寄せてくるところであった。


スクイッドエスタム『次の段階に進むぞ。』


 メインコンピューターをスクイッドエスタムが掌握したことにより糸が切れた人形のように動かなくなった警備ロボットを一瞥してからスクイッドエスタムは次の作戦の開始を告げた。



  =======



 この拠点一つにつき約二十体前後のクポと同じタイプの者が活動している。そしてこの拠点と同じものが今いる時空の狭間に十個ある。そのうちの一つを完全に掌握したスクイッドエスタムからウツボカズランへと掌握完了の連絡があった。


ウツボカズラン「スクイッドエスタムさんから掌握完了の連絡が来たっす。それじゃ俺達もやるっすよ。」


スコーピオンエスタム「ああ。いつでもいいぞ。」


 ウツボカズラン達は制圧した拠点の中にある転移装置の前に並んでいる。それぞれ別の拠点へと転移して全ての拠点を制圧するのが目的だった。


ウツボカズラン「それじゃ…いくっすよ!」


 戦闘制圧部隊の隊員達はそれぞれ別々の拠点へと転移していった。



  =======



 ウツボカズランはクポと同じタイプの敵がまだ残っている拠点へと転移していた。一拠点に二十体前後で十拠点あるので約二百体前後のクポ型の敵がいたことになる。


 そのうちほとんどのクポ型の敵は地球上での陽動作戦により出撃していった。今この拠点群の中に残っているクポ型の敵は全部で八体、三拠点にいる。そのうち四体が残っている拠点へとウツボカズランは転移していた。


ウツボカズラン「さ~てっす。敵はどこっすか?」


???「何者クポ?!侵入者クポ!!!」


 ウツボカズランがズカズカと拠点内を歩いているとクポと同じ熊のぬいぐるみに見つかった。しかしウツボカズランに動揺はない。


ウツボカズラン「丁度良いところに来たっす。残りの仲間も呼んだらどうっすか?」


???「クッポッポッ!もういるクポ。お前は袋の鼠クポ。」


 後ろにはウツボカズランを見つけたクポ型が一体。そして今現れたのが前に三体。この拠点に残っているクポ型はこれで全てだ。


ウツボカズラン「あっ…。そうそうっす。そんなに頑張っても警報は働かないっすよ?俺っち達が掌握済みっすからね。」


クポ「クポッ?!」


 ウツボカズランの言葉にクポ型達は動揺を隠せない。自分達が警報を鳴らそうとして鳴らなかったことも出撃して行った仲間への連絡がつかないことも警備ロボットが一体たりともこの場へやってこないことも全て目の前の敵には筒抜けだった。


 何より完全な警備がなされているはずのこの拠点がすでに敵に掌握されているなどクポ型たちには信じられなかった。全てをその超科学に頼っているクポ達にとって目の前のデータこそが全てであるにも関わらず警備は現れず警報は鳴らず仲間にも連絡できないというデータが信じられないという矛盾が生まれていた。


ウツボカズラン「それじゃサクッと退場してもらうっすよ。」


 ウツボカズランが前後に手を向けたかと思うと蔓のようなものが伸びてクポ型たちを絡め取った。クポ型たちを捕まえた蔓はまた手元へと戻ってくる。


 胸元の袋が開いたかと思うとクポ型たちはその中へと飲み込まれてしまった。


???「クポッ!?」


???「クポポッ!!!」


 何か言おうとしていたクポ型たちに構わずその袋が閉じられるともう何の音も気配もなくなっていたのだった。


ウツボカズラン「ご馳走様っす。それじゃ次に行くっすよ。」


 戦闘とも呼べない一方的な捕食のようなことを行った直後とは思えないような能天気な声を発したウツボカズランは次の目的に向かってすぐさま動き出したのだった。



  =======



 スコーピオンエスタムは二体のクポ型と戦闘中だった。


スコーピオンエスタム「ちっ…。」


???「クッポッポッ!たった一人で乗り込んでくるとは命知らずクポ。」


???「違うクポ。この程度の力で乗り込んでくるなんて身の程知らずクポ。お前のその毒は効かないクポ。」


 スコーピオンエスタムの尾てい骨の辺りから生えている尻尾の先に伸びる針を突き刺してもクポ型たちには効果がなかった。


???「地球の生物を殺すための毒じゃ効かないクポ。」


???「観念してお前の背後関係を吐くクポ。」


 二体のクポ型は左右から徐々に迫りスコーピオンエスタムを壁際へと追い詰める。


スコーピオンエスタム「くっ………。」


???「諦めたクポ?」


 スコーピオンエスタムが顔を伏せて震えだしたのでクポ型たちは勝利を確信していた。


スコーピオンエスタム「くっ………、くくくっ…。はははっ。本当に馬鹿が相手だと楽でいい。」


 突然笑い出しそんなことを言い出したスコーピオンエスタムを不審に思いクポ型たちはお互いに顔を見合わせた。


???「恐怖で頭がおかしくなったクポ?」


スコーピオンエスタム「くくくっ。俺の攻撃がただ針で毒を打ち込むだけだと思うのか?」


???「何を言って……クポッ?!クポクポ!!!」


???「クポポッ!!!」


 浮かんでいた二体のクポ型は地面に落ちてもがきだした。


スコーピオンエスタム「お前達を破壊するだけなら何も使わなくてもただ素手で攻撃すれば破壊できたんだよ。それなのになぜ俺が針を使ったと思う?」


???「クポポ………。」


 二体のクポ達はスコーピオンエスタムの言葉に答える余裕はない。いや、すでに話を聞く余裕すらない。ただ無様に痙攣しながらのたうちまわっていた。


スコーピオンエスタム「針から毒が出るのなんてただのカモフラージュにすぎないんだよ。蠍の針からは毒が出るだろうって誰でも考えるだろうからな。針から出る本当の能力はナノマシーンなんだよ。この針からお前達に俺特製のナノマシーンを注入した。なぜこんなことをするのかお前らじゃわからないだろ?それはな。お前達の体を乗っ取って俺の仕事を手伝わせるためだよ。俺の仕事ってのはな………。」


 すでにクポ型たちは聞いていないのにスコーピオンエスタムは一人で延々と話し続けていた。誰も聞いていないなか一人で説明し続けること十分。ようやく満足したのかスコーピオンエスタムは動き始めた。


スコーピオンエスタム「よし。それじゃ行くか。おい、お前達。俺の代わりに作業を進めておけ。」


???「クポッ!」


???「クポポッ!」


 二体のクポ型は敬礼しながらスコーピオンエスタムを見送ったのだった。



  =======



 オクトパスエスタムは一人拠点内を歩いていた。


???「侵入者待つクポ!」


???「逃げ場はないクポ!」


 通路の前後を一体ずつクポ型が塞いでいる。


オクトパスエスタム「笑止…。」


 一瞬ゆらりとオクトパスエスタムの姿が揺らいだかと思うとクポ型たちの頭は急にぼんやりとしだした。


???「クポ?クポポッ!」


???「クポポッ!クポクポッ!」


 するとなぜかクポ型たちはオクトパスエスタムを無視してお互いに殴り合い始めた。


オクトパスエスタム「お前達程度では俺が相手をするまでもない。」


 オクトパスエスタムは二体が戦っている横を通り抜けて暫く進むと二体の戦いの決着がついた。


???「クポォ…。」


???「クポポ…。………なぜ…クポ同士戦って…たクポ……?」


 お互いの腕が相手の体を貫きもはや命の輝きはほとんど失われていた。死ぬ間際の最後の時になってようやく自分達の眼に何かがかかっていることに気付いた。


オクトパスエスタム「お前達に教えてやる必要はないが地獄の手向けに教えてやろう。俺の墨にはナノマシーンによる幻覚作用がある。それを浴びたお前達はお互いがお互いを敵と認識して殺しあっていたのだ。」


 オクトパスエスタムは振り返ることなくそう答えた。


???「ク…ポォ………。」


 二体のクポ型が静かになったことによりこの拠点で活動している者はオクトパスエスタム以外にはいなくなったのだった。



  =======



 十の拠点に残っていた敵は全て戦闘制圧班によって制圧された。最初に掌握した拠点から回線を繋ぐことによって次々にスクイッドエスタムが残りの拠点も掌握していったのだった。


ウツボカズラン『作戦完了っす。全員最初の拠点に集合っすよ。』


 〝いつも君の隣に………つながる君〟によって隊長のウツボカズランから強襲部隊全員に通信が入った。


スクイッドエスタム『概ね予定通りだ。よくやったウツボカズラン。』


ウツボカズラン『拠点を奪取できたのはスクイッドエスタムさんのお陰っすよ。俺達の完全勝利っす。それじゃ皆戻るっすよ。』


 強襲部隊は誰一人欠けることなく予定の作戦を完遂した。それは改太の望んだ完全勝利を達成していたのだった。




  ~~~~~コケティッシュシスターズ~~~~~




 時空の狭間にあるクポ達の拠点制圧完了の知らせを受けてコンクエスタムの秘密基地にある作戦指揮所は沸いていた。


キラーレディ「敵拠点制圧完了致しました。」


 あまり感情を表に出さず淡々と仕事をこなすキラーレディの声も心なしか明るいような気がした。


ブルー「それじゃ次は私達が出てもいいわよね?」


ピンク「ようやく出番ですね。」


 コケティッシュシスターズの二人は仮初の体を動かしながら拠点制圧に沸く秘密基地内でそう言いながら気合を入れた。


キラーレディ「お待ちください。お二人の出撃はデスフラッシュ大佐が戻られてからのはずです。」


 二人は自分達を操り利用していたクポを自分達の手で何とかしたいと考えていた。そこで作戦会議の時にコンクエスタムの者達とも協議してクポの始末は自分達がすることになっていた。


 しかしそれはあくまでデスフラッシュ大佐が同行してという条件のもとであり二人だけではクポ型と戦うには能力的にも経験的にも不安があった。


 いくらクポの干渉を防ぐために二人により強い魔法科学の力を与えたとは言ってもクポ型と戦えるだけの力があるかは未知数だったのだ。


ブルー「大丈夫よ。デスフラッシュ大佐がここへ降りてくるのを待つより私達が向かって合流した方が早いでしょ?」


ピンク「無茶をするつもりはありません。それでは。」


キラーレディ「あっ!ちょっと!」


 作戦指揮所にいたキラーレディは別室にいた二人を止めることが出来なかった。


ブルー「さぁ行きましょう。」


ピンク「ええ。せめてクポだけでも私達の手で決着をつけましょう。」


 二人はキラーレディの制止も聞かずに二人だけで地上へと向かっていったのだった。



  =======



 二人が勝手に地上へ向かってから少ししてデスフラッシュ大佐から作戦指揮所に連絡が入った。


デスフラッシュ『まずい……なった。二人…地上に………中止……。』


キラーレディ『デスフラッシュ大佐?すみません。よく聞こえません。』


デスフラッシュ『何…て?聞こ……い!と…かく二人………出すな!』


 音が乱れて何を言っているのかよくわからない。ただキラーレディはコケティッシュシスターズの二人を地上に出す作戦を中止しろと言っているのだろうと判断した。


キラーレディ『申し訳ありません。二人は勝手に地上に向かってしまいました。』


デスフラッシュ『なん……!………わか……。俺…地……二人を待…。そちら………二人…追って……。』


 そこで通信が途絶えてしまった。直後に巨大な地震が起こる。


キラーレディ「デスフラッシュ大佐?………だめだわ。誰かコケティッシュシスターズの二人を追って!大佐の命令よ。二人を地上に出さないように!」


 キラーレディはデスフラッシュ大佐の命令を伝えてからさきほどの地震と通信が途絶えた原因を探ろうとモニターと向き合った。


キラーレディ「何なのこれは………。」


 無線によるデータは全て乱れて表示されなくなっていた。しかし生きている有線の回路から観測機器のデータが送られてきておりそこに映し出されたデータを見たキラーレディは大きく目を見開いたのだった。



  =======



 コケティッシュシスターズの二人は地下深くにある秘密基地を駆けていた。目指すは地上。自分達を操り利用していたクポと最後の決着は自分達でつけようと二人はコンクエスタムと協力することになってから心に決めていた。


ブルー「さっきの地震は何だったのかしら?」


ピンク「地震のせいかあちこちの機器が止まっていますね。エレベーターも使えないようです。」


 エレベーターに乗った後で地震に遭っていればエレベーターが停止して中に取り残されるところであった二人だが幸か不幸かエレベーターに乗り込む前に地震が起こったために中に取り残されることなく階段で地上へと向かっていた。


ブルー「今の私達はこの程度じゃ疲れないからいいけど…。」


ピンク「地下深くすぎてエレベーターが止まったら上がるのに苦労しますね…。」


 遥か地下深くにいた二人は地上へと上がる階段を必死に駆け上がっていた。


ブルー「あっ!あれじゃない?」


ピンク「そのようですね。」


 暫く階段を駆け上がり続けた二人が見つめる先は今までの階段がひたすら続く様子とは違う景色になっていた。ここからこれ以上上がる階段はなく扉があり扉を出ると長い廊下があちこちに続いていた。


 これは町中の様々な場所にある秘密の出入り口へと続いてる通路だが秘密基地の構造を把握していない二人にはどこへ向かえば良いのかわからなかった。


ブルー「どうしよう?どっちへ向かえばいいと思う?」


ピンク「………わかりません。」


 基地の構造を知らない二人は勘だけを頼りに歩き回り一つの梯子を上ってみた。するとそこは街中にある一つの公園のゴミ箱につながっており二人はそこから外へと出られたのだった。


ブルー「………ちゃんとゴミと出入り口は別になっててゴミが体についたわけじゃないけど。」


ピンク「………ですね。ゴミ箱が出入り口ではあまり良い気持ちはしません…。それに臭いはうつりそうです………。」


 構造的に出入り口とゴミの入れ口は別になっているためこの秘密の出入り口を通ったからといってゴミ塗れになるということはないが気分の問題としてゴミ箱から出てくるのは良い気分のするものではなかった。


 また直接ゴミに触れることはなくとも臭い自体はその辺りに充満しているためそこを通り抜けてきた自分達にもその臭いがうつっていそうで年頃の女の子である二人は顔を顰めていた。


 ドスンッ!ドスンッ!


 そこへ大きな音と地響きが二人に伝わってきた。


ブルー「何の音?それにこの地響きは?」


ピンク「そんな………。ブルーあれを見てください!」


 ピンクは震えながらある方向を指差す。ブルーもその先を見て驚きを隠せなかった。


ブルー「何なの!何なのよあれは!?」


 そこには全長二十メートルを超えそうな巨大な熊のぬいぐるみとそれを必死に止めようとしている仮面の怪人の姿があったのだった。


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