第26話「反撃開始」
可能な限りの準備は出来た。あとは勇気を持って進むのみ!
デスフラッシュ「黒幕の居場所はわかったがまだその背後関係は不明だ。敵の目的が侵略ということはわかっているがどこの敵なのか、その規模も何もかも不明なまま戦わなければならない。」
広間に俺の声が響き渡る。そこには今回の作戦に参加する大勢の怪人達が集まって俺の言葉を聞いている。もちろんその中にはコケティッシュシスターズの二人の姿もある。
デスフラッシュ「しかし!俺達の愛する地球の平和を守るために!全員勇気と誇りを持って任務にあたってもらいたい!」
俺の言葉が止まると広間には静けさが訪れる。誰一人物音一つたてない。俺は壇上から全員の顔をゆっくりと見つめていく。
デスフラッシュ「そして………。そして全員生きて帰ってこい!全員無事に生還して完全勝利を掴め!」
怪人達「「「「「おお~~~~っ!!!」」」」」
怪人達が鬨の声を上げる。地下深くにある秘密基地全体が振動しているのかと錯覚するほどに割れんばかりの鬨の声はまるでこの声が地上に届けとばかりに叫んでいるようだった。
しかしそんな声も俺が手を上げるとピタリと止む。
デスフラッシュ「反撃の時は今。………全軍出撃!!!」
俺の号令に合わせて全員が一斉に動き出す。目指すは地上、そして黒幕クポとその仲間達だ。今こそ反撃の時だ。首を洗って待ってろクポ。お前達を追い払い地球の平和を取り戻す!
=======
とか格好つけて出てきたけど今俺達がしていることは………。
スパイダーエスタム「はい。風船だよ。」
子供「わぁ!ありがとう!」
蜘蛛の怪人が風船を配っている。別に何の仕掛けもないただヘリウムで膨らませた普通の風船だ。
バットエスタム「ティッシュどうぞ~。」
蜘蛛の怪人がティッシュを配っている。別に何の仕掛けもないただのティッシュだ。広告がわりに『ポイ捨て禁止』やら『飛び出し注意』やら標語が書いてあるくらいで他には何もない。
スクイッドエスタム「こら!お前達喧嘩するな!」
不良「ひぃ~!」
烏賊の怪人が喧嘩している不良の仲裁をしている。もちろん暴力は振るっていない。
おばちゃん「あんたら久しぶりだね~。」
デスフラッシュ「あっ、こんにちは。」
俺達は一体何をしているのか?それはもちろん慈善活動だ。もちろん理由もなくただ慈善活動を再開したわけじゃない。
こうして俺達が目立てばクポの方が動くだろうと思っておびき寄せるためにやっているんだ。そしてコケティッシュシスターズの二人はここにはいない。今二人は偽者の体と精神をシンクロさせてクポが接触してくるのを待ち構えている。
作戦の第二段階はあえて俺達が健在なことを大々的にアピールしてクポをおびき寄せること。そしておびき寄せたクポがまた時空震を使って逃げ出せないように結界内に捕えることが目的だ。
それと連動して第三段階としてクポの本拠地を強襲奪取し敵の後方戦力を無力化する。恐らくではあるがクポ達は本隊ではなく威力偵察部隊なのだろうと思われる。
だから俺達との戦闘データを本隊に送られないように敵をおびき寄せて手薄になった本拠地を押さえる。クポ達を倒すだけなら実はそれほど難しくはない。今まで判明しているレベルの技術力は俺達と比べて飛び抜けて高いというわけじゃないからだ。
ただ発想の違いや必要な進化の方向性の違いによって俺達とは別系統の技術が進んでいるにすぎない。逆にクポ達の方はクポ達の方で俺達なら簡単にクリアしている技術が未発達だったりする。敵を侮るのはよくないので遠慮しながら言っているがはっきり言えばクポよりは俺の方が技術力が高い。負ける要素は皆無と言える。
ただここでクポに俺の手の内を知られて後方の本隊に情報を送られた場合は対抗策を用意された上で本隊が攻めてくることになりかねない。だから何としてもこちらの情報や技術力を知られることなくクポ達だけをうまく始末しなければならない。
今回の作戦の鍵はそこだ。いかにこちらの情報を伏せたまま勝てるかにかかっている。俺達がこれだけ派手に動いていればそろそろ向こうも動いているはずだ。
頼んだぞ。聖香。静流。でも無茶はするなよ………。
~~~~~コケティッシュシスターズ~~~~~
偽者の体と精神をシンクロさせているコケティッシュシスターズの二人とクポ達の本拠地へ乗り込む強襲部隊はコンクエスタムの秘密基地に残っていた。
ブルー「このシンクロって未だに慣れないわ。」
ピンク「そうですね。少し酔いそうな感じがします。」
改太が開発したこの仮初の肉体との精神のシンクロ技術は仮初の肉体とシンクロしたからと言って本体の方の感覚がなくなるわけではない。
両方の感覚が同時に流れてくるため慣れないうちは二つの認識の違いに脳が混乱してうまく動けない。もちろん脳や肉体への負担は装置によって軽減されているので二つを同時に認識していても脳が焼き切れるとか体に異常が出るというようなことはない。
キラーレディ「敵の時空震の前兆を感知。そろそろ貴女達の前に現れるはずよ。」
キラーレディの言葉にブルーとピンクは頷き気合を入れる。
=======
『聖香』と『静流』は街中を歩いていた。そんな中、周囲に人の目がある場所にも関わらず二人の目の前の空間が歪み熊のぬいぐるみが空中に現れる。
聖香『あらクポ?どうしたの?』
静流『こんな人目のある場所に現れてもよかったんですか?』
『聖香』と『静流』は慌てることなく現れたクポに声をかけたのだった。
クポ「空間を遮断しているからお前達程度の科学力しかない愚民どもには気付かれないクポ。そんなことはどうでも良いクポ。敵が大量に街中に現れてるクポ。さっさと始末しに行けクポ。」
クポは少し慌てた様子で早口に二人に指示を出す。
聖香『それは大変ね。』
静流『それではその場所まで案内してください。』
クポ「………何かおかしいクポ。お前達なんでそんなに素直クポ?前はあんなに侵略に手は貸せないとか言ってたクポ。」
その言葉を聞いて二人は顔を見合わせる。
聖香『クポだって言ったじゃない。確かにクポ達にとって都合の悪い組織を潰してまわっているとしてもその中にも悪の組織はあるって。今の敵は私達にとっても悪の組織なんでしょう?』
静流『それにあなた達は侵略に成功しても私達を無闇に殺したりはしないのでしょう?私達に与えられた力を見てみてもあなた達の方が優れているのは明白です。それならば下手に抵抗して殺されるよりもあなた達に協力して早く解放される方が私達にとっても建設的です。』
クポは二人をじっと見つめる。『聖香』と『静流』もそのクポの視線に応じて真っ直ぐに見つめ返す。
クポ「クッポッポッ!よくわかってるクポ。まさにその通りクポ。お前達がそうやってちゃんと協力するのならクポ達がこの世界を征服した後で悪いようにはしないクポ。それじゃさっさと行くクポ。」
クポは二人の言葉に満足したように大きく頷き二人を先導しながら敵のもとへと向かっていったのだった。
地球人類から比べれば超科学力を持った存在であるクポが二人にあっさり騙されたのは素直だからでも人が良いからでもない。
その超科学力によって生み出された相手の心を読む装置。現代地球で言えば嘘発見器に似たその装置を使っていたがためにその装置の出した答えを信じてしまったがゆえであったのだ。
クポが相手の心をサーチしていることに気付いていた改太はその装置を無効化する対策をすでにとっていた。
その方法とは単純にして明快なサーチ自体を無効にしてしまう遮断装置を開発することであった。ただしただ遮断しただけではサーチ出来ないことが相手にもバレてしまうためにそれを誤魔化すために偽の情報を送り返して相手にサーチ出来ていないことを悟らせない措置がとられている。
さらに今の二人は仮初の体であり偽者の体をサーチしたところで本体の考えていることを知ることはできないということがすでに改太の実験で明らかになっていた。
そのためクポはサーチした情報通り二人に反抗心や嘘がないと判断してしまったのだった。感情の機微を敏感に感じ取れるように普段からコミュニケーションをとっている者ならば今の二人が明らかにおかしいことにすぐに気付けただろう。
だが装置に頼ったやりとりに慣れきっているクポには二人の様子がおかしいことに気付けなかった。相手の心をサーチすることに慣れているクポ達には多少下手な演技でも心を読む装置さえ誤魔化してしまえば気付かれることはないという改太の考えが正しかったことが証明されたのだった。
=======
クポに先導されて『聖香』と『静流』はコンクエスタムの怪人達がいる場所へとやってきた。
聖香『変身するわよ。コケティッシュパワーッ!』
静流『フォームチェンジッ!』
仮初の肉体が変身する。これはもちろん誤魔化しているだけでクポに与えられた本当の変身ではない。変身する際のエフェクトや内蔵しているエネルギーを真似ているだけだった。
ブルー『待ちなさい!コンクエスタムの怪人達!』
ピンク『あなた達の悪事もこれまでです!』
変身した二人は二人と同じく『仮初の肉体とシンクロしている怪人達』の前へと躍り出たのだった。
スパイダーエスタム『出たなコケティッシュシスターズ!今度こそ決着をつけてやる!』
以前倒したことになっているはずの怪人がそこにいるにも関わらずクポは気付かない。クポにとっては視覚情報など何の意味もなくセンサーで感知される情報のみで全てを把握し判断している。
見た目がまったく瓜二つの同じものであったとしてもセンサーが内蔵するエネルギーの質や量、因果律からその存在が何者であるのかを感知しているためにデータで別人と判断されればその通りに信じ込んでしまっていた。
誘い出されたクポの運命はすでに決まっていた。いつものように最低限の指示だけ二人に出して本拠地へと帰っていればまだクポの運命は違うものになっていただろう。
だがコケティッシュシスターズの二人が反抗心もなく従順になったことで完全に操れていると思っていたクポは自ら捕らわれに来てしまったのだった。
クポ「クッポッポッ!さぁコンクエスタムを壊滅させるクポっ!」
クポには気付かれないように辺り一帯は改太特製の結界で閉じられていたのだった。
~~~~~強襲部隊~~~~~
クポを特製の結界に閉じ込めたことで結界外のことは一切クポに知られる心配はなくなった。それを確認した秘密基地内では次の作戦に向けて行動が開始されていた。
ウツボカズラン「それじゃ強襲部隊行くっすよ。」
スコーピオンエスタム「それはいいけどウツボカズランが強襲部隊の隊長ってのは納得いかないなぁ…。」
ヒトデンダー「まったくだ。」
ウツボカズラン以外の全ての怪人達がウンウンと頷き合っていた。
ウツボカズラン「どういう意味っすか?そもそも決めたのはデスフラッシュ大佐っすよ?大佐の考えを信じられないんすか?」
ウツボカズランのその言葉に全員が『うっ!』と答えに詰まる。
スコーピオンエスタム「大佐の言葉は信じるけど………。なぁ?」
ヒトデンダー「ああ…。」
やはりウツボカズランが隊長ということに不安を隠せない怪人達なのであった。
=======
キラーレディ「対象を結界内に捕獲。外部の情報を入手出来ていないことを確認しました。作戦を次の段階へと進めます。」
キラーレディの言葉に強襲部隊の隊員達は気を引き締める。絶対に失敗は許されず一番危険が高いと思われるこの任務に参加している者は全員志願者だった。
スクイッドエスタム『そう緊張するな。いざとなれば俺がなんとかする。』
地上に出て慈善活動をしているはずのスクイッドエスタムもいる。もちろんこちらは偽者で仮初の肉体に精神をシンクロさせているだけだ。仮初のコケティッシュシスターズの前に現れたスパイダーエスタムも同じく仮初の肉体にすぎない。
コケティッシュシスターズの二人はシンクロするために秘密基地に残っているのになぜ他の怪人達は地上に出ながらにしてシンクロできているのか。
それはシンクロするための装置自体はそれほど大きなものではなくスーツに内蔵されているからだ。ではコケティッシュシスターズの二人には内蔵されていないのかと言えば内蔵されている。
二人が基地内にいるのはまだシンクロ状態に慣れておらず本体と仮初の肉体を同時に動かすのが辛いからに他ならない。片方に集中しているともう片方が疎かになってしまうために本体を安全なところに置いた状態でシンクロしているためだった。
ウツボカズラン「でも隊長は俺っすよ。いくらスクイッドエスタムさんでもダミーの方じゃ俺の方が強いっす。」
怪人達「「「「「………。」」」」」
全員が疑いの眼差しを向ける。性能だけで言えばダミーのスクイッドエスタムとウツボカズランではウツボカズランの方が上回る。しかし戦いとなれば単純な性能だけでは比較出来ず攻撃能力や兵器特性によって結果は様々に変化する。
さらにそれらを扱う本人の資質の影響もあり性能差だけが強さの差ではない。ウツボカズランとスクイッドエスタムでは誰もがスクイッドエスタムの方が優れていると考えるだろう。二人の人物を除いては………。
スクイッドエスタム「そうだな。戦闘はウツボカズランに任せる。俺がなんとかすると言ったのは不測の事態への対応能力だ。」
その二人のうちの一人であるスクイッドエスタムがそう言ったことで全員の覚悟も決まる。他の者達はダミーのスクイッドエスタムとウツボカズランでもスクイッドエスタムの方が強いと信じているがそれでもそのスクイッドエスタムがウツボカズランに任せると言った以上は皆もウツボカズランを信じることにしたのだ。
ウツボカズラン「よ~し!行くっすよ!」
怪人達「「「「「おうっ!」」」」」
ウツボカズランの言葉を合図に強襲部隊は時空震の彼方へと乗り込んでいったのだった。
~~~~~デスフラッシュ~~~~~
大量の情報が頭に流れ込み続ける。脳がオーバーヒートしてしまうのではないかという錯覚に陥るがまだこんなところで音を上げるわけにはいかない。
デスフラッシュ「コケティッシュシスターズの二人がうまくやった。俺達も行動を開始するぞ。」
スクイッドエスタム「はっ!」
スパイダーエスタム「はい。それじゃ俺達も予定通り動きます。」
皆バラバラに移動を開始する。敵はクポだけじゃない。クポが言っていた通り世界中にクポと同じ役目を持った者達が魔法科学を授けて魔法少女を作り上げていた。そいつらを全て始末しないことには俺達の勝利じゃない。
俺達の行動に合わせて世界中のコンクエスタム支部が同時に作戦を発動している。現在世界中でこの黒幕達の炙りだしが行われているというわけだ。
今のところ全ての作戦は順調に進んでいる。だけど油断は禁物だ。こういう時にこそ思わぬ落とし穴がある。
俺は万全の態勢を整えるためにコケティッシュシスターズの二人のもとへと向かったのだった。
=======
二人は順調にスパイダーエスタム君のダミーと茶番を演じていた。一進一退の白熱した攻防で中々決着がつきそうにない。俺達の作戦がうまくいくまでクポの目を逸らしておいてくれよ。
スパイダーエスタム『死ねぇ~!』
ブルー『無駄よ!』
ピンク『あなたの攻撃はすでに見切っています!』
三人の茶番はまだ続いている。クポも見つめているけどそろそろ飽きてきていそうな雰囲気だ。もうあまり長く騙すことは出来ないかもしれない。もう少し…。もう少しだけ気付かずそのままでいてくれ。
クポ「何やってるクポ!さっさと始末するクポ!敵は他にもいっぱいいるクポ!」
とうとう痺れを切らせたクポが二人に怒鳴り始めた。
ブルー『私達だって倒せるならさっさと倒したいわよ!』
ピンク『クポだって簡単にいかないのがわかっているから私達にやらせているのでしょう?』
クポ「クポ………。そんなことはお前達に言われなくてもわかってるクポ。それでもさっさと始末するクポ!」
そろそろスパイダーエスタム君一体で足止めするのは難しいか。俺は〝つながる君〟で三人と繋がり一度この戦いを終わらせるように指示を出した。
スパイダーエスタム『くっ!』
スパイダーエスタム君はピンクの攻撃を受けて膝をついた振りをする。
ブルー『チャンスよ!マジカルッ!』
ピンク『コケティッシュッ!』
ブルー・ピンク『『ダイナマイトッ!!!』』
その隙を逃がさず二人は必殺技を叩き込みスパイダーエスタム君は敗れ去った。
クポ「クッポッポッ!よくやったクポ。さっさと次に行くクポ。今日はいっぱい倒すクポ。」
クポが次に行こうとした時に新たな怪人が現れる。
バットエスタム『待てぇい!次は俺が相手だ!』
………。バットエスタム君のダミーが現れた。
クポ「クポッ?!どうなってるクポ?!まぁいいクポ。どうせ全部始末するクポ。お前達やれクポ!」
怪人達を倒すことに夢中になっているクポはまだ異変に気付いていないようだ。結界を張っているとは言えここから移動しようとされたらクポが結界に捕らわれていることはすぐにばれてしまう。
もう少しだけここでクポを足止め出来るように俺は〝つながる君〟で皆と連絡しながら茶番劇の監督をしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます